Page71:でたァァァ! でっかいキマイラ!

 危機的状況である事など、忘却の彼方。

 ジャック達四人は、必死にフレイアの説得を試みた。


『フレイア、早まるな! 他にも方法がある筈だ!』

『そうッス! きっと灯台下暗しってやつッス!』

『それだけは本当に、本当に最終手段でお願いしますわ!』


 最早悲痛と形容しても過言ではない叫び声の数々。

 だがフレイアの意思は変わらなかった。


『その最終手段を使う場面が、今目の前にあるの。だからワガママ言わない!』

『フレイアちゃん、本当にするの? 本当に!?』


 オリーブに至っては既に涙声である。

 よく見ればゴーレムも微かに震えている。


『もー! やるったらやる! 異論は認めない!』


 フレイアがそう叫ぶと、イフリートの身体が虹彩色の光に包まれはじめた。

 同時に、レイの中で王の指輪が反応して、震える。

 レイと融合しているスレイプニルも、その震えを感じ取った。


「これは……指輪の力か」

『フレイアに反応している』


 震えと共に、指輪がレイの脳裏に浮かべるのは「鎧装獣」と「合体」という言葉。

 そしてフレイアの発した「最終手段」という言葉。


『やるのか、合体ってやつを』


 イフリートを包む光は徐々に強くなっている。

 そしてレイの中の指輪は、他の鎧装獣達の魂を捉えた。

 ただの青白い光だった魂が、美しい虹彩色に変化していく。

 それはまるで、イフリートと共鳴しているようにも見えた。


「始まるぞ」


『いくよ、みんな!』


 そして、合体が始まった。


『ソウルコネクト!』


 イフリートの身体から、虹彩色の光の帯が四本解き放たれた。


『ガルーダ! フェンリル! ゴーレム! ローレライ!』


 放たれた光の帯が、鎧装獣の魂に接続される。

 レイは王の指輪から伝わる情報で、フレイア達が合体の準備に入った事を知った。


 なお、当事者たちの反応は散々なものだが。


『ぎゃァァァ!? なんか入ってきたッスゥゥゥ!?』

『ぬるっと、ぬるっときましたわ!』

『痛みも何もないのが、逆に気持ち悪い』

『ぴゃぁぁぁぁぁ……』


 嫌悪感を隠そうともしないライラ達。

 オリーブに至ってはもう泣いている。

 だがこれは準備段階、本番はここからだ。


 光に包まれていたイフリートの身体に変化が起き始めた。

 下半身は変形して背中へと移動。

 両腕は胴体の一部ごと変形して下半身の一部を形成。

 そして胸部の装甲はフロントスカートに。

 イフリートの身体は一瞬にして、巨人の胴体のような物に変形してしまった。


『まずは、ガルーダ!』


 光の帯で繋がっていたガルーダを、強引に引き寄せる。


『姉御待って心の準備――ギャン!』

「クラ!?」


 釣り糸を巻き取る様に、イフリートの元に寄せられるガルーダ。

 変形したイフリートに衝突するかと思われた瞬間、ガルーダの身体は四つに分割された。


『ギャァァァ! 腕、腕がもげたッス! 首も折れたァァァ!?』

「クルラァ……」


 分離した両翼はイフリートの背中に合体。

 首は折り曲げられた後、胴体に合体。胸部装甲と化す。


『お次は、フェンリル! ローレライ!』


 ガルーダの時と同じように、二体に繋がっていた帯が巻き取られる。


『うわっ!』

「キャイン!?」

『フ、フレイアさん。どうかお手柔らかにィ!?』

「ピャン!?」


 フェンリルの足は全て内側に収納。

 ローレライのヒレも、上側に折り曲げられる。

 そして両獣共、尻尾が分離される、ローレライは背中の砲も分離。


『おしり、おしりが外れまし――ゲブゥ!』

『マリー、大丈夫――ゲホッ!』


 ローレライとフェンリルの身体が、L字に折れ曲がる。

 そしてフェンリルは右腕に、ローレライは左腕に合体した。

 同時に、二体の身体から巨人の拳が出現する。


『の、こ、す、はぁぁぁ?』

『ひぃ!?』


 イフリートフレイアの視線がゴーレムオリーブに移る。

 オリーブが完全に涙声で、産まれたての小鹿のようにプルプルしていた。


『フレイアちゃん、お願い、やめて!』

『問答無用!』

『きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』


 ゴーレムに繋がっていた光の帯を巻き取る。

 思わずオリーブは悲鳴を上げてしまった。


 そしてゴーレムの変形が始まる。

 それは……


『いやぁぁぁぁぁ! お股、お股裂けちゃうぅぅぅぅぅぅ! 裂けたぁぁぁぁぁぁぁあ!?』


 股から縦に、二分割。

 そして変形。

 瞬く間にゴーレムの身体は、巨人の両足を形成していった。


 変形したゴーレムがイフリートに合体すると、頭部が出現し、イフリートの頭部が胸部に合体する。

 一気に巨人としての姿が見えてきた。


『うぉぉぉぉ! 魔獣合体!』


 ガルーダの下半身とフェンリルの尻尾が合体して、剣となる。

 ローレライの砲は尻尾と合体して、巨大な銃となる。


 完成した武器を握り締めると、巨人の頭部に、雄々しき二本角が生えたヘッドギアが装着された。

 そして、巨人を覆っていた虹彩色の光が弾け飛んだ。


 それは、ゴーレムのように強靭な足を持つ巨人であった。

 それは、フェンリルとローレライの腕を持つ巨人であった。

 それは、ガルーダのように巨大な翼を羽ばたかせる巨人であった。

 そしてそれは、絶大な雄々しさを感じる鉄の巨人であった。


 その巨人――鎧巨人ティターンの名は……


『完成! ブイキマイラ!』


 フレイアが高々と名乗り声を上げる。

 レイとスレイプニルは上空で唖然としていた。

 今まで見た事の無い巨人の姿に好奇心が刺激されていた。

 だがそれ以上に心配なのは……


『おいフレイア! 他の奴ら大丈夫なのか!? 特にオリーブ!』


 冷静さを取り戻したレイが叫ぶ。

 他の面々も心配だが、身体が縦に真っ二つになったオリーブが一番心配だった。

 普通に考えれば、あれは死ぬ。


『だいじょーぶ。みんなちゃんと生きてるから。ねーみんな』

『レイ君……ボク達全員、生きてるッス』

『痛みもなにも無いから、すごく気持ち悪いけどね』

『オリーブさんも大丈夫ですわ……』

『お股、裂けた……お嫁にいけない……』


 心の傷が深そうだが、とりあえず全員大丈夫そうだ。

 レイはスレイプニルの中で胸を撫でおろす。


 一方のガミジンは、合体したVキマイラを前にして動揺していた。


「こ、これがバロウズ王国で暴れたという鎧巨人かッ」

『そういう事。このVキマイラで、アンタをぶっ倒す!』


 右手に握ったテイルソードの切っ先を向けて、フレイアは啖呵を切る。

 その声からは「絶対に勝てる」という自信が滲み出ていた。


『レイ! 鎧装獣化を解いて、皇太子さんのところに行って。流石にアリス一人じゃ心配だから』

『おいおい。俺達も一緒に戦うぞ』

『大丈夫。今のアタシ達なら絶対に負けない! だから信じて。レイは皇太子さんを守って!』


 レイは迷った。

 フレイアを信じたいのは山々だが、あのガミジンの強さは並ではない。

 無理を通してでも加勢したほうが良いのではないか。レイがそう考えた時だった。


「レイ、フレイア嬢の言葉を信じよう」

『スレイプニル!?』

「見たところフレイア嬢の言葉も嘘ではないらしい。あの巨人、王獣をも超えた力を感じる」

『王獣をも超える……?』

「ここは彼女達に任せよう。我々はアリス嬢の加勢を」

『……分かった』


 スレイプニルは宮殿の元に降下し、レイとの融合を解除した。


「フレイア、ここは任せた!」

『任された!』


 Vキマイラを見上げながら叫ぶレイ。

 レイはすぐに宮殿内のジョージ皇太子の元へ急行した。





 宮殿内では十数体のボーツが、アリスとジョージに襲い掛かっていた。


「「「ボォォォォォォォォォツ!!!」」」

「コンフュージョン・カーテン」


 アリスは幻覚魔法を込めた霧を散布して、ボーツの注意を逸らす。

 その隙に、ジョージを連れて逃げていた。

 しかしゲーティアが解き放ったボーツの数は並ではない。

 次々とアリス達の目の前に現れては、その腕を使って攻撃を仕掛けてきた。


「なんて数のボーツだ」

「キリが無い」


 元々戦闘力はそれほど高くない二人。

 今はなんとか幻覚魔法でボーツを躱し続けているが、それもいつまで持つか分からない。

 魔力も有限、なにか策を考えねばならない。

 アリスがそう考えた次の瞬間だった。


「どらァァァ!!!」


――斬ァァァァァァァァン!!!――


 突如、目の前にいたボーツ達が斬り捨てられていった。


「アリス、皇太子様、無事か?」

「レイ」


 それは宮殿内に戻って来たレイであった。

 アリスとジョージはレイ元に歩み寄る。


「よかった。一時はどうなる事かと……」

「守りを手薄にして申し訳ありません」

「ねぇレイ、フレイア達は?」

「あぁ、それなら――」


 突如、宮殿の外から凄まじい轟音が鳴り響いてくる。

 何事かと思ったアリスとジョージは、宮殿の外を覗き込んだ。

 そこには巨大化したガミジンと戦う一体の巨人、Vキマイラがいた。


「な、なんだあの巨人は!?」

「信じられないかもしれませんが、あれフレイア達です」

「もしかして、フレイアの言ってた奥の手?」

「そういう事だ」


 想像の遥か上をいく展開に、口をあんぐりさせるジョージ。

 対してアリスは冷静なものだった。


「まぁとにかくだ。ガミジンの奴はフレイア達に任せて、俺達は謁見の間に行こう」

「うん。わかった」

「大丈夫なのかい?」

「大丈夫ですよ。少なくとも俺は、アイツらを信じている」


 そう言いながら、レイは手に持ったコンパスブラスターを棒術形態ロッドモードにする。


「さ、行きましょう。さっさと終わらせて、この国を良くするんでしょう?」

「……あぁ、その通りだ」


 道を阻むボーツは、レイとアリスの連携で次々に斬り伏せられていく。

 そしてジョージの案内の元、三人は謁見の間へと急いだ。

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