沖縄のユタ(4)


 両手を胸の前で組む。


 そしてブツブツと低い声で呪文のようなものを唱え始める。


 何を言っているのか分からないが時々雪也の名前を言っているのは分かった。


 キミエの乾いた唇が止まった。


 そして全身ピクリとも動かなくなった。


 待っている時間が妙に長く感じられる。


 沖縄に住んでいるのにキミエの肌は透き通るように白い。


 その白い肌に青い血管が浮き出ている。


 長い間キミエは動かなかった。


 キミエが死んでしまったのではないかと心配になってくる。


 将樹が人差し指で來夢の膝をつついてきた。


 声を発さずに口だけで「大丈夫か」と言っている。


 來夢は「さぁ」と首を傾げた。


 何分くらいキミエはそうしていただろうか、15分くらいに感じたが実際は5分だったと後から将樹が教えてくれた。


 キミエはうっすらと目を開けると、しばらくぼんやりと宙を見つめていた。


 そしてゆっくりと上体を起こすと言った。


「彼はあなたと2人きりで話がしたいと言っています」


 來夢はすぐにその言葉が理解できなかった。


「つまり」


 キミエは将樹を見た。


「え?俺?」


 将樹は自分を指差す。


 将樹はだいぶ躊躇った後にしぶしぶソファーから立ち上がった。


 クマのぬいぐるみがばたりと倒れたがもうそれを起こしはしなかった。


「來夢、ちょっと」


 将樹はアパートを出ていく前に玄関先に來夢を呼んだ。


 奥の部屋にいるキミエに聞こえないように來夢の耳元で囁く。


「なんかあったらすぐに電話しろよ、ここ出たとこにいるから」


 真剣な顔で來夢は頷いた。


 部屋に戻るとキミエはボソボソと独り言を言っている。


 來夢はアパートの外に駆け出して将樹を連れ戻したい衝動にかられたが、勇気を出してソファーに座った。


 キミエは來夢を見ると目を細めた。


「それであなたは死んだ彼に誰が彼を殺したのかが訊きたいんだね」


 來夢はこくりと頷いた。

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