雪也の仇(8)


 時刻表を見ると次の電車まで15分ほどある。


 並んでベンチに座った。


「次はどうすんの?」


 将樹はコンビニで買った缶コーヒーを袋から取り出し、1つを來夢に手渡す。


「しばらく男を見張ってみる」


 コーヒーを飲む将樹の喉が鳴る。


「もしかしたらさ、あいつ余罪みたいのがあるかもな、それかまた事件を起こすかも知んないし、新しい事件であいつを捕まえることができたら、前の事件もひっくり返すことができるんじゃないかな」

 

 來夢は将樹の肩を掴んだ。


「将樹頭いい!」


 将樹は來夢の顔を見つめニッと口の端を上げた。


「今日やっといい顔をした」


「なに?」


「ん?今日やっと明るい顔をしたなって思って」


 來夢は前に伸ばした自分の足先を左右に揺らす。


 車のワイパーのように左足が右足を追いかけ、右足が左足を追いかける。


「ありがとうね将樹、今日1日付き合ってくれて」


「今日だけじゃなくて今度も付き合うよ」


「うん……」


 特急電車が通過することを伝えるアナウンスががらんとしたホームに流れる。 


 耳をつんざくような騒音と突風と共に電車が通り過ぎていく。


 生温かい風が顔を煽り、來夢の前髪を揺らした。


「どうして将樹はわたしにこんなに良くしてくれんの?」


「好きだからに決まってんじゃん」


「でもわたしはまだ雪也を」


「だって死んでんじゃん」


  またアナウンスが流れる。


 反対側のホームに電車が滑り込む。


 空気の漏れる音と共にドアが開閉し、ゆっくりと電車はホームを離れていく。


ホームにまばらに降り立った人たちが改札の方へと集まっていく。


「その元カレに嫉妬しないわけじゃないけどさ、それに」


「それに?」


「可哀想な男だよな、死んじまって」


 向かいのホームには誰もいなくなった。


 いなくなったはずのホームに、


 男が1人立っていた。


 男は來夢を見ていた。 


 まっすぐに。

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