真実を告げる時
第64話 御門さんの計画 1
体育祭も、帰りのホームルームも終わった放課後。アタシは校舎の外で空太と一緒にいた。
「どう?壮一と琴音ちゃん、見つかった?」
「ダメだ。どこにもいない。校舎の中にもいなかったんだよね」
「どこを探しても見つからなかったわ。更衣室に琴音ちゃんの制服が畳んだまま置いてあったし、さっき男子に聞いたら壮一の制服もあるって言ってたから、もしかしたらまだ外にいるかと思ったんだけど」
ホームルームに、壮一は顔を出さなかった。琴音ちゃんなら何か知っているかもと思い彼女のクラスを訪れたものの、なんとこちらも戻ってないと言われたから。空太に応援を頼んで二人を探しているのだけれど。
「二人ともいったいどこに行っちゃったんだろう?スマホを持っていれば連絡がとれるのに」
「二人してサボり…なわけ無いよね。もう放課後だし」
そもそもあの真面目な壮一と琴音ちゃんが、理由もなくサボるなんて考えられない。
放課後は皆で打ち上げでもやろうかと思っていたのに、どこで何をやっているのだろう。何だか嫌な予感がする。
「まだ探してない場所もあるんだよね。今度はアタシも、外を探してみる」
「そうだね。それにしても、俺が当たり前のように高等部の敷地を歩いていいのかなあ?」
「今更でしょ。それに、二人が行方不明なんだもの。そんなこと言ってる場合じゃないじゃない」
「確かにね。じゃあ、グラウンドの方を探してみよう」
アタシ達は二人して駆けていく。
しかし、いったい何が起きているのか。二人がいなくなるなんて展開、あな恋でも無かったのに。体育祭が終わった後は、普通に帰っていたんだけどなあ。空太の言ってたように、ゲームじゃないからこんな事も起きるということだろうか?
そんなことを考えているうちに、グラウンドに到着した。
少し前までは多くの生徒で賑わっていたここも、今では閑散としている。もちろん壮一の姿も、琴音ちゃんの姿も無い。
「やっぱりいないかあ」
「けど、見落としがあるかも。外周に沿って回ってみよう」
「そうね」
空太の提案で、歩を進めて行く。だけど、やっぱりいないなあ。目に映るのは、遠くで下校していく生徒の姿と体育倉庫。それに…
「あのー、御門様。いったいいつまでこうしていおつもりでしょうか?……リンゴ」
「生徒はとっくに下校を始めています。私達もそろそろ帰りませんか?……ゴリラ」
「何をおっしゃっているのです。わたくし達が帰ってしまっては、誰がお二人をあそこから出すのですか?ずっと閉じ込めておくなんて薄情なこと、とてもわたくしにはできません……ラクダ」
体育倉庫から少し離れた所で、御門さん達がしゃがみこんで何か喋っている。しかし、会話の語尾になにやら単語がついているのが気になる。
「あれって御門さん達だよね。何をしているんだろう?」
「しりとりみたいだね。何でわざわざこんな場所でやってるのかはわからないけど。どうする?ソウ兄達のこと見てないか聞いてみる?」
「うーん、どうしよう?」
壮一達の事はもちろん気にはなるけど、御門さんとはあまり関わりたくないしなあ。下手をすれば無駄に時間を使ってしまいそうだし。
そんなアタシ達に気づく様子もなく、御門さん達はしりとりを交えた会話を続けていく。
「でしたら、もうそろそろ出してあげませんか……ダチョウ」
「しりとりで時間を潰すのにも飽きてきましたし。……梅」
「それはいけません。もう少し、もう少しだけこのままにしておくのです……メダカ」
「はあ、そうでございますか。風見さんと倉田さん、大丈夫でしょうか?………カラス」
「熱中症にかかってなければいいのですが……スズメ」
「心配無用ですわ。もう日も落ちてきましたし、何のために飲み物や保冷剤を用意したと思っているのですか……メダカ」
「そうは言っても…あ、御門様。メダカはもう言いましたよ」
こんな時でも律義にしりとりのルールを守ろうとするけど、御門さんはちっとも意に介さない。
「いいのです。どうせ時間を潰すのが目的なのですから、同じ言葉でも良しとします。構いませんね」
「はい、御門様!カラス」
「スズメ」
「メダカ」
「カラス」
「スズメ」
「メダカ」
こうして三人による、カラス、スズメ、メダカの無限ループが始まった。本当ならやっぱりこんな人達と関わり合いたくはないのだけど。
「ねえ、さっき御門さん達、壮一や琴音ちゃんのこと話してなかった?」
「言ってたような気がする。もしかして、居場所を知っているのかも」
「ちょっと声をかけてみる?」
「ええーっ、あの中に割って入るの?」
「しょうがないじゃん、他に手がかりは無いんだから。選り好みしてる場合じゃ無いんだし、我慢しよう」
「わかったよ」
アタシ達はしぶしぶ御門さん達の元へと歩み寄る。しかしよほど無限ループしりとりに集中しているのか、三人はこっちに気づく様子は無い。
「メダカ」
「カラス」
「スズメ」
「……ねえ、御門さん」
「メダカ」
「カラス」
「スズメ」
「……御門さんってば」
「メダカ」
「カラス」
「スズメ」
「御門さーーーん!」
「うわっ。あなたは、メダカさんっ!」
「誰がメダカさんよ!」
まあいいか。ようやく気づいてもらえたし。
鳥さんと牧さんもしりとりを止めてこっちを見る。
「な、なんのご用ですか?私達、風見さんの事など知りませんよ」
「そうですよ。もちろん倉田さんのこともですわ」
いや、知らないってアンタ等。もう語るに落ちちゃってるから。
「どうやら知っているみたいね、さっきも話してたし。ねえ、二人がどこにいるか教えてくれない?」
「それは…」
「どうしましょう御門様?」
二人が尋ねると、御門さんは「仕方がないですわ」とため息をついた後、ズイッと胸をはってふんぞり返った。
「春乃宮さん、よくぞここを嗅ぎ付けましたわね。まずはそれを誉めて差し上げますわ」
「別に誉めてくれなくてもいいから、二人はどこなの?」
「ふふふ、そうやって余裕な態度をとっていられるのも今のうちですわよ。お二人がいるのはズバリ、あの中です!」
そうしてビシッと指差した先にあるあの建物は、体育倉庫?けど、なんでまたあんな所に?
疑問に思っていると、空太が何かに気づいたように顔をしかめる。
「御門さん、まさかとは思うけど。二人を閉じ込めたんじゃないよね」
「閉じ込めた?証拠もないのに、何を失礼な事をおっしゃって……」
「ごめんなさい、御門様の命令には逆らえなかったんです!」
「この通りお詫びいたします!」
御門さんの言葉を遮って、鳥さんと牧さんが頭を下げてきた。と言うことは、本当に閉じ込めたの!?
「ちょっと。何でそんなことしたのよ。アタシに意地悪するならまだしも、壮一も琴音ちゃんも関係無いじゃない。鳥さんも牧さんも、命令されたからじゃすまされないよ」
「「そ、そんな~」」
悲痛な声をあげる二人。しかし御門さんは悪びれる様子もない。
「春乃宮さん。二人を責めるのはそれくらいになされてはいかがですか?」
「どの口が言うの?主犯は御門さんだよね」
「そんなことはどうでも良いのです。それより、お二人が今どういう状態にあるか考えてみたらいかがですか?」
「だから、閉じ込められているんでしょ。早く出してあげなきゃ」
「おーほっほっほ。アナタは事の重大さに気付いていないようですね。良いですか、狭い密室に男女が二人でいるのですよ。これがいったいどういう事か、お分かりですか!」
「………えっ?」
一瞬思考が止まった。確かに御門さんの言う通りあの狭い体育倉庫の中に、壮一と琴音ちゃんが二人きりでいるとしたら。それって、それって……
「こんな都市伝説をご存じですか?密室に閉じ込められてた男女は…」
「…急速に仲良くなる」
「なんだ、ご存じでしたのね。おーほっほっほ」
御門さんの笑いが響く。横から鳥さんと牧さんの「凄い、御門様と話が通じてる」という感心した声が聞こえて来たけど、そんなもの気にしていられない。
壮一と琴音ちゃんがあの中で二人きりって。なんて…なんて美味しいシチュエーションを!
「そ、それで。二人が中に入ってからどれくらい経ってるの?」
「かれこれ一時間以上は。ああ、お二人の体調の方は心配しなくても大丈夫ですのよ。時折こっそり様子をうかがっていますし、暑さ対策のグッズも用意しましたもの」
「至れり尽くせりじゃん」
「途中で倒れられては困りますもの。ですから今ごろ中の二人は……」
「ラブラブになっている!」
「そういうことですわ。おーほっほっほ!」
なにそれ、最高じゃない!こんなお膳立てをしてくれるだなんて、御門さんナイス!
どうしてこんな事をしてくれたのかはさっぱりわからないけど、これで二人の仲が深まると思うと、もうどうでもよくなる。
良かった良かった。アタシが満足気に笑顔を浮かべていると。
「アサ姉!何いつまでもバカなこと話してるのさ。早くソウ兄達を助けないと」
さっきから黙って聞いていた空太が痺れを切らしてきた。うーん、でももうだしちゃうのか。
「ねえ。もうちょっと……もうちょっとだけ、このままにしておくわけにはいかないかな?」
「アサ姉……あんまりバカなことばかり言ってると、本当に怒るから」
「うっ……ご、ごめん」
向けられた冷たい視線に、思わず謝る。確かに空太の言う通り、早く出してあげるべきだろう。ごめんなさい、暴走しちゃいました。
「鳥さんと牧さんから倉庫の鍵はもらったから、さっさと行くよ」
「うん……壮一と琴音ちゃん、どうなってるかな?」
「今更助けても、もう手遅れだとは思いますけどね。おーほっほっほ」
アタシと空太、それに御門さん達は揃って体育倉庫の前へと移動する。それにしても御門さん、手遅れだなんて言って何だか上機嫌そうだけど、何がしたいのだろう?
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