第66話 御門さんの計画 3
「違うよっ!そんなの全部嘘だから。旭ちゃん信じて!」
「御門さんの狙いがようやく分かった。なんて陰湿でバカらしい事を考えるんだ」
あれ、どうやら壮一や琴音ちゃんは、事態が飲み込めているみたい。真っ青になったり頭を抱えたりしていて、何だかショックを受けているようではあるけど。
「仕方がありませんわ風見さん。これが御門様なのです」
「私達も最初聞いた時はドン引きしました」
「「だったら止めて!」」
もしかして、理解できていないのはアタシだけ?いや、空太はどうだろうか?
「ねえ、御門さんの言ったのってどういう事か分かる?」
「まあ一応ね。きっと御門さん、ソウ兄と琴音さんをくっつけることで、アサ姉に嫌がらせをしようと企んでいたんだよ」
「へ?どうしてそれが嫌がらせになるのよ?むしろ万々歳じゃないの」
「実際はね。けど御門さんはそうは考えなかった。何故ならアサ姉とソウ兄が恋人だって思っていたから」
「……えっ?」
まったく予期していなかった言葉に、思考が追い付かなくなる。恋人って、何の話よ?
「アサ姉とソウ兄が恋仲だって勘違いしてたってことだよ。もし本当に恋仲だったとして、そんな大事なソウ兄を横からかっさらわれたとしたらどう思う?」
「うーん。もしそうだったら、やっぱりショックかなあ。うん、大ショックね」
「更にその盗った相手というのが、琴音さんだったら?」
仮にだけど、もし御門さんの言う通りアタシと壮一が恋人同士だったとしたら、アタシは恋人を親友のである琴音ちゃんに盗られたって事になるわけか。そうなると……
「寝込むわね。って、それじゃあ御門さんは、そんな酷い嫌がらせをしようとしてたってこと?」
「そういうこと。やっと分かってくれたね」
何よそれ。理解できたはいいけど、何て陰湿な事をするんだ。沸々と怒りが込み上げてきた。最初はこの閉じ込めシチュエーションを聞いた時は喜んだけど、これじゃあお礼の言葉も言えないよ。何より……
「旭ちゃん…」
涙ぐんでいる琴音ちゃんを見ると、心がズキズキと痛む。おそらくさっきの御門さんの話を真に受けて、申し訳ないと思っているのだろう。流石にこれはアタシでも分かるよ。けど、そんなに落ち込まないで。
「琴音ちゃん、ごめんねっ!」
アタシは琴音ちゃんに歩み寄ると、そのまま彼女を抱き締めた。
「えっ?な、なに?」
「ごめんね、不安にさせちゃって。でも気にしなくていいんだよ。アタシはぜーんぜん気にしていないんだから」
落ち着かせるように優しく頭を撫でていく。この様子だと本当に壮一との仲は進展してなさそうだというのが残念ではあるけど、それは仕方ないか。無理に急かすべき事でもないし、もう少し気長に考えるとしよう。
するとその様子を見ていた壮一も、ホッとしたように胸を撫で下ろす。
「旭、信じてくれたんだね」
「もちろんよ壮一。そもそもアタシと壮一が恋人だって言うのも御門さんの勘違いなんだから、気にする必要もなかったんだけどね」
「えっ、あ、うん。そうだね」
「それよりも問題は……御門さん!」
琴音ちゃんを放し、今度は御門さんと向き合う。しかしやはりこの人からは反省の色は見られない。
「おーほっほっほ。強がっていられるのも今のうちですわよ。口ではいくら平気とおっしゃっても、心までは偽りませんものね。そうでございましょう?」
「「はい、その通りです御門さ……」」
「シャラップ!」
「「ひいっ!」」
アタシの一声で黙る鳥さんと牧さん。アタシはやれやれとため息をついた後、御門さんと目を会わせる。
「御門さん……バカだバカだとは思っていたけど、まさかここまでとは思わなかったわ」
「は?なんですって!」
バカ。アタシがそう言ったとたん、キッと御門さんの顔が鋭く変わる。だけどアタシは怯まない。
「今わたくしの事を何ておっしゃいました!?もう一度言ってごらんなさい!」
「バカって言ったのよ」
「二度も言いましたわねっ!」
「自分で言えって言ったんじゃない!」
こういう所がバカだって言っているのに、本人は全く自覚がないようだ。そしてあいからわらず、悪口への耐性も低い。怒りを露にし、わなわなと肩を震わせている。
「み、御門様。どうか落ち着いてください」
「春乃宮さまの言うことなんて、気にすることはございません」
鳥さんと牧さんが慌ててフォローを入れる。しかし。
「……お黙りなさい」
「「はい、御門様!」」
今度は御門さんの一声で、簡単に黙ってしまった。そして、なだめる者のいなくなった御門さんの怒りは止まらない。
「春乃宮さあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁん!」
うるさっ!そんなに大きな声を出さなくても、ちゃんと聞こえているから。
「なあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁんて失礼なんでしょう!わたくし、このような侮辱を言われたのは初めてですわ!」
「言われてなかったってだけで、御門さんこと、結構皆バカだって思ってるから」
「なあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁんですって!」
「御門さん、五月蝿いって。ほら、遠くで下校している人達がビックリしてこっちを見てるから」
「そんなことはどうでもいいのです!バカ?言うに事欠いて、このわたくしをバカと?何という屈辱でしょう!その上皆がそう思っているですって?鳥さん牧さん、お聞きします。わたくしはバカでしょうか?」
心外と言わんばかりの様子で、二人に目をやる御門さん。が……
「「はい、その通りです御門様!……あっ!」」
本音が出たな!きっと普段から思っていて、うっかり口を滑らせてしまったに違いない。
二人の発言を聞いた御門さんは顔をひきつらせながら青筋をたてている。そして鳥さんと牧さんはというと、可哀想に肩を抱きしめあいながらガタガタと震えていた。
「も、申し訳ございません御門様」
「つ、つい本音が……いえ、心にも無いことを言ってしまいました」
いや、本音でしょ絶対。もう取り巻きなんてやめたほうが二人にとってもいいような気もするけど、きっと報復が怖くてそれもできないのだろうな。辞めると報復が待っているなんて、まるで暴走族みたい。いや、やくざかな?
「お二人への落とし前は後でつけるとして……」
「「ひいっ!?」」
「それよりもまずは春乃宮さんですわ!わたくしをバカだと仰るのなら、その根拠を言ってごらんなさい!」
「そう、だったら言うけどさあ。御門さん悪巧み、根本的な所が間違っているから。そもそも……」
そこで一呼吸おいたアタシは大きく息を吸った後、御門さんをビシッと指差し、そして言い放った。
「アタシはね、壮一の事を恋愛対象として見たことなんて無いのよ!今まで一度も!」
「………へ?」
これには驚いたのか、御門さんはポカンと口を開けている。別にそんなビックリする事でも無いと思うんだけどね。しかし……
「えっ、嘘?」
「でも、風見さんは…」
さっきまで震えていたのがピタッと止まり、鳥さんや牧さんも困惑の表情を浮かべている。更に……
「そうだったの?」
琴音ちゃんまで驚いたように固まっている。しかし、すぐに何かに気づいたようにハッとなり、壮一の方を振り向いた。
「風見君っ!」
「……………」
琴音ちゃんの視線の先、壮一は何も言葉を発しない。ただその顔色が、さっきよりも悪くなっているような気がした。
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