第3話 勇者とは何なのであろうか?
大聖剣を与えられた勇者の実力は一気に高まった。やはり大聖剣の力は凄まじいものがあるのだろう。このことにより、これまでは他のパーティーメンバーが後は止めを刺すだけという所まで追い込んでいたのだが、そうなる前から勇者が率先して魔物に斬りかかるようになった。
危なっかし所があるとは言ってもこれ事態は良いことだと思うのだが、それと同時に自分の力に陶酔して態度が大きく加虐的になったのはいただけない。
これまで武器という力を手にしたことの無い人が急にその力を手にすると、それが自分の力だと過信することがある。
アヴラムは勇者が完全に剣の力に飲まれる前に何とかしないといけないので神官に忠告して見るも、『何も問題ない』と一蹴された。
勇者とは誰よりも偉大で尊大であるべきだから、自信をつけることは正しい成長であって、決して力にのまれている訳ではないらしい。
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これはとある地方の小さな町に立ち寄った日のことだ。
収穫を間近に控えた穀物を見て何を思ったのか、いきなり剣を振り回し刈り取りだした。
アヴラムが『何をしてるんだ!』とあわてて止めて、話しを聞くと、『こうするとお金が手にはいると思ったから試しただけだよ』と笑いながら返された。
言っている意味が解らずアヴラムは戸惑うも、その後も勇者は樽や木箱を壊していき、出てきたアイテムを自分のものにしていて唖然とした。
これは大丈夫なのか聞いてみても、神官は問題無いと言い、勇者は村人に『何を……』と困惑されても『いや勇者だから普通っしょ!』と悪びれる風もない。
どうしたものかと、回りのパーティーメンバーに助けを求めるが、特に気にする様子が無く、これ以上は咎めることが出来なかった。
アヴラムは頭を抱えるが、村人の顔を見ると、どう見ても迷惑そうにしているので自分が間違っていないと思い直す。それでも、もはや勇者を止めることは出来ない。
アヴラムはこのメンバーと一緒に過ごす今後を少しずつ不安に思い、勇者一行としての先行きが不安になる。
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討伐を終えた後に訪れた村では、いつものように勇者は個室に案内され、残りのメンバーは大部屋に案内された。そしてこの時に神官が所用でしばらくいなくなる時があり、監視役がいなくなったので、ここぞとばかりに勇者について他のパーティーメンバーに聞いてみることにした。
しかしその返答は思わぬもので、パーティーメンバー達はそ知らぬ顔で、『別に問題ないのでは?』と言う。
アヴラムはそんな訳ないだろうと思い、もう一度聞こうとするが、逆に大丈夫かお前という目を向けられた。
後で知ったのだが、アヴラム以外のパーティーメンバーも、勇者の威光を借りてやりたい放題していたようだ。
その事を知ったアヴラムは、人の為に戦う行いこそが、勇者一行としての努めなのではないかと思っていたので、愕然とする。
アヴラムは聖騎士団の生活と同じように規則正しい生活を送り、空いた時間は訓練に当てていたのだが、その間に遊びまくっていたと聞くと何とも嘆かわしい。
勇者としての正しい振る舞いは分からないが、物語の勇者ユウキがこんな生活をしていたとは考えられないのだ。
聖騎士団での生活と考え方とはあまりにかけ離れているので、アヴラムはこのまま勇者のパーティーで上手くやっていける自信が無くなっていくのだった。
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