沖縄のユタ(3)


 若い頃はさぞかし美しかっただろうと想像される。


「いらしゃい、いらっしゃい、どうぞどうぞ」


 はつらつとした明るい声だった。


 喫茶店で聞いた話から陰気臭い老女を想像していたが、それとは真逆の印象を受けた。


 部屋の中はやたらと物が多かった。


 ゴミ屋敷と呼ぶほどではないが、それに近いものがある。


 ソファーに大きなクマのぬいぐるみが座っていた。


「マー君はちょっとこっちに座っててね」


 キミエはクマのぬいぐるみを端に寄せると、どうぞ、と來夢と将樹をソファーに促した。


 将樹がクマの横に座ると、クマが将樹に倒れかかってくる。


 何度押しやっても頭の大きいクマのぬいぐるみはバランスが悪いのか将樹の方に倒れてくる。


「まぁ、まぁ、マー君ったらこのお兄さんのことが気に入ったのね、後からゆっくり、ね」


 将樹の体が一瞬固まったのが來夢には分かった。


 何が、後からゆっくりなのだろうか。


「さてさて、今日は何をみてもらいたいの?」


 キミエはメモとペンと取り出し眼鏡をかけた。


 部屋の端で最近はあまり見ないレトロな扇風機が大きな音を立てて首を振っている。


「死んだわたしの彼を呼び出して欲しいんです」


 來夢がそう言うとキミエは将樹の方をちらりと見た。


「彼の名前は?」


 キミエは雪也の名前をメモに書きつける。


「それで彼はいつ頃どこでどんなふうに亡くなったの?」


「3年前の4月16日、ビルの屋上から突き落とされて殺されました。彼を殺した犯人は捕まっていません、今日は彼に誰が犯人なのかを訊いてもらうためにここに来ました」


 キミエは眼鏡をずらして上目遣いに來夢を見た。


 扇風機の唸る音だけが部屋に響く。


「なるほど」


 キミエはそう言うと椅子の背もたれに深く身を預け目を閉じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る