あの日の真実(7)


 紙ナフキンの屑で散らかったテーブルに來夢の飲んでいたコーヒーカップだけが残されている。


 ガラス窓の向こうに少女の後ろ姿が飛び込んできた。


「待って」


 來夢は人混みをかき分け少女を追いかけた。


 少女は來夢が追いかけてきたのに気づいて振り返る。


「あ、もうホットアップルパイいらないから」


「雪也は自殺したんじゃない殺されたの」


「どしたの急に」


「その男に殺されたんだよ。事件はあなたの事件だけじゃない。あなたを犯した男は雪也も殺してるんだよ」


 來夢は手袋を外す。


「思い出してその男の顔、あの夜のことをもっとちゃんともっと鮮明に」


 少女に触れようとした來夢の手を少女は激しく振り払った。


「やめてよ!」


 少女は叫んだ。


「もうこれ以上関わりたくないんだけど。殺人?知んないよそんなの、あたしに関係ないじゃん。お姉さん警察に一人で行けば?あたしはもうあの時のことは思い出したくないの」


 人混みに消えて行く少女を來夢はそれ以上追うことはできなかった。 


 小さく千切られたナフキンの紙屑が少女と重なった。


 大人から何度も切り刻まれた少女の心。


 ちょっと息を吹きかければ簡単に飛んでいって汚れた床に落ちる。


 それを人々は気づきもせずに踏みつけていく。


 自分もそのひとりだ。


 男たちの犠牲になった少女を同じ女の自分がまた傷つけるのか?


 ふと、あの少女の母親はどんな母親なのだろうと思った。


 過去の事件、そして今の少女を知っているのか?


 知っていて好きにさせているのか?


 それとも知らないのか?少女を愛しているのか?


 それとも……。


 通りの先に交番があった。


 警察は信じてくれるだろうか?


 3年前の事件を少女の証言なしに覆すことができるだろうか?


 それでもやらないわけにはいかない。


 雪也は自殺じゃない殺されたのだ。


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