Page42:蛇が、誘い出す!
レイ達が幽霊と戦っている頃、バミューダシティで動いている者は人獣問わずほとんど居なかった。
特に人間は軒並み気を失っており、偶々外で動けた者は早々に幽霊の餌食となっていた。
そんな中でカラン、カランと手に持った鐘を鳴らしながら歩く影が一つ。
幽霊はソレにだけは大鎌を向ける事はなく、辛うじて意識を保っていた魔獣もソレに対しては恐れをなして近づこうともしない。
カラン、カラン……ズル、ズル、ズル……。
金と水晶で構成された鐘を、手首のスナップだけで上手く鳴らしてソレは歩く。
いや、這い進むと言った方が正しいか。
足の無い下半身を這わせながら、ソレは悠々と街道を進んでいた。
「……ハグレは見つからんか」
鐘を鳴らしながら、何処か苛立った声でソレは吐き捨てる。
手に持った鐘から幽霊の情報が伝わってくるが、ソレが探し求めるハグレなるものは見つからない。
「急がなければ、あの方にお見せする顔がない」
僅かな焦りを含んだぼやきを吐きながら、今日も今日とて鐘を鳴らし続ける。
カラン、カラン。
ズルズルズル。
下半身を這わせながら街中の幽霊を指揮していると、ソレは手に持った鐘から異変を感じ取った。
「む?」
幽霊が消滅していっている。それも一体や二体ではなく、何体も連続して消え去っているのだ。
首を傾げながら鐘を数回振ってみるが、やはり幽霊は消えていく。
それどころか、ほとんどの幽霊が動かなくなっているではないか。
ふと空を見上げれば、街道にはミントグリーンの霧が降り注いでいる。
幻覚魔法を含んだ霧に気がついたソレは、ある事を思い出していた。
「あぁ、そういえば今日はGODの操獣者が来ているのだったな」
この前から街に滞在している二人組と昼間に新しく来た二人。
バミューダの住民の誰かが依頼をしたのだろう。さしずめ内容は幽霊船騒動を何とかしてくれと言ったところか。
「全く、私も忙しい身だというのに……どれ」
やれやれと仕方なさそうな様子で、ソレは高く掲げた鐘を鳴らす。
海の方から新たな幽霊を呼び寄せる為の音色だ。
「どうせ木端の操獣者には何もできん。だが私の使命を邪魔するのであれば、相応の対応をせざるを得んなぁ」
消滅していく幽霊の情報から敵の居場所を察知する。
鐘を鳴らして、敵対者を誘導するように、ソレは幽霊を配置した。
「ハグレも見つからんのだ……精々私の暇つぶしにはなっておくれよ?」
最早敵を敵と認識すらしていない余裕を振りまく。
こちらに向かって来る操獣者は三人。
ソレにとっては、数にすら入っていなかった。
◆
ミントグリーンの霧が降り注ぐ街道をレイ達は走り抜ける。
――カラン、カラン――
「ッ! こっちか」
強化された聴力を活用して、レイは鐘の音の出処を割り出していく。
その道中、アリスが散布した魔法の影響で静止している幽霊を撃ち落としていくが、やはり数が多い。
「これあと何体いるんですかー!?」
「オリーブさん、もう数は気にしない方がよろしいかと……わたくし達の精神衛生の為にも」
アリスのおかげで攻撃してこないとはいえ、流石にこうも湧いて出て来ては堪ったものではない。
オリーブも思わず泣き言を叫んでしまうが、レイはそれにどうこう言おうとは思わなかった。
コンパスブラスターで幽霊を撃ち落としながらも、足を止めないレイ。
攻撃を回避する必要が無い分余裕が出来たので、レイは少しばかり幽霊達を観察してみる。
「(ん? ……あの光って……)」
霧散して消えていく幽霊の身体から天へと昇っていく、小さく淡い光の玉。
それは先程、スレイプニルが教授で知った魂の光であった。
幽霊なのだから、彷徨う死者の魂が中に入っていても不思議に思う者は少ないだろう。
だがレイは、何か言い知れぬ違和感を覚えていた。
「(霊体……魂……肉体……何か引っかかる)」
『気をつけろレイ、音が近くなってきたぞ』
スレイプニルの言う通り、既に鐘の音は大きく聞こえるようになっており、武闘王波による強化を使わなくても何か異質な力を感じ取れるまでになっていた。
「なんだか、少しピリピリした感じがします」
「これは、確実に何かありますわね」
『そうであろうな。我が海中で感じ取った力と同じものを感じる」
「てことは
『(だが、何だこの気配は……人間でも魔獣でも、操獣者でもない。もっと邪悪な何かが混ぜ合わさっているような……)』
徐々に濃くなっていく奇妙な気配に、スレイプニルは強い警戒を抱く。
それに伴うかのように、街道に溜まる幽霊の数も増えていた。
それはまるで、その先にある何かに近づけないようにしているとも捉えられる光景だった。
「なんと言いますか、あからさまとでも言うべきなのでしょうか」
「誘導されてるみたいで少し腹が立つな」
だが敵の方から案内してくれるのであれば、それに乗ってやるまでの事。
レイ達は迷う事なく、街の中を突き進んだ。
やがて、気がつけば一行は広場の入り口近くまで来ていた。
見上げてみれば空に蓋をするように密集している幽霊の大群。
近く大きく聞こえる鐘の音に、肌を冷たく撫でる魔力の気配。
「こりゃ犯人とご対面ってやつかな? あっさり過ぎて少し拍子抜けな気もするけど」
「でも、なんだか嫌な感じ……ゴーちゃんもすごく警戒してます」
「ローレライもですわ……」
「けど進まなきゃ話は始まらない、か」
『レイ、十分に警戒するのだぞ』
了解と軽く返事をして、レイは広場に足を踏み入れる。
広場はだだっ広く、人や獣の姿は見えない。
後ろからついてきたオリーブとマリーも広場を見渡すが、あるのは中央に佇む噴水くらいだ。
いや、噴水の向こう側、レイ達の死角から何かが聞こえてくる。
ズルリズルリと何か大きなものが這い進んでいるような音だ。
何かいる。
レイ達が一斉に
『ッ! レイ、正面からくるぞ!』
スレイプニルの叫びを聞いたレイは咄嗟にコンパスブラスターを
すると正面に有った噴水が轟音と共に突然砕け散り、その向こう側から巨大な魔力弾がレイ達に襲いかかってきた。
「マリー! オリーブ!」
「言われなくてもですわ!」
「ゴーちゃん、お願い!」
レイが声をかけるよりも早く、マリーは水の防御壁を生成。
オリーブは契約魔獣の力を使って魔装の強度を上げて、防御体制をとった。
それから一秒もしないうちに、巨大な魔力弾はレイ達に着弾。
けたたましい音を立てながら爆発し、レイ達がいた場所の地面を派手に砕いた。
視界を遮る程の砂埃が辺り一面に舞い上がる。
「ゲホッゲホッ、二人とも無事か?」
「大丈夫ですけど、目が回ります〜」
「わたくしも問題ありません。見た目ほど貫通力は無かったようですわね」
『おそらく、わざと加減したのだろうな』
「手ぇ抜いてご挨拶ってか? 舐めた事してくれるじゃねーか」
ゆったりとこちらに近づいてくる敵の音が更に腹立たしさを際立たせる。
苛立ち任せに、レイはコンパスブラスターを大きく薙いで砂埃を吹き飛ばした。
さぁ犯人の面を拝んでやろうか。
そう思って顔を上げた瞬間、レイはソレの姿を見て身体の動きが止まってしまった。
マリーとオリーブも同じだった。ソレの姿があまりにも常識から外れてきっていた故、すぐに理解できなかったのだ。
「ひぃ、ふぅ、みぃ……三人? あぁ、もう一人は鎧装獣となって空に行ったか」
ソレは淡々とレイ達の人数を数える。
我に帰ったレイは、ふとメアリーが言っていた言葉を思い出していた。
―― ヘビと人間を、もっとグチャグチャに混ぜた、感じ?――
今なら解る、メアリーの表現は何一つ間違っていなかったと。
ソレの下半身は白く大きな蛇の身体であった。
ソレの上半身は白い鱗が生え、ずんぐりとした人間の胴体に蛇の頭がくっついていた。
ソレの外見は蛇と人間が完全に混ぜ合わさっている、おぞましい怪物であった。
魔獣ではない、人でもない、ましてや操獣者でもない。ソレは異形としか形容できない存在だった。
レイはコンパスブラスターを握る手に力を込める。
コイツは不味い、コイツは危険過ぎる。
目の前の異形に、レイの本能が危険信号鳴らしていたのだ。
「まぁ良い。小賢しい霧を撒いている者は後で片付けるとして、今は目の前の羽虫に集中しなくてはなぁ」
「テメェ……何者だ」
「ふむ、奇妙な事を聞くものだな。見ての通りだが」
「あーそうかい、グチャグチャモンスター。お前が幽霊ばら撒いた犯人でいいのか?」
「酷い言われようだな、若者ならもう少し綺麗な言葉を使ったら――」
――斬ァァァン!――
異形が言葉を言い終えるより早く、レイはコンパスブラスターの斬撃を放った。
高速で飛来していく斬撃。だがそれは異形の身体を斬りつけるより早く、異形の下半身……巨大な蛇の尾で弾き飛ばされてしまった。
無言で睨み合うレイと異形。
「こっちの質問に答えろ」
「やれやれ、堪え性の無い
悪びれる様子など微塵もなく、異形はあっさりと自分が犯人だと認めてしまった。
それならば話は早いと、レイ達は改めて各々の魔武具を構える。
「つまりお前が全ての元凶で、とっ捕まえるべき敵ってわけだな」
「そうだな……だがそれは私にとっても同じだ。私の崇高な使命の邪魔をしたお前達は、殺すべき私の敵という事だ!」
瞬間、爆風の如く異形から溢れ出た殺気が辺りを被いつくす。
凄まじい殺気に圧倒されそうになるが、レイ達は何とか正気を保っていた。
「ふん!」
異形が腕を大きく振るうと、強烈な風が巻き起こった。
その風は辺りの空気を巻き込み、アリスがばら撒いていた魔法を含んだ霧を瞬く間にかき消した。
「レイ君! マリーちゃん!」
「仕掛けてきますわ!」
「分かってるっての!」
アリスの霧による拘束から抜け出した幽霊と、殺気を止めない異形がレイ達に狙いをを定める。
異形が手に持った鐘をカランカランと鳴らすと、周囲の幽霊は一斉にレイ達に襲い掛かり始めた。
「
レイは棒術形態にしたコンパスブラスターに魔力を纏わせて身構える。
迫り来る幽霊をギリギリまで引き寄せ、そして……
「どらァァァァァァァァァ!」
――斬ァァァァァァァァァァァァァァァァン!!!――
武闘王波で強化された腕力を用いて、コンパスブラスターを豪快に薙ぎ払う。
強力な攻撃用魔力を帯びた一閃を受けた幽霊達は、次々に爆発霧散していった。
オリーブとマリーも負けじと、空中から襲い掛かる幽霊を撃破していく。
空中を飛び交う幽霊と、それを討つ魔力弾とハンマー。
それは少数対多数とは思えぬ荒々しい絵面であった。
「マリー、オリーブ! 幽霊の方は任せた!」
「え!? ま、任されました?」
困惑するオリーブの声を背に、レイは敵の頭領である異形に向かって走り出す。
だがそれを見た異形が鐘を数回鳴らすと、そう簡単には行かせまいと十数体の幽霊が行く手を阻んできた。
「くっそ、邪魔なんだよ!」
『だが正面に味方は居ない。レイ、マジックワイヤーを使え』
「じゃあスレイプニルも手伝え!」
そう言うとレイは腰に下げていたグリモリーダーから銀色の獣魂栞を抜き取り、コンパスブラスターへと投げて挿入した。
「インクチャージ!」
念動操作、出力強化……必要術式を瞬時に組み立てて、レイはコンパスブラスターに流し込む。
『今だ、レイ!』
「ワイヤー乱舞、喰らえ!」
コンパスブラスターの先端から勢いよく飛び出た銀色のマジックワイヤー。
それは生物の様に変幻自在に軌道を変えて、眼の前にいる幽霊達の身体を次々に貫いていった。
「爆ぜろ!」
マジックワイヤーに内包された魔力を爆発させるレイ。
身体の内側から爆破に巻き込まれた幽霊達は、連鎖するように消え去っていった。
「さぁて、次はお前だぜ蛇モドキ野郎」
「ほう、幽霊では足止めにもならんか。面白い」
棒術形態のコンパスブラスターを槍の様に構えて、異形へと突進するレイ。
だが異形は回避する素振りすら見せず、その場に立ったままであった。
「……だが、所詮は未熟な童よ」
「何ッ!?」
驚愕の声を上げるレイ。
その視線の先では、コンパスブラスターの切っ先を異形が素手で掴み取っていた。
何とか振り払おうとするも、凄まじい握力で掴まれたコンパスブラスターはビクともしない。
「ほれ」
「!?」
まるで幼子と戯れてやると言わんばかりに、異形は軽々とコンパスブラスターごとレイを持ち上げてしまった。
このままではマズい、そう感じ取ったレイの行動は早かった。
掴んでいたコンパスブラスターから、レイは手を離したのだ。
レイの意外な行動に異形も少し呆気にとられる。
だがその一瞬に隙ができた。
「武闘王波、脚力強化! そんでもって!」
脚部に魔力を集中させると同時に術式を組み込む。
「
レイは強化された脚力を駆使した蹴りを、異形の頭部に叩きこんだ。
そして足裏が異形の頭部に接触した瞬間に、脚部に集中させていた魔力を爆破させて更なる追撃を撃ち込んだのだ。
「ツッッッガァァァ!?」
強烈な一撃に脳天を揺さぶられた異形は奇妙な悲鳴を上げてしまう。
掴んでいたコンパスブラスターを手放し両手で頭を抱える。
その隙にレイはコンパスブラスターを回収して、異形から少し距離を取った。
「痛ッてー、流石に爆破はやり過ぎたか」
『全く、無茶をする』
「悪い悪い。ところで敵さん、至近距離で脳天に爆撃食らったのに結構平気そうなんだけど」
『そうらしいな』
激痛の走る頭を抱えながらも、異形は倒れ込む事なくレイを睨みつける。
「なッ、る、ほど……少しはやるみたいだな」
「悪いけどそれは過小評価だって教えてやる。お前の身体の方にな」
「ほざけ、ただの操獣者が私に敵うものか」
そう言うと異形は懐から黒い円柱状の魔武具を取り出した。
初めて見る魔武具にレイは少しばかり興味関心が向く。
だがそれに反して、スレイプニルは信じられないといった様子で声を上げた。
『その魔武具はダークドライバー!? なるほど、その異形の出で立ち……貴様、ゲーティアの悪魔だな!』
「ゲーティア?」
『その目的、思想は不明だが、古き時代より暗躍する
「我々の事を知っているとは、中々に博識な獣だな」
不敵な笑みを浮かべながら、異形はダークドライバーの先端をレイに向ける。
「ならばこれは知恵者への褒美よ!」
『避けろ、レイ!』
「ッ!?」
ダークドライバーの先端から、黒い炎が射出される。
高速で接近する黒炎をレイは間一髪、横に跳んで回避した。
標的を見失った黒炎はそのまま地面に着弾する。
黒炎は爆風などを上げることもなく、ただ着弾した地面を大きく抉り抜いた。
「なんだアレ、衝撃一つ感じなかったのに……」
出来上がったクレーターを見てレイは戦慄する。
抉られたと言うよりも、溶かされたと言うよりも、無に帰されたとでも呼ぶべきものであった。
万が一触れていればタダでは済まなかっただろう。
『焚書松明ダークドライバー。ゲーティアの悪魔が使う禁断の魔武具だ。気を付けろレイ、あの魔武具から放たれる炎は万物を喰らい尽くす』
「万物って、冗談じゃねーっての」
だが脚色無い事実だというのは容易に理解できた。
既に異形は次弾の発射準備に入っている。
「(回避するのは良いけど、オリーブ達に当たらない様にしなきゃな)」
二人とも大量の幽霊に追われており、余裕があるとは言い難い。
少しでも個々の負担を無くしつつ、迅速に敵を倒す必要があった。
冷静に異形を観察。そしてレイはギリギリまでそれを引きつける。
ダークドライバーの先端に集まった炎が肥大化しきる瞬間を見極めて――。
「(今だ!)」
「逃がすかァ!」
発射直前にレイは広場を走り出す。
照準が碌に定まっていない黒炎は、その悉くがあらぬ方向へと着弾していた。
「(とにかく二人に攻撃が行かないように、奴に背を向けさせる……そして)」
黒炎を回避、走りながらレイはコンパスブラスターを変形させる。
「
迂闊に近づいて黒炎を喰らってはならない。
ならばとレイは、距離取ってかく乱と攻撃が出来る銃撃形態を選択した。
「連続で狙い撃つ!」
――弾弾弾弾ッ!――
高出力の魔力弾を飛来してくる黒炎にぶつける。
黒炎と魔力弾は互いに食らい合い、その存在を相殺しあった。
「よっしゃ! 打消し成功!」
『だがこの高出力で辛うじてか、割に合うとは言い難いな』
「いいんだよ、被害を最小限に出来れば!」
異形の注意を自身に向けつつ、レイはコンパスブラスターによる銃撃を続ける。
相殺、相殺……そして隙が見えたら本体に狙い撃つ。
だがレイが魔力弾を放つと、異形は鐘を鳴らして、その弾道上に幽霊を配置させた。
貫通力があると言えど、魔力の塊である幽霊に接触した影響で威力が落ちていく魔力弾。異形の元に到達する頃には、異形の蛇の尻尾で容易く弾かれてしまう程にまで弱体化していた。
「くっそ、幽霊が邪魔で魔力弾が効かねー!」
黒炎の相殺と邪魔をしてくる幽霊の撃墜を同時にこなしていくレイ。
気づけば炸裂した魔力弾と、霧散した幽霊の残骸で視界が悪くなっていた。
『ッ!? レイ足元だ!』
「え? うわッ!?」
完全に正面の脅威に気を取られすぎていたレイ。
スレイプニルに言われて足元に意識を向けた時には既に遅く、レイの足は白い鱗で覆われた手で鷲掴みにされていた。
「ちょこまかと目障りな童め、これでもう逃げられまい」
「何だこれ、手!?」
現在、異形からレイまでの距離は約六メートル。普通に考えれば手が届くような距離ではない。
しかし、レイが自分の足を掴んでいる手を目線で辿ってみると、そこに有るのはどこまでも続く異形の腕。
「アイツ、自分の腕を伸ばせるのかよ!」
『レイ、早く振り解け!』
「振り解く? 馬鹿言うな、向こうから態々来てくれたんだ」
レイは即座にコンパスブラスターを
「このふざけた腕ぶった斬ってやる!」
魔力刃を展開したコンパスブラスターを、レイは異形の腕に力いっぱい叩きつけた。
だが……
――カキン!――
異形の腕を被う鱗は、コンパスブラスターの刃を容易く弾き返してしまった。
『何だと!』
「ふん、その程度の攻撃で私を傷つけられると思うな」
「(か、固ぇ……何だよこの鱗、鉄か何かで出来てんのか?)」
ならばより高い出力の魔力刃を展開してこの腕を切断するか。
レイがそう考えたほんの一瞬の内に、異形はダークドライバーに黒炎を集め終えていた。
「しまった!」
『レイ、早く脱出しろ!』
もう術式を組んでいる暇はない。
レイは必死に足を掴む腕を振り払おうとするが、動かすことすらままならない程に強く握られていた。
「所詮は未熟な操獣者三人、暇つぶしにもならんか」
「こん、にゃろー!」
「まずは一人目、天国に行けるよう精々祈りを捧げるのだな」
『レイ!』
「レイ君!」
スレイプニル、そして一連の流れを見ていたオリーブの叫びも虚しく、ダークドライバーから放たれた黒炎は真っ直ぐにレイへと迫って行った。
「(あ、終わった……)」
相殺する為の魔力弾を装填する間はない、ましてやコンパスブラスターを変形させる間もない。
高速で接近する黒炎がスローモーションで見える。最早回避する事は不可能だろう。
だが最後まで諦めて堪るかと、レイはコンパスブラスターを握る手に力を入れた。
「(一か八か、今ある魔力刃で弾き返せれば)」
コンパスブラスターの射程範囲に黒炎が到達するのを待つレイ。
だが、黒炎がレイの元へと到達する事は無かった。
キラリと一瞬、糸の様にか細い金色の針が黒炎に向かって飛来してきたのだ。
プスと空中で金色の針が突き刺さった途端、黒炎はピタリと空中で動きを止めてしまった。
「何だ……何が起こった? 童、一体何をした!」
「いや、俺に聞かれても……」
まるで時間を止められたかのように、依然として空中で停止している黒炎。
何故止まってしまったのか、それはその場に居る全ての者が理解できていなかった。
だがこれはチャンスだ、今の内に術式を組んで脱出をしよう。
レイがそう考えた次の瞬間、よく聞き覚えのある声が広場に響き渡った。
「なんかよく分かんないけど、ラッキーってやつかな?」
少女の声と共に強大な魔力の気配がレイ達に接近してくる。
突然の事にレイと異形が振り向くと、そこには真っ赤に燃え盛る巨大な炎の刃が牙をむいていた。
「バイオレント・プロミネンス!!!」
――業ォォォォォォォォォゥ!!!――
巨大な炎の刃はレイと異形の間に振り下ろされ、レイの足を掴んでいた異形の腕を一気に切断した。
「ぐォォォォォォォォォ!?」
「助か――ドワァ!?」
異形の拘束から逃れられたと安堵するのもつかの間。
突然伸びて来た鎖に身体を縛られて、レイは一気に何処かへと引っ張られてしまった。
そしてレイが離れた直後、黒炎は再び動き出し近くの壁へと直撃した。
「よっと、結構ピンチだったね」
「お前は……」
身体から鎖が解けていくのを実感しながら、レイが声の主を見上げると、そこには青い魔装に身を包んだ操獣者の姿があった。
「ジャック!? 何で此処にいんだよ!」
「僕だけじゃないさ、ほら」
ジャックが指さす先にレイは視線を向ける。
そこに立っていたのは、炎如く真っ赤な魔装に身を包んだ一人の操獣者。
それはレイ自身も嫌という程よく知る、チームレッドフレアのリーダーを務める少女。
「フレイア!?」
「こんばんは~、色々あって助っ人のお届けに参りました~」
レイに向かってお気楽に手を振る、フレイア・ローリングの姿がそこにはあった。
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