第4話 仲間との溝が深まる


 救援要請による各地に出没する魔物の討伐を終えて聖都市に帰って来た日、現状の悩みを打ち明けるべく聖騎士団の団長であるアルトリウスの部屋へ向かった。


 さすがに最近の勇者の蛮行は目に余るものがある。

 確かに魔物を倒すし盗賊を捕まえもする、それでも酒池肉林の生活態度と、俺は勇者なんだから当然だろと言わんばかりの振る舞いはいかんともしがたいのだ。

 聖騎士団長であれば国王にも進言でき、勇者の行いを改めさせることが出来るかもしれない。そんな淡い期待を持って団長の部屋にやって来たが、しかし時は既に遅かったのだろう。

 聖騎士団の部屋に入ろうとした時、その前に部屋から団長が神官と共に出てきたのだ。

 『アヴラムお前……』とその場では濁されたがどうも雰囲気がおかしい。なので流石にこの場で勇者について報告することは躊躇われた。

 その後、直ぐに呼び出された王の間で、団長の様子がおかしかった理由が判明するのだが……。


■■■


 王の間に入るとそこには既に勇者と仲間達がいた。

 アヴラムは謁見する日を忘れていたのかとも思ったが、そうではなかった。

 『アヴラムよ。最近お主の様子がおかしいと耳にしてな、皆より話を聞いていたのだ』と国王が自ら説明してくれた。

 思ってもみなかった言葉にアヴラムは困惑する。すぐさま否定し訂正し、それは勇者の事ではないかと言いたいが、王には確信があるようなので、とりあえずは謝り、詳細を聞くことにした。


 王より受けた説明を聞いて、アヴラムは愕然とし憤りを感じる。

 アヴラムのおかしな態度によってパーティーの和が乱れていて、さらに勇者の威光を自分の物にしようとしている?

 そして勇者の功績で聖騎士団の団長の座を狙っている?

 説明された話は間違いであるか、アヴラム以外の勇者一行のことだったが、全ての責任をなすりつけられたのだ。

 アヴラムは深呼吸をし落ち着こうとするも、何から説明すべきか整理がつかない。

 どうすべきか悩んでいると、『待ってください!』と救いの手を差し伸べてくれたのは以外にも勇者本人だった。

 しかし『彼にも彼なりの事情があったのでしょう。我々は勇者であって聖騎士団とは違うので、その違いに戸惑うことも多いでしょう。なので疲れて混乱していたのではないでしょうか?』と何とも的外れなフォローだ。

 感情に任せて『いや普通にお前らがおかしいだけだろ!』と言いたいところだが、そんなことを言えば首が飛びかねない。

 様々な陰謀に巻き込まれることは避けたいので、ここを我慢すれば丸く収まるのであればと、アヴラムは素直に従うことにした。


 こうして勇者のフォローのおかげ? もあって、なんとかこの場は収まり、王との謁見は事なきを得たのは良かったが、アヴラムは聖騎士団にも属する身である。

 公の場で団長の座を狙っていると、それも国王の口から出た証言が問題にならない訳がない。

 アヴラムは疑惑の目の元に審問会議にかけられる事になった。

 完全に根も葉もない無実であり、聖騎士団で公正に調べて貰えれば分かってくれるはずだと期待したのだが、その期待は直ぐに裏切られ考えが甘かったことに気付かされる──審問会議の中に神官が混ざっていたのだ。

 武人である聖騎士団と文官である神官は、同じ神に使えるとは言っても普段なら水と油で仲が良くない。

 それが同じ場にいるということは、既に聖騎士団に神官が取り入っているのだろう。

 自身が帰るべき場所が既に安心できない場所になっていて、これ以上は何を言っても無駄であり、アヴラムは反論することを諦めた。


■■■


 審問会議は、滞りなくおわった。


 団長の座を狙っているという疑惑は、確たる証拠が有るわけではないので、保留という結論に落ち着いたが、結論としてはアヴラムが全面的に悪く、聖騎士団としての行いに相応しくないとされ謹慎処分とされた。

 それだけならまだ良かったのだが、聖騎士団から与えられているアイテム、そして武器の類いを全て取り上げられてることになった。

 アイテムや防具などはまだ別に構わないが、剣は別だ。

 10歳で聖騎士団に入団し、その時の師匠に貰った聖剣は共に幾つもの死線をくぐり抜けてきたアヴラムの魂の武器とも呼べる相棒である。

 一時的な処置なのかもしれないが、それをあっさりと取り上げてしまう扱いは『もうここには俺の居場所は無いのかもしれない』と離別の決意をするには十分な理由であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る