羅生門〜全く異なる別のお話〜

桧馨蕗

第1話

あるの日のことである。一人の男が羅生門へ急いで向かっていた。



羅生門の下には一人の女がいる。その女の名はふみ。男、五郎の恋人である。



ふみと五郎が出会ったのは3ヶ月前のことである。当時の五郎は唯一の肉親であった父を亡くし、朧気な毎日を意味もなく過ごしていた。



そんな時、ふとある女に目を奪われた。そこには天女と見間違うようなとても美しい女がいた。そう、それが後の彼、五郎の恋人であるふみであった。



その美しき恋人が伝えなくてはならないことがあると文が届いたのだ。



雲はどんどん暗く厚くなってゆく。



嫌な、予感がする......。



五郎は急いだ。一刻も早くふみのもとへと行くために。



ふみ。

そう呼ぶと彼女は暗い表情で五郎を見つめた。



しんしんと、冷たい雨が地面を濡らした。



しばらくして、ふみは話し始めた。伝えなくてはならないことを。もう、会えないということを。その理由を。



五郎はそれを黙ってきいていた。ただ、黙ってうつむいてきいていた。



吾郎が黙って話をきいているとき、ふみはあることを思っていた。



これで、やっと別れることが出来る、と。



ふみは最初から五郎のことを恋人となどは思っていなかったのだ。最初から...。



3ヶ月前ふみはこれまで1年間付き合っていた男と別れた。理由は、男の家が没落したからだ。男と付き合っていたのは金の為、全ては自分に貢がせる為である。家が没落したのだからもうこの男に用はない。次なる鴨を見つけようとしていた時、告白してきたのが五郎だったのだ。



そうして、2人は恋人となった。ふみは今までのように多くの物を貢がせた。そして、五郎は彼女を繋ぎ止めるために多くの物を貢いだ。



しかし、その関係も今日で終わる。もう五郎はふみにとって必要ないのだ。1週間後にはここら一体を任されている大地主に嫁ぐことが決まっている。豊かな生活が待っている。贅沢も美しい反物も好きなだけ、望むだけ手に入る。



うつむいていた五郎が静かに笑いながら顔を上げた。



ふみはその異様さに怖くなった。いつもの優しい笑みを浮かべながら、目には狂気を宿している。



わかったよ。ふみ。



ふみは謝罪を口にしながら早々とその、嫌な雰囲気が漂うその場をあとにした。



唐突に、胸に鋭い痛みを感じた。見てみるとそこには鮮やかな赤い華が白い着物に咲いていた。



大丈夫ですよ。ふみ。私たちはずっと一緒です。



それが、ふみが意識を失う前にきいた、この世の最後の言葉であった。



〜完〜

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