新たな事実(6)


—— 來夢、もういいよ、來夢が分かってくれたのならいいよ、これ以上自分を危険な目に合わせないで。もう僕のことは忘れて幸せになって。


「雪也」


 來夢は枕に顔をうずめた。


 雪也が死んでから1年間ほぼ毎日泣いていた。


 それから2年、來夢は涙も流さず声も出さずに泣くようになった。


 泣くことを誰にも自分にさえも分からないように泣くようになった。


 哀しみで死んでしまえたらいいのに。


 死んで雪也のところへ自分も行けたらいいのに。


 雪也に会えたら訊きたいこと伝えたいことがたくさんある。


 一緒に逝けなくてごめん。ひとりで寂しくはないか?雪也は自分と一緒にいて幸せだったか?


 そして……。

 

  今でもどうしても來夢の胸の奥に澱のように沈んでいる問い。


 どうして雪也はわたしを抱いてくれなかったの?


 來夢は両手をかざす。


 こんな能力より今は死んだ人の声が聞けるような能力が欲しい。


 そうしたら雪也にいろんなことが訊けるのに。


「そうだ」

 

  來夢は勢いよく起き上がった。


「こうなったら犯人は誰だか雪也自身に聞けばいいんだ」

 

  灯台下暗し。


 自分の祖先はユタではないか。


 ユタでなくてもイタコでもいい。


 世の中には死者と会話ができる人間がいる。


 それを信じるか信じないかは人それぞれだが、來夢はもちろん、イエス、信じるだ。

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