Page45:ママァァァ!!!

 時は深夜。窓の外から人の声は消え、夜行性魔獣の鳴き声だけが響く時間だ。

 自分が泊まる部屋に荷物を置いて一息ついたレイは、ベットの上にカバンとグリモリーダーを広げていた。


 カバンから細長い専用工具を取り出して、グリモリーダーから十字架と留め具を外す。

 すると本来なら開く事のないグリモリーダーの表紙が開くようになり、レイはその中から頁を抜き取り、広げ始めた。


「さて、どうするかな」


 極薄の魔法金属オリハルコンによって出来た頁を広げながら物思いに耽るレイ。

 表向きは変身後の魔装を構成している術式のカスタマイズ。

 だが本心はどちらかと言うと……


「眠れないのか?」

「んあ? 悪い、起こしちまったか」

「いいさ、僕も今日は眠れなくてね」


 隣のベットで寝ていたジャックが、上体を起こして話しかけてくる。


「それで、レイは何を?」

「見りゃ分かるだろ。グリモリーダーの頁をカスタム中だ」

「それ相当な高等技術だったと思うんだけど」

「へーきへーき。術式構成は全部暗記してるから、バグなんて早々起きねぇよ」

「レイも大概常識から離れた人間だよね」

「ウチのリーダー程じゃねーよ」


 そんな事も無い。そう言いかけたジャックだが、寸ででそれを堪える。

 意外と短気な性格なのは養成学校時代に嫌という程思い知っているジャックっだった。


「やっぱり霊体への防御力を高めるべきだよなー」


 レイはカバンから白紙のオリハルコンを一枚取り出すと、専用の鉄筆を使って術式を書き始めた。

 周りから音が消えていると感じる程に集中して書くレイ。

 ジャックは少し微笑ましそうにそれを見ると、自身の荷物からある物を取り出していった。


「よし、出来た――びゃッ!?」


 突然頬に当てられた冷たい感触に、レイは思わず変な声を出してしまう。

 振り向くとそこには、ジャックが一本の酒瓶と二つのタンブラーを持っていた。


「お疲れ」

「なんだよいきなり。ワイン?」

「どうせお互い眠れないんだし、付き合ってよ」


 レイは仕方ないなと言った風に溜息を一つついてタンブラーを受け取る。

 少し前のだったらきっと拒否をした行為、だが今のレイには嫌な感情は微塵もなかった。

 ジャックがコルク栓を開けている内に、レイは分解してあったグリモリーダーを組み終える。


「よし空いた」

「あぁジャック、俺は――」

「ワインは水割り無しのストレート派、だろ?」

「よく覚えてるじゃねーか」


 手に持ったタンブラーにトクトクと注がれていく赤いワイン。

 お互いに注ぎ終えると、レイとジャックはコツンとタンブラーを軽くぶつけ合った。


「ん、結構キツいね」

「無理して俺に合わせなくていいんだぞ」

「アハハ、ちょっとした冒険心だよ」


 意を決してもう一口飲むも、やはりキツかったのか顔をしかめるジャック。

 結局、大人しく持ってきた水筒の水をタンブラーに入れ始めるのであった。


「なぁレイ、今どんな気持ちなんだ?」

「ん? どうしたんだ急に」

「気付いてないのか? 今のレイ、ピクニック前の子供みたいな顔してるぞ」


 ジャックに指摘されて初めて、レイは自身の頬が少し緩んでいたことに気づく。

 小っ恥ずかしさからつい顔を背けてしまうが、レイは決して否定の言葉を口にすることはなかった。


「そうかもな……うん、そうかもな」

「後悔はしてない?」

「後悔? なんで?」

「重荷になってないのかなって思ってさ。フレイアの過剰な期待とか、戦騎王の契約者になった事とかさ……」

「あぁそう言うことか」


 確かに客観的に見れば、レイが今現在置かれている状況はとてつもないプレッシャーの下敷きになっていそうなものだ。

 少し前までは『トラッシュ』と呼ばれた最底辺の存在が、今やギルド期待のルーキーチームに入り、伝説の戦騎王と契約まで交わしてしまった。重圧に潰されるなと言う方が無理な話である。


「別に後悔なんかしてねーよ、全部俺がやりたくてやった事だ。スカーフこれも含めてな」

「そっか。なら良かった」

「それに、やっと始められるんだ。ヒーローになる為の研鑽ってやつをさ」

「じゃあ僕は、レイ達がヒーローになるのをサポートする役だね」

「サポート? そこは一緒にだろ。別にヒーローは一人だけなんて決まりは無いんだからさ」

「ヒーローって、僕が?」

「フレイア達と一緒に居るのもそう言う理由なんじゃないのか?」


 ヒーローに憧れる操獣者はごまんと居る。特にセイラムの操獣者なら尚更だ。

 だがジャックは神妙な面持ちでタンブラーの中を覗き込むばかりであった。


「ジャック?」

「正直、僕自身よく分かってないんだ」


 ポツリポツリとジャックが語り始める。


「僕が進もうとしている道は、間違いなくレイやフレイア達と同じ道なんだ。けど皆がヒーローという夢に行き着こうとしている横で、僕自身が行き着く先は何処なのか……よく分かってないんだ」

「……」

「多分僕は、そういうキラキラしたものには向いてない」

「……そうか」


 どこか弱々しい声で吐露するジャックに、レイはかつての自分の面影を見る。


「ジャックは何で操獣者になったんだ」

「……復讐のためって言ったらどうする?」


 どこか冷淡さを感じる表情でそう告げるジャックに、レイは一瞬言葉を失う。


「なんて、冗談だよ」

「そ、そうか。にしては迫真の演技だったけど」

「中々の演技力だろ?」


 空気中に漂っていた緊張が消えて、レイの肩から力が抜けていく。

 後はただただ二人で笑い合うだけ。


 ワインをの飲みながら、レイとジャックは学生時代を思い出しつつ語り合う。

 夜空も更に深く暗くなっていき、気づけばワインボトルの中も軽くなっていた。


「ねぇレイ、少し聞いてもいいかな?」

「ん、どうした?」

「あの蛇の悪魔……本当にゲーティアって名乗っていたんだよね?」


 淡々と、だが重みすら感じる声でジャックが問うてくる。

 レイは先程の戦闘での、普段とは異なる様子のジャックを思い出していた。

 その時の様子に、何か危ういものを感じながら。


「あぁ、そうだけど……悪魔?」

「あいつ等は自分達のことをそう呼ぶんだ」

「ジャック、何か知ってるのか?」

「ゲーティアについてならさっき下でレイ達から聞いた話以上の事は何も。それで……あの蛇の悪魔、って男のことについて、何か言ってなかったか?」


 微かに漂って来たのは憎悪と殺気。

 蛇の異形との戦いでジャックが放っていたものと同質の殺気が、レイの肌をピリピリと刺激する。


「いや、何も言ってなかったな。ゲーティアって組織も今日スレイプニルから聞いて初めて知ったし」

「そっか……それなら、仕方ないか」


 表面上は取り繕うとしているが、ジャックは眼に見えて落胆していた。

 先程の「復讐」という言葉も相まって、レイは色々と気になってしまう。


「何かあったのか?」

「……まぁ昔、色々とね」


 チラリと視線を落として見るレイ。

 口では平然を装っているが、タンブラーを握るジャックの手には酷く力が入っていた。

 直接は見えないが、恐らく眼にはドス黒いものが溢れているだろう。


「少し飲み過ぎたみたいだ。トイレに行ってくるよ」

「……ジャック」


 扉に向かおうとするジャックを咄嗟に呼び止めてしまうレイ。

 振り向いてきたジャックは一見いつも通りそうだが、どこか空虚なものを抱えている様にも見えた。


「そのさ、俺がこういう事言えた立場じゃないのは解ってるんだけどよ……あんまり無茶はすんなよ」


 きっと事情を追求したところで、今のジャックは何も答えてはくれないだろう。

 だがかつて暗闇の底にまで落ちたレイだからこそ察したのだ、今のジャックが抱える危うさを。


「一人じゃない、仲間がいる。俺にそう言ったのはジャック達だろ」


 ならば今は、せめて出来る事をしておこう。

 レイの言葉を聞いたジャックは数瞬考えこむと、すぐに口元に笑みを浮かべた。


「そうだね。うん……善処はするよ」


 そう言うとジャックは扉の向こうに去って行った。


「本当に分かってるのかな?」


 本人の口から聞いた訳ではないので真偽は分からない。


「アリスもこんな気持ちだったのかな……」


 今なら何となく分かる気がする。

 心配して釘を刺しても、悉く無駄に終わりそうな不安感。

 もう少し怪我には気をつけようと、レイが心の中で軽く決意していると――


――コンコン――


 向こう側から小さく窓を叩く音が聞こえる。

 レイがそちらに目を向けると、窓の向こうには両耳を大きく広げて羽ばたかせているロキの姿があった。


「ロキ? こんな夜中に、てかなんで窓の外から?」

「キュイキュー」


 一先ず窓を開けてロキを中に入れる。

 よく見ると、ロキの口には一枚の紙が咥えられていた。


「キュイ」

「え、俺宛て?」

「キューキュ」


 口に咥えた紙をレイに押し付けるや否や、ロキはさっさと窓から出て行ってしまった。

 何だったのだろうか、疑問を抱きつつレイは紙を開いて中に書かれていたメッセージを読む。


『寝たふりしたまま待機してて』


 少し丸っこい字で書かれた手紙。恐らくアリスが書いたものだ。

 しかし奇妙なものだ。手紙の内容もさることながら、グリモリーダーの通信を使わずにわざわざ手紙という原始的な方法を選んできたことが、レイには引っかかった。


「(わざわざ手紙を寄越した。しかも寝たふり? ……まさか、宿の中に敵が!?)」


 緊急事態であるが故の方法。

 レイは自身の中でそう結論付けた瞬間、カツンカツンと微かな足音が聞こえて来た。

 ジャックが言った方向とは真逆から聞こえてくるその足音は、ゆっくりとこちらに近づいてくる。


「……スレイプニル、何時でもいけるか?」

『杞憂だとは思うが、無論だ』


 窓を閉め、グリモリーダーとコンパスブラスターを隠し持った状態でベッドに入るレイ。

 耳に神経を集中させて、足音を捉え続ける。

 少しずづ、少しずつ、だが確実に近づいてきている。


 そしてレイが居る部屋の前に達した瞬間、足音はそこで止まった。


「(オイオイ、ターゲット俺かよ)」


 頼むからそのまま帰ってくれと、レイは心の中で懇願する。

 だが願い虚しく、足音の主はゆっくりと扉を開けて部屋の中に入ってきた。


「ふぅー、ふぅー……フヒヒ」


 荒い息遣いと共に入ってくる侵入者。

 これは荒事を避けられないだろうと判断したレイは、ベッドの中でコンパスブラスターの柄を握り締める。


「フヒ、フヒ、今日こそは……フヒヒ……ママぁ~」

「(なんか想像以上にヤベー奴来てないか!?)」


 侵入者が小声で吐いている不穏な言葉に悪寒を覚えつつも、レイは敵との間合いを測り続ける。

 そして、侵入者がレイが隠れているベッドに手をかけた次の瞬間――


「オラァ!」

「キャッ!?」


 跳び起きたレイは、コンパスブラスター(剣撃形態ソードモード)の峰を侵入者に叩きつけた。

 倒れ込む侵入者にコンパスブラスターの切っ先を向けるレイ。


「どこのどいつか知らねーけど、夜中に忍び込むってことは多少手荒にしても文句ねーって事だよな?」

「え、ど、どうして!? オリーブさんは!? あれ!?」

「あれ……マリー?」


 薄暗くて一瞬分からなかったが、よくよく見れば倒れ込んでいる侵入者の正体はマリーであった。


「お前こんな深夜に何してんだ?」

「レイさんこそ、何故オリーブさんの部屋に?」

「いやそもそもここオリーブの部屋じゃ――」

「ハッ! まさかレイさん、既に美味しく頂いた後という訳ですか!」

「は?」

「久しぶりの再会、二人きりの部屋、純真無垢な美少女相手に思春期の殿方が何もしない筈がありませんわ!」

「風評被害も甚だしいわ!」

「ではそこにある空いた酒瓶はなんですの!? お酒に酔っているのを良いことに、オリーブさんに【///自主規制///】なことや【///自主規制///】なプレイを強要したのではないのですか!?」

「よし一回黙って人の話を聞けや、色ボケお嬢」


 レイがコンパスブラスターを振り上げて凄むと、流石に命の危険を感じたのかマリーも大人しくなった。


「そもそもお前何しにこの部屋に来たんだ」

「え”ッ……えーと、母性の海を求めて?」

「わけわからん」

「そう言うレイさんこそ、何故オリーブさんのお部屋に?」

「いやだからここオリーブの部屋じゃないって」

「……え?」


 二人の間に変な空気が漂う。

 数秒の後、マリーはようやく状況を飲み込んだ。


「そ、そういう事ですの」

「そういう事だな」

「では、わたくしは今度こそオリーブさんのお部屋へ……」


 持参していた大きな風呂敷を手に取り、マリーは部屋を出ようとする。

 が、レイは無言でコンパスブラスターの刃をマリーの首元に向けて、それを阻止した。


「ヒィ!?」

「いや、今の流れで行かせるわけねーだろ」

「何故ですの!?」

「鼻息荒く侵入してくるような情緒不安定者を野放しにしてたまるか」

「失礼な、わたくしは至って正常ですわ!」

「本当か? じゃあオリーブの部屋に入ってなにしようとしてたか言ってみ?」

「そ……それは乙女の秘密というものですわ」

「じゃあその風呂敷の中身は? 酒瓶とは思えないんだが」


 レイが風呂敷に手を伸ばすと、すかさずサッとマリーは隠す。


「……何故隠す」

「中身を見られるのはちょっと……」

「変なモノ持ってないか確認するだけだ」

「ちょ、ちょっとやめて下さいまし!」


 手を伸ばすレイと隠し続けるマリー。

 その激しい攻防が繰り返されていく内に、風呂敷が少し緩んで中身が一つ落ちてしまった。


――ゴトン――


「あ”ッ」

「ん? なんだこ……」


 風呂敷から落ちたソレを拾い上げたレイは思わず絶句してしまう。

 木で出来たそれは、どこからどう見ても男性のを模した物にしか見えなかった。しかもデコイインクを挿入すれば振動するタイプの。


「マリー……お前、これ持ってオリーブの所へ?」

「まじまじ見ないでください!」

「お前本当に何目的で行くつもりだったんだ」

「……ナニ目的?」

形態変化モードチェンジ棒術形態ロッドモード


 こいつは絶対にオリーブの元に行かせてはならない。

 そう確信したレイは即座にコンパスブラスターからマジックワイヤーを出して、マリーを縛り上げた。


「きゃ! ちょっとレイさん、何するんですの!?」

「どう考えてもいかがわしい事しに行きそうだからなぁ」

「失礼なこと言わないでください! わたくしはただ、オリーブさんに愛を求めに行くだけですわ!」

「大人の玩具持参で夜這いを仕掛ける愛なんて糞くらえだぞ」


 だが今の発言で、レイは薄々感じていた疑惑が確信に変わるのを感じた。


「というかマリーってもしかして、オリーブの事……」

「~~~っっっ///」

「(あぁ……これは色々と、難儀なやつか……)」


 顔を真っ赤にして俯くマリー。だが決して否定の言葉は発さない。

 レイ自身は同性を好きになる人に対してどうこう言う趣味は持ち合わせていないが、貴族階級の者達はそうではないだろう。

 保守的な考えが強い貴族階級の中では相当に肩身の狭い思いをしたはずだ。


「好意を向けるのはいいけど、もう少しスマートにいこうぜ」

「うぅ、愛が、愛が溢れ出てしまうのです。緩んだ尿道のように」

「やっぱお前少し黙ってろ」


 一応念のため、変な物が入って無いか風呂敷の中身を調べるレイ。


「えーっと……男のナニを模した玩具が二本目と、ロープに、モコモコの手枷?」

「普通の手枷では手首に痕が残ってしまいますので」

「気遣いあるのか無いのかどっちかにしろ」


 さらに風呂敷の中身を調べる。

 出て来たものはエプロン、ミトン、よだれ掛け、ラトル、布オムツが数枚……


「って、どういう性癖だよ!!!」


 想像を絶するものが出て来たので、レイは思わずそれらを床に叩きつける。


「お前オリーブに対して何求めてたんだよ!?」

「で、ですから母性ですわ」

「母性?」

「はい。とてもささやかな願望なのですが、オリーブさんにはわたくしのママになって欲しくて」

「???」

「と、当然わたくしは(ハァハァ)オリーブママの娘に、いえ(ハァハァ)むしろ赤ちゃんになる訳ですから(ハァハァ)ちょ、ちょっとオリーブママの未発達おっぱいを吸ったり(ハァハァ)お漏らしを見守られてから、おおおオシメの交換をしてもらったりするだけです。とってもささやかで純真な願いですわ。バブゥ」

「誰だァァァ!!! この変態をスカウトしたアホは一体誰だァァァ!!!」


 分かりきってる、フレイアだ。


「やっぱお前は今日一晩拘束する」

「そんな!? それではわたくしとオリーブさんの愛と母性に溢れためくるめく蜜月は?」

「そんな幻想捨てちまえ」


 一先ず逃げられないようにするため、レイはマジックワイヤーで更にマリーを縛る。


「やー! やーですの! オリーブママにあやしてもらいますの!」

「そんな乳のデカい赤ん坊がいるか!」

「ママァァァ!!!」


 駄々っ子になり下がったマリーを何とか鎮めようと、レイが四苦八苦していると。


――ヒュン! プス!――


「あ”う”ッ」


 突如飛来した針が首の後ろに刺さり、マリーは気絶してしまった。


「回収に来た」

「キューキュイ」

「アリス……なんで少し濡れてんだ?」

「マリーの水魔法で縛られてた」


 ほんのり濡れた状態のアリスが気絶したマリーを運ぼうとする。

 先程の針は幻覚魔法を付与したものだろう。


「なぁアリス、もしかして知ってたのか?」

「なにを?」

「マリーの事だよ。知ってたならもっと早く教えてくれよ」

「レイ、女の子の恋路に首を突っ込んだら、馬に蹴られる」

「なんだそれ」

「女の子への詮索は、よく考えてから」


 そう言うとアリスはマリーを引きずりながら部屋を去ろうとする。


「ちょっと待てアリス。なんでマリーがオリーブじゃなくて俺達の部屋に来るって知ってたんだ?」

「……」

「まさかとは思うが、お前……」

「……幻覚魔法って便利だよね」

「アーリースー」


 どうやらマリーは幻覚魔法で部屋の場所を間違えさせられたらしい。

 オリーブを守ろうとしたのは分かるが、自分に被害が来たことに関しては文句たらたらのレイであった。


「レイ、とりあえず運ぶの手伝って」

「なんで俺の周りには変な奴しかいねぇんだよぉ~」


「えっと……これはどういう状況?」


 部屋に戻れば両手足を持って運ばれているマリーと、何故か濡れているアリス、そして疲れ切った顔のレイ。

 あまりにも混沌とした状況にジャックもすぐには理解できなかった。


「(俺、本当にこいつらとやっていけるのかな?)」


 レイは若干自身を無くしかけていた。

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