第12話 ギルド登録と商会の噂


 紆余曲折があったがビートと契約を結び一夜が明けた。

 ビートを奴隷扱いするつもりはなく普通に仲間として扱うつもりであるし、期を見て奴隷契約を解除するつもりでもいる。

 なので床で寝ると言うビートに対しても、そんな必要はないからとベッドを用意した。

 だがまだお互いに信じれない所もあるので、信用できるまでは一緒にいる利点を活かした相互関係でいようと話して、俺はビートに戦い方を教えて鍛え、逆にビートは影武者として表に立ってもらうことを了承して貰った。

 その第一歩として今日はまずビートをギルドに登録するために、早速ギルドへ向かい、ビートを連れてギルド[クリフォート]に入ると、直ぐにこちらに気付いたルインが駆け寄ってくる。


「あっ! アヴラムさんおはようございます! ギルド長が首を長くして待っていますので、奥の部屋に早く来て下さい!」


 ルインがそう言う理由は間違いなく[ゴブリンの生角]の登録のことだろう。

 最初は仮契約ということもあり変な目で見られていたが、今ではお出迎えをしてくれ態度の変わり様が極端だ。

 そしてルインは近くまでやってくると、ようやく後ろにいる存在に気付いた様で、目を輝かせて質問をしてきた。


「もしかして……その子が君の奴隷かな?」


「そうだ、俺の奴隷というか仲間だな。名前はビートだ。ほら挨拶しな」


「ビートです。ヨロしくおネガいします」


「きゃー! 何この子のこの喋り方、見た目も相まって可愛くないですか? こちらこそ宜しくだよー」


 ルインはビートの手を握って、ブンブンと握手をしている。

 獣人族は喋り方に特徴があって人によって独特のイントネーションがあるのだが、ルインはビートの喋り方と見た目をずいぶんと気に入ったようだ。

 聞けば兎人属を含む、犬や猫など、獣人属の中でも小型種と呼ばれる彼らは、その可愛さから愛玩シリーズとして、多くのファンがいるらしい。それゆえに人拐いに狙われやすいのだが……

 それはさておき、早速ビートをギルドに登録して貰う。


「お待たせしました。こちらがビート君のギルドカードです」


――――――――――――――――――――

名前:[ビート]

ランク:[G]

称号:[初心者冒険者]

所属:[クリフォート]

――――――――――――――――――――

――――――――――――――――――――

ステータス

状態:[異常無し]

能力:[体力C][魔力E]

スキル:[獣化EX][脱兎C][気配察知E][聞き耳E][二段飛びE][剣圧F][隠匿E]

――――――――――――――――――――


 いずれは冒険者ギルドの方に行くつもりなので、このギルドに所属まで登録するつもりはなかったのだが、新素材の登録でギルドが恩恵を受けるためには、そこまでしていなければいけないそうだ。

 それにしても[獣化EX]というユニークスキルがどんなものなのか気になるので、今度訓練を始めたら見せて貰おう。


「ありがとう、これで新素材の登録でうちに恩恵があるよ! 急いで登録してくるから、後はルイン君に任せた!」


 ギルド長のデミスは勢い良く俺とビートと握手をし、足早に部屋を出ていった。

 そんなにあの[ゴブリンの生角]が価値があるのか分からないが、あの喜びようだからきっと想像以上の価値があるのだろう。

 それにしてもあれだけ急ぐのであれば、昨日のうちに報告しに来て上げた方が良かったかもしれない。


「それでは依頼の残りの素材を買ってきたので、確認して貰えますか?」


 普通の[ゴブリンの角]をルインに渡す。

 ルインは『分かりました。直ぐに確認してもらいますね!』と直ぐに外に出ていったのだが、僅か数分で戻ってくる。

 ルインに『これはタダなので食べてください!』と出されたお菓子を食べる間もなかったぐらいだ。


「ちょっ! 早くないですか?」


「いえいえ、そんなことは無いですよ! アヴラムさんとビート君はこのギルドの客員扱いですからね。鑑定の順番を割り込ませて貰っただけですから気にしないで下さい。」


 誉めてくださいと言わんばかりに、[えっへん]というポーズをとっているが、サラッと他の冒険者から不平を訴えられそうなことを言われたのだから、どう考えても気になるだろう。


 ……まぁ、他の冒険者と仲良くするつもりはないから別にいいけど。


「それではこちらが依頼の報酬になります」


 ルインからゴブリンの角を納入した報酬を貰い、渡された袋はかなりの重量であるので銀貨が多いのかもしれない。

 依頼のランクはEで内容は簡単だった。それに[ゴブリンの角]を買う費用は、一本あたり銀貨2枚だ。

 単純に計算しても20本買う費用として銀貨40枚が経費として掛かるが、労力はそんなに掛かっていないので銀貨5枚ぐらいをプラスで貰えれば良いぐらいだろう。

 今回は実際にゴブリンを倒したが、ただ商会に行って買ってくれば良いだけなら、早ければ一時間と掛からずに済む。

 労力に対する報酬は銀貨5枚あれば十分で、多く見積もったとしても銀貨50枚だろう。

 それにしても金貨に換金してくれれば、枚数が金貨5枚とかなり少なくなるのに不親切なものだ。

 もしかしたら普通の冒険者が使うお金は銀貨で、銀貨払いが当たり前なのであれば文句も無いのだが、ギルドでお金を預かってくれるはずだから金貨も有るはずなのだがこれでは二度手間だ。

 ビートをギルドへ正式に登録したので、ビートの名義でお金を預かってくれるはずではあるが、後でお金を預けて換金してもらうにしても枚数を数えなければということで、おもむろに袋をひっくり返す。


 出てきたのは銀貨だけでなく金貨も大量に含まれていたので、ビートと共に目を見開き驚く。しかしビートの感想は俺とは違った。


「キンカイッパイ……おマエ、ワルいことでもしたのか?」


「いやいや、なんでそうなる! 普通に依頼を達成しただけだ! それとそろそろお前呼ばわりは止めない?」


「ならごシュジンサマ?」


「……ったく、極端なヤツだなー。アヴラムと呼び捨てで良いよ、オレもビートと呼ぶから」


「ワかった。でアヴラムはナンでこんなにキンカイッパイ?」


「そうだった。ちょっとルインさん? この額はおかしくないですか?」


 銀貨だけだと思っていたら、ざっと見ただけで金貨が大半で銀貨がちょっと混ざっている。合計すると40枚ぐらいだろうか。

 思っていたより枚数は少ないが、額は遥かに高い。


「いえこれが普通ですよ? 確かにお礼もしなければとは思っていましたが、これは本当に報酬だけです」


「いやでも、仕入値が一本で銀貨2枚だったんだぞ? ただ買い物してきただけでこんなに貰えるのは流石におかしいだろう?」


「な!? 1本、銀貨2枚? それは本当ですか!?」


「ええ、そのはずです」


「普通、一本買うのに銀貨だと最低10枚はいりますよ! 間違って払ったんじゃありませんか?」


 ここまで言われると流石に不安になり、自分の記憶を疑う。

 ……あれ? 俺が払った金額、違ったかな?


 懐に入っている残りのお金を確かめるも、[ゴブリンの角]を買うのに払ったのは銀貨20枚で間違いなかった。ということは商会に払った金額が間違ってたのか考える。

 ……いやいや、お金のプロである商会がそんなことをするはずがない。

 商人は銅貨1枚の損益でも嫌う人種で、知り合いに商人もいるので、どれほど商魂が逞しいのかを知っている。だからこそ銅貨1枚の重みを嫌というほど知っている彼らがそんか間違いを犯すはずがない。

 ……だがルインがそこまで言うのであれば一度は商会に行って確認するしかないな。


「やっぱりおマエワルいことした?」


「違う……はず」


 ビートが疑念の表情でこちらを見てくるので、早く誤解を解かないといけない。

 ……はぁ、なんでこんなことに。


 銀貨10枚はいるのなら2枚で済んでいるのは確かにおかしい話で半額どころか1/5だ。

 しかし記憶が正しければ、その価格を提示してきたのは向こうだ。

 それならば間違ってると普通は思わないだろう。

 だがビートの目線が痛いので、誤解を解く為に早く商会に行くことにする。


「スミマセン。ではちょっと商会に確認してくるので、デミスさんが戻ってきたら直ぐに戻ると伝えといて貰えますか?」


 今、デミスは新素材の登録に行っていて、その登録場所は聖都市にあるギルド本部だ。

 主要都市間は飛竜船で結ばれており、ここから飛竜船で行けば10分もかからない距離で、馬車で行っていても2時間ぐらいだろうか。

 でもあの焦り方だとそんなに時間をかけないだろうから、直ぐに行って帰って来るはずだ。


「分かりました。ところでゴブリンの角を購入した商会ってどこなんですか? もしウチのギルドと懇意にしているところなら、許してもらえるように私から頼んで見ますよ?」


「えっと確か[トロイメア商会]だったと思います」


「なっなっなっ。もう一度聞いていいですか?聞き間違えたと思うので」


 ガタッ! とルインさんが立ち上がったから何事かと思うが、取り敢えずもう一度教える。


「だから[トロイメア]商会で、珍しく名刺もくれたので間違いないです」


 商会で流行しているという名刺をルインに渡す。

 その商会の紋章である、盾と剣をあしらった六芒星のマークだけが書かれているので、誰の名刺だったかまでは思い出せないが、トロイメアであることの証明にはなるだろう。

 ちなみに名刺は昔に召喚された勇者が持ち込んだもので、なんでもその勇者は[ガクセイキギョウカ]なる職業をしていたらしく、『俺は頭を働かすのが専門だから』と、魔物を倒すことをしなかったらしいが。

 商人が懇切丁寧に教えてくれるから、商会の名前もしっかりと流石に印象に残っているので間違えるはずがない。


「いや、落ち着け私。アヴラムさんは非常識だと思っていたじゃない。うん。よし!」


 聞こえてないつもりなのだろうか? なにやらぶつぶつと身の覚えのない事を言われている。

 ……誰が非常識だよ。


「あの、聞こえてますよ!」


「ひゃい! すみません……で、本当にトロイメア商会で買ったのですか?」


「だから何回もそう言ってるじゃないですか。トロイメアだと何か不味いのですか?」


「いえ問題ないというか何というか……」


 何とも歯切れの悪い受け答えをされる。

 直接見てきた印象では別に普通の商会だった。

 確かにゴブリンの角を売ってくれなかった他の商会よりは大きいところだったが、知ってる商会よりは小さい商会という印象でしかない。


「トロイメア商会はこの国で二番目に大きな商会です……」


 どうやら認識がおかしかったみたいだ。

 まさかのトロイメア商会はこの国で2番目に大きな商会で、教会の私営軍隊である聖騎士団のように自分達の軍隊を持つほど、かなり力を持っている商会だそうだ。

 そしてそれならば知り合いがいる商会が1番大きな商会なのだろう。

 ……まぁ聖騎士団と懇意にしている商会という時点で、そこが一番大きな商会だと認識しておくべきだったかも知れない。


「それでどうするのですか? 本当に間違えてお金を払ってたら、殺されるかも知れませんよ?」


「いや、流石にそれは……あるんですか?」


「ええ。噂ですけど、[トロイメア商会]はお金に関しては血も涙もない商会として有名ですから。もし間違いだったとしても、向こうはそうは思っていないかもしれないですから……」


 ……うっ、そんな事を言われると行きたく無くなるじゃないか。

 しかし見た目はお金をもっていなさそうであるはずなのに、俺を騙すメリットは何なのであろうか?


 考えても分からないので、とりあえず逃げ出そうとしているビートの首根っこを捕まえてから[トロイメア]商会に行くことにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る