Page20:助けさせろォォォ!!!
種が解れば後は構築していくだけだった。
ギルド長が置いて行ったランタンの明かりを頼りに、地図を広げて術式を書き込んでいく。
ボーツ召喚の術式とデコイモーフィングシステムの術式。二つの術式を融合させつつ、これまでに発生したバグ(セイラムシティでのボーツ発生)と先程天井から露出した魔法文字を考慮して組み上げる。
一つ一つ丁寧に考えて地図に魔法文字を書き込んでいく。術式を書き進めるにつれて、地図上の魔方陣はその全容を明らかにしていくのだが……魔法陣が完成に近づく程にレイは焦りの感情を覚えていった。
「これは……」
最悪だと予感しつつも、全て書き終える。
完成した魔法陣を再確認し、レイは自身の悪い予感が的中した事を悟ってしまった。
ならばと、レイの思考は次の段階へ移行する。
正直これを完成させてギルド長に報告していたら色々間に合わない気がする。その上ギルド長が術式の事を信じてくれたとしても、それ以外のギルドの者達が信じてくれるとは毛頭思えない(あまりにも荒唐無稽すぎる)……が、何もやらない訳にはいかない。
レイが次の段階に必要な事項を地図に書き入れていると、牢の外からけたたましい足音が響き渡ってきた。
「レイ!」
牢の扉が勢い良く開けられるのと同時に、叫ぶようにレイの名前を呼ぶ声が聞こえる。
思わずレイが地図に落としていた視線を持ち上げると、そこにはフレイア達の姿があった。流石に地下牢まで来るとは予想してなかったレイは少々呆気にとられる。
「お前ら、なんで!?」
「なんでってそりゃ、心配だからに決まってるでしょ」
「てかレイ君その怪我どうしたんスか!?」
「別に……大したモンじゃない」
身体に出来た怪我の数々を見て心配するライラ達。レイはその様子を見て思わず誤魔化してしまう。
自身の怪我なぞどこ吹く風という様子で、レイは黙々と地図上にペンを走らせる。
それを見かねたアリスはレイの元に駆け寄り、変身して治癒魔法をかけ始めた。
「その怪我、まさか特捜部にやられたのか?」
「…………カルシウム足りてなかったんだろうよ。どうって事は無い」
「どうって事ないって……」
自身の事など気にも止めないレイにジャックは言葉を失ってしまう。
レイが無心にペンを走らせる音が牢の中に響き渡る。
「抵抗しなかったのか?」
「して聞くような奴らじゃねーよ。それに今はそれどころじゃない……よし出来た」
ペンを置き、レイは完成した地図を広げて見る。
必要な事はこれで全て理解できた、ならば後は実行するだけだ。レイは地図を袋に仕舞い込んで、近くに置いてあったコンパスブラスターを手に取った。
「レイ君、今の地図って……」
「ん、セイラムに張られた魔法陣を書いたやつ。やっと正体が解った」
「ッ!? 本当かレイ!?」
「あぁ。アホみたいに壮大な手口だったよ……ッつ!」
「治療中、動いちゃダメ」
レイはコンパスブラスターを杖に立ち上がろうとするが、まだまだ身体にダメージが残っておりアリスに制止されてしまう。
それはそれとして、魔法陣解明の報を聞いてジャックとライラは一先ず胸をなでおろした。だがその一方で、フレイアは浮かれるどころか僅かに険しい表情になっていた。
「アンタ、ずっと一人で背負ってたの?」
「ん?」
「魔法陣の解読も、トラッシュって馬鹿にする奴らの事も、親父さんの事も……全部一人で背負ってたの?」
「…………そうだな。一人で背負わないと色々と追いつけないからな」
「それでバカみたいに傷つき続けてんのに、なんで助けてって言わないの?」
突然フレイアに辛辣な言葉を投げかけられて、少しムッとするレイ。
だがフレイアが投げかけた問いは、レイにとって答えるに簡単すぎるものであった。
「簡単な事だ『助けて』って叫んだところで、誰かが手を伸ばしてくれる保証なんかない」
「親父さんが見殺しにされたから?」
「分かってるじゃねーか」
再びコンパスブラスターを杖にして立ち上がるレイ。
アリスの治癒魔法が効いたので、身体を走る痛みは完全に消えていた。
「誰にも頼らない、誰にも期待しない。目に見える範囲に手を伸ばせるように俺は足掻き続けるだけだ」
呪詛を吐くように、自身に言い聞かせるようにレイはその言葉を漏らす。
牢の出口に向かってレイは歩みを進めるが、途中でフレイアに肩を掴まれて制止されてしまった。
「一人で突っ走ってどこ行く気?」
「何処でもいいだろ、どうせこんな術式誰も信じない。だから離せ、あんまし時間が残ってないんだ」
レイがフレイアに手を離す様に告げるが、フレイアは掌の力を緩める様子を見せない。それどころか苛立ちを覚えているかの様に掌に力が入っている。
「…………あぁ、やっと解った。なんでアタシこんなにモヤモヤしてたのか……アタシ、アンタが気に入らないんだ」
「ん? そうか、やっと俺を仲間にしても得が無いって理解したか」
そう言ってレイはフレイアの手を払い退ける。
フレイアの唐突な発言に若干心臓が締め付けられる感じがしたが、レイは「これでいい」とすぐに自分を納得させた。
これでようやく一人静かになれるとレイが考えた次の瞬間、フレイアはレイの胸倉を勢い良く掴み取り――
「こんの、クソバカがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
――ゴンッッッ!!!――
絶叫と共にフレイアの額がレイの頭部に叩きつけられる。
突然やって来た衝撃にレイも一瞬困惑し、目の前で光がちかちかと点滅する。
想定以上の痛みが頭部に響き渡り、レイは思わず地面を転げまわってしまった。
「レイ!?」
「フレイア、急に何を!?」
「~~~~~ッッッ!!!??? 何すんだッ!」
「ヒーロー志望が一人だけだと思うなッ!!!」
思わず怒鳴ってしまったレイに対し、フレイアは再び胸倉を掴んで更に大きな声で怒鳴り返す。
「目に見える範囲が救える範囲だって? だったら言ってやるけど、今アタシの目の前でレイが傷ついてるでしょーが!」
「お前に憐み持たれるほど弱ってるつもりは無い!」
「あーそう、そこまで強がるんなら言ってあげる。アンタ……なんで何時も泣きそうな顔してんのさ」
フレイアに指摘されて心臓が跳ね上がりそうになるレイ。
図星であった。ずっとバレない様に、その感情が表に出ない様にしていたがフレイアには見抜かれていたようだ。
「別に、俺は……そんなつもりは……」
「まぁアンタがそう言うなら、そうなのかもしれない。そもそもアンタが何を思って何を考えてるかなんて全く分からないし」
あっけらかんと言ってのけるフレイアに、「この女はフザケているのだろうか」とレイは内心思ってしまう。
「アタシ達は神様じゃ無いんだ。言葉にしなきゃ何も分からないし一人の目で見える範囲なんてたかが知れてる……ちっぽけな人間よ」
諭すような口調でフレイアが紡ぐ言葉に、レイは頭に血が昇るのを感じた。
弱いという事を認め、それに甘んじる。それだけはレイの心が受け入れることを拒否していたのだ。
「ちっぽけか……あぁそうだろうな! だから強くならなきゃなんねーんだろうが! 誰も取りこぼさないように、足掻かなきゃなんねーんだろうが!」
強さがあれば夢に近づく。強さがあれば零さずに済んだ過去もある。
父親の死と自身の夢が、レイに力への執着を与えていた。
本当はその道が間違っている事に薄々勘付きながらも、目を逸らして縋り続けていた。…………それを否定する者が、誰一人現れなかったから。
「その為に弱さから抜け出したいの? 全部一人で背負い込む為に?」
「そうだ」
「違うよ、レイ…………人間はそこまで強くない」
否定の言葉は突然に、碌な前振りも無く叩きつけられた。
暗闇を走り続けていたレイの心が、一瞬止まってしまう。
「弱いのよ、人間一人助けるのにも苦労するくらい弱いの。でもね、弱いからアタシ達はチームを組んでんの。一人より二人、二人より三人の方が助けられる命も多いなんて簡単に分かるでしょ」
フレイアの言葉を否定する術をレイは持ち合わせていなかった。
解ってはいた事だ。それでも傷を押し付けることを良しと出来なかった。
「本当はレイも解ってたんじゃないの? 一人の限界」
「……解ってたさ。けどそれは――」
「裏切られるのが怖い」
「…………」
「自分以外を傷つけたくないって優しさもある。けどそれと同じだけ、また裏切られるのが怖くてしかたない」
全部見抜かれていた。碌に隠し事も出来ない自分に嫌気が差し、レイは顔を掌で抱えてしまう。
「レイ、ほんの少しだけでいい。僕達を信じてくれないか」
「そっス。ボク達はレイ君を信じるっス」
「ジャック……ライラ」
ジャックとライラはレイの元に歩み寄り、手を差し伸べる。
だがその手を取る勇気は出てこない。
「レイ」
「フレイア……」
「三年前とは違う。今のレイにはアタシ達がついてる」
それは堂々とした眼であった。
レイを信じ、自分を信じる。光を宿した眼であった。
フレイアはそっとレイに手を差し伸べる。
「力を貸して。セイラムを救うのにレイの力が必要なの」
「……俺は……」
その手を取る事に未だ迷いが生じるレイ。
自分の手を上手く動かせない。
「なに? アンタヒーローの息子なんでしょ。だったら目の前で困ってるアタシ達を助けてみせなさいよ」
どこか挑発する様な口調で、しかし信念を含んだ声でフレイアは紡ぐ。
「そう、レイは目の前で困ってるアタシ達を助ける。だからアタシは目の前で傷ついてるアンタに何度でもこう言ってやる! 助けさせろッてね!」
なんとも傲慢な台詞。だが不思議とレイの中に嫌な気持ちは生まれなかった。
フレイアの言葉に偽りはない。この言葉は信じられるのではないかと、レイは思わずにいられなかった。
「レイ」
「アリス……」
「きっと大丈夫。この人達はレイを裏切らない」
背後から治癒魔法をかけていたアリスが語りかける。
それが最後の一押しだったのかは定かではない。
だが一瞬の思考の後、レイは自らの意志で手を伸ばし……フレイアの手を掴んだ。
「壮大で荒唐無稽、五人でも人数不足……それでもやるか?」
「上等。ヒーロー志願者舐めんな!」
フレイアに手を引かれてながら立ち上がるレイ。
レイは袋から地図を取り出し、明かりの近くで広げて見せた。
「これがセイラムを覆ってる魔法陣か?」
「うわぁ、なんスかコレ? 術式の魔法文字で殆ど地形が見えないっス」
「デコイモーフィングの術式組み込んでるからな、かなり複雑化してる」
あまりの魔法文字の密度にライラが軽く引いてしまうが、元々複雑な術式を二つ合わせているのでそうなるのは必然と言えよう。
「ねぇレイ、この赤と黒のバツマークは何?」
「ウィークポイントってやつだ。赤いバツマークの箇所を破壊すれば少なくともボーツのデコイモーフィングは止められる。黒のマークは全部破壊すれば魔法陣そのものが機能停止する。簡単だろ?」
「簡単って……赤マークは十個ちょっとっスけど、黒マークこれ何十個あるんスか!?」
「なる程ね、これは五人じゃ骨が折れる……そう言えばレイ、どうやって魔法陣を破壊するんだ? そもそも魔法陣の展開方法をまだ聞いてない」
「いいタイミングだジャック。あれを見ろ」
そう言うとレイは、ランタンを掲げて先程コンパスブラスターで破壊した天井を指示した。
「ん、永遠草がはえてるね……けど何で地下に永遠草が?」
「ど根性永遠草かな?」
「じ~~~……ってあぁぁぁ!!! 姉御、ジャッ君! 花弁じゃなくて周りの根っ子を見るっス!」
根っ子の異変にいち早く気づいたライラが、フレイア達に呼びかける。
ライラに言われた通りに永遠草の根を見て、二人もその異常に気が付いた。
「あれって……魔法文字みたいに見える?」
「フレイア、みたいじゃなくてそのものだ! レイ、これは一体!?」
「見ての通りだ。そりゃあ地上を探しても見つからないはずだ、魔法陣は地下で描かれてたんだからな」
「えっと……つまりどゆこと?」
フレイアが頭の上に疑問符を浮かべる。ジャックとライラも完全には理解できていない様子だった。
無理もない。目の前の光景はあまりにも常識外れ過ぎるのだから。
「ジャック、永遠草の名前の由来って知ってるか?」
「あぁ。確か栄養補給が出来る限り無限に咲き続ける事と、無限に根を伸ばす性質……まさか!?」
「そのまさかだよ。無限に伸びる永遠草の根を使って何年も時間をかけながらセイラムシティを覆う巨大魔法陣を描いていたんだ。街中でのボーツ発生は中途半端に構築された術式が起こしたバグだろうよ」
「はは、そりゃ確かに荒唐無稽。並みの人間ならすぐには信じないだろうな」
あまりの真実にジャックは乾いた笑い声を漏らしてしまう。
「でもでもレイ君! そんなにやたら滅多ら根っ子伸ばしたら、作物とかに影響が出てバレるんじゃないんスか?」
「確かに普通の植物ならそうだな、けど永遠草は例外だ。永遠草はデコイインク以外のものを栄養として吸収しないだ。だから畑に直接根っ子が被って作物の成長を阻害したりしない限り、栄養を横取りする事はないんだよ」
「言われてみればこの魔法陣、農耕地は避けて構築されてるね」
「そういう所も含めて狡猾な犯人だよ」
音も立てずにじわりじわりとセイラムシティを蝕んで来た巨大魔方陣。
レイは改めてこの犯人に対する怒りが沸々と湧き上がっていた。
「でもこんなに巨大魔法陣……組織的な犯行っスかね?」
「まぁ無難考えればそうなるね。となるとますます厄介な案件になってきたな」
「……一人だ」
「え?」
「証拠は無い。けど俺の予想が合っていれば、犯人は一人だ」
何か確信を持っている様子でレイが呟く。
それに気づいたフレイアがレイに問う。
「一人で出来そうな奴が居るの?」
「理論的には可能な奴がいる。けどこんな巨大魔法陣、普通の操獣者だったら維持する事も難しいだろうな」
「結局無理なんスか」
「普通なら、な」
そう言うとレイは地図を一度仕舞い、牢の出口に向かった。
「ライラ、お前固有魔法二つ持ってよな?」
「ん? そっスよ【雷刃生成】と【
「二つ目の魔法、少し借りたいんだ。ついて来てくれ」
そう言うとレイはランタンを手に持ち、牢から出た。
フレイア達も慌ててレイの後を追う。
地下牢の中を歩くレイ。だがその足取りは地下牢の出口ではなく、地下牢の内部を辿っていた。
外に出るより先に達成したい目的。レイはランタンで牢の番号を確認しながら移動をする。
地下牢の囚人は犯した罪によって収監される牢の番号が決まる。
レイが探しているのは二十番台の牢。収監対象は窃盗などの軽犯罪、そして禁制薬物の使用者である。
「いた、コイツだ!」
お目当ての牢はすぐに見つかった。
レイはランタンで牢の中を照らし出す。牢の中には老人の様な手足を持つ、若い男が一人居た。
「あれ、この人ってレイが捕まえた人だよね?」
「魔僕呪中毒の人。フレイアが初めて来た日にレイが持って帰って来た」
「商船の船乗りだってさ。セイラム所属の船に乗る奴は、制服に所属船の名前を入れるルールがある。ライラ、固有魔法でこいつの所属船を確認できねーか?」
「やってみるっス。 Code:イエロー解放! クロス・モーフィング!」
ライラはグリモリーダーを取り出して変身する。
そして変身を終えるや否や、固有魔法を発動して男の着ている船乗りの制服を確認した。
「固有魔法【鷹之超眼】起動っス! ……え~っと何々、レゾリューション号っスね。オータシティ行きの定期商船っス」
「ライラよく知ってるわね~」
「忍者っスから。情報の記憶はお手の物っス」
フレイアに感心され、鼻高々に胸を張るライラ。【鷹之超眼】は所謂千里眼のような魔法だ。
そんな一方でジャックは少し不安げにレイの方を見ていた。
「レイ……」
「……サンキュライラ。これで知りたい事はおおよそ知れた」
「なぁレイ、もしかして犯人って――」
「ジャック!」
何かを言おうとしたジャックの言葉をレイは遮る。
彼が何にたどり着いたのか、何を言おうとしたのかレイにはすぐに理解できた。
だが今はそれを話し込むには時間が無さ過ぎた。
「悪いけど犯人捜しは後にしたい。時間が無さすぎるんだ」
「ねぇレイ、さっきも時間が無いとか言ってたけど……どういう事?」
「あぁ、さっき言い忘れてたんだけど、この魔方陣時限式なんだ。術式が完成してから一定時間経つと強制的に起動するように仕込まれてる」
「…………はい?」
レイの発言に目を点にしているフレイアをよそに、レイは袋から取り出した地図をフレイアに押し付ける。
「俺が組んだ術式が正しければ、今日の深夜0時には魔法陣が一斉起動する筈――」
「「「それを早く言えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」」」
尤もな怒りである。反論の余地はない。
「ライラ、今何時くらい!?」
「た、多分夜の九時くらいっス」
「後三時間程度で赤マークだけでも破壊しなきゃならないのか。これはハードワークだね」
「赤いマークの箇所は深くても一メートルくらいの場所にある筈だ。フレイアのバ火力なら簡単に抉れるだろ」
「バ火力ってゆーな!」
それはともかく。
「フレイア、その地図をギルド長と親方に見せてくれ。俺の言葉ではどうにもならないけど、あの二人と……フレイア達の言葉なら信じてくれる奴も多いはずだ。それが終わったらすぐに魔法陣の破壊作業に移って欲しい」
「……解った。レイはどうするの?」
「俺は八区に行く。あそこは避難経路が特殊だから勝手を知っている人間が誘導してやらないといけない」
「でも八区は――」
「分かってる。間違いなく変身ボーツが大量に出てくるだろうな…………八区の人達はまだ俺を信じてくれてる人が多い、ならせめて出来る事をやりたいんだ」
フレイア達の心配げな視線がレイに突き刺さる。
それに勘付いたレイはつい強がってしまった。
「なーに、戦う力なら持ってる。勝てはしなくても死ぬ事だけはしないさ……だから、信じてくれ」
「…………分かった。レイを信じる」
「じゃあ行動開始っスね!」
「まずはギルド長と親方さんを捕まえないとだね」
「アリスはフレイア達についてくれ。避難誘導だけなら俺一人で十分だ」
「……うん、りょーかい」
各々の行動方針が決まる。
動きは違えど目的は同じ。魔法陣の破壊とセイラムシティの守護。
フレイアは首に巻いたスカーフを巻きなおして、自身に気合を入れる。
「みんな準備はいい? じゃあ、反撃開始だ!!!」
「「「応ッ!!!」」」
フレイアの号令で皆一斉に動き出す。
一先ず地下牢から出た面々、ここでレイはフレイア達と別れる事になる。
「まずは魔法陣を壊してセイラムを守る! 犯人はその後でぶっ飛ばす!」
フレイアは叫びながらギルド本部の奥へを消えていく。ジャックとライラもその後に続いて行くが、アリスはすぐについて行かなかった。
八区に向かおうとするレイの服の裾を掴んで、止めるアリス。
「アリス?」
「……教えて、なんでレイはこの街を守ろうとするの?」
それは本当に唐突な質問であった。
「レイがこの街を救っても、きっと街の人は変わらない。レイとエドガーおじさんを裏切った事を気にする人なんて増えないかもしれない。レイが正当に評価されるかどうかも解らない。それでもレイはこの街を守るの?」
「えっと、それ今答えな――」
「答えて」
力強く言い返されるレイ。アリスに凄まれると弱いのだ。
「……ここ、父さんが守った街だからさ」
「……」
「そりゃあ本音では逃げたいと何度も思ったさ。なんで俺がこんな扱いされなきゃなんねーんだって怒ったさ……けどな、そんな理由でこの街から逃げたら……俺はきっとヒーローって夢からも逃げ続ける事になっちまう。自分の魂から目を逸らしてしまう。そんな気がするんだ」
「それが、嫌なの?」
「男の子の意地って奴かな」
少し強がりが入った笑みを浮かべて、レイは精神的な余裕をアピールする。
それを見たアリスは、今のレイには何を言っても無駄だろうと確信してしまい、裾を掴んでいた手を離した。
「レイって頑固だよね、ここで私が行っちゃダメって言っても絶対に行くんだ」
消え入りそうな声でそう零すアリス。
ならばせめてと、アリスはレイの顔を見上げた。
「危なくなったら、絶対に叫んで」
「…………善処はする」
アリスに釘を刺されたレイは、そのまま背を向け駆け出す。
そして走りながら鈍色の栞とグリモリーダーを取り出した。
「
偽魔装に身を包んだレイ。
ギルド本部から八区までは距離があるので、偽魔装の力で脚力を強化して急行するのであった。
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