あの日(7)


 ジムを出ると雨は来た時よりも激しく降っていた。


「あの」


 傘を広げようとして声をかけられた。


「これ落としましたよ」


 來夢のジムの会員証を手に持ったあの男が立っていた。


 太い指はさっき來夢の中心をかき混ぜたあの指だった。


「週に何回くらい筋トレするんですか?」


 なんとなく傘を並べて來夢と男は一緒に歩き出した。


 差し当たりのない会話が始まる。


 男の低い声を聞いて來夢はさっきのシャワーブースの中で足りなかったものがあったことに気づく。


 男の視線、汗ばんだ体、骨太い指、でもこの声がなかった。


「本当は運動した後は飲まない方が筋肉つくらしいんですけど飲んじゃうんですよねぇ。これがまた最高にうまいっていうか」


「一杯飲んでいきます?」


 誘ったのは來夢だった。





 松田将樹との出会いだった。

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