第47話 今度の勝負は体育祭 2
体育祭。それはゲームあな恋でもあった出来事だ。一学期にあった桜花祭と同じように好感度に影響するイベントが多数発生する、無視できないものだった。
しかし、御門さんから話題に挙げたとなるとどうも嫌な予感がする。
「で、体育祭がどうしたの?」
「実はですね、わたくしずっとモヤモヤしていましたの。ほら、桜花祭の時にしたアナタ方との勝負。決着がつかずに、うやむやのまま終わってしまったでしょう」
「はあ?」
桜花祭の時の勝負って、喫茶店の売り上げ勝負のことだよね。だけどあれは。
「うやむやも何も、あれは琴音ちゃんのクラスの圧勝だったじゃない」
「うやむやのまま終わってしまいましたわ」
「いや、だから御門さんが自爆して…」
「決着はついていませんわ」
ダメだ。いくら言っても聞く耳を持ってくれない。こんな事ならあの時、きつい罰ゲームでもやらせて負けを認めさせておくんだったと後悔する。壮一も頭を押さえながら、疲れたような声を出した。
「ええと、つまり御門さんはあの時の決着を、今度は体育祭でつけようって言いたいわけ?」
「その通りでございます。大勢の見ている中でけちょんけちょんに叩きのめして……もとい正々堂々と戦って決着をつけたいのです」
「何か今さらっと黒いこと言ってなかった?けど、アタシはやだよ」
もうあの時みたいに安い挑発にのってバカな勝負なんてするもんか。すると様子を見守っていた鳥さんと牧さんが慌てたように前に出てくる。
「そう言わずに。御門様はあの時ボロ負けしたことを……いえ、決着がつかなかったことを酷く引きずっているのです」
「夏休みの間中ずっと機嫌が悪うございました。バカンスに行った南国のビーチを闇に染めるほどの暗いオーラを垂れ流すくらいに」
「御門さんは超人か何かなの!?アンタらもよくそんなバカンスに付き合ったわね。リフレッシュできないよそんなの!」
これでは引きこもっていたアタシの方がまだマシかもと思えてくる。
よく見たら鳥さんも牧さんも夏休み前よりほっそりしているし。夏痩せかと思ったけど、どうやらこれはストレスによるもののようだ。
「そんな中、御門様は春乃宮さんが床に臥せっているという噂を耳にして思ったのです。春乃宮さんは体力が落ちている。ならば体育祭でなら勝てると」
「だから新学期早々勝負を挑んできたの⁉わざわざ相手の苦手分野をついて?そんなんで勝って嬉しいの⁉」
実際アタシは体力が落ちてる訳じゃないんだけどね。勝負をしても決して御門さんの有利という訳じゃないだろう。しかし、一度こうだと決めた御門さんは面倒な事に中々譲ろうとしないのだ。
「というわけで春乃宮さん。御門様の為に勝負を受けて、そして負けてくださいませ」
「やだよ!」
これで『はいわかりました』とでも言うと思ったのだろうか?だとしたらこの二人、相当精神に限界が来ている。夏休みの間中期限の悪い御門さんに付き合わされていたのから無理もないけど。
「そこをなんとか。今度こそ勝てると息巻いていたのに、ぬか喜びになったとあってはますます御門様の機嫌が悪くなってしまいます」
「どうか助けると思って。もしここで断っても、これから毎日お願いしに来ますよ。もちろん御門様を連れて」
げ、断ったら毎日御門さんに付きまとわれるのか。そうなるとこれはお願いと言うより、もはや脅しに近い。
どうしようかと迷っていると、壮一が助け船を出してくれる。
「ちょっといいかな。勝負と言っても、具体的に何をどうするかを決めないと答えようがないよ。その辺の事、ちゃんと考えてる?」
「え?ええと…」
「それは…」
とたんに言葉に詰まる鳥さんと牧さん。どうやら思い付いたは良いけど、深くは考えてなかったらしい。
しかし御門さんだけは依然態度を崩さない。
「それはこれからゆっくり考えていけば良いのです。出場した種目でどっちが勝つかで競うも良し。赤組と白組どちらが優勝するかで勝敗を決するも良しです」
「なるほど。けどまだ組決めも、どの種目に出るかも決まってないよね。もし旭も御門さんも同じチームになって、出場する種目も被らなかったら、その時はどうするの?」
「えっ?その時は……」
今度は御門さんも口を閉ざしてしまった。
桜崎の体育祭は生徒を赤組と白組に分け、2チームで競うのがルールだ。そしてその選別方法はくじ引き。どのクラスも、きっちり2つに分けられる。
クラス対抗戦というわけではないから、御門さんとアタシが同じチームになる可能性も十分考えられるのだ。
更に誰がどの競技に出るかはクラス別に話し合いが行われるので、クラスの違うアタシと御門さんが上手く同じ競技に出られるかどうかはわからない。
「うーん、確かにそうなってしまっては、勝負のしようがありませんわね。わかりました、その時はキッパリと諦めます」
「本当?」
面倒な勝負をしなくてすむのかと思うと、途端に心が軽くなる。鳥さんと牧さんなんて御門さんの死角で、こっそりハイタッチまでしている。
「その代わり、もしチームが分かれたり、同じ競技に出るようなことがあれば、その時はちゃんと勝負してもらいますわ」
「ええーっ!?」
こっちに選択権は無いの?
理不尽だと思ったけど、どうやら御門さんの中ではもう決定してしまったようで、こっちの話を聞いてくれそうにない。すると壮一がすかさず動く。
「それじゃあもう一ついいかな。もし勝負をする事になっても、いくつか守ってほしいことがあるんだ」
「あら、何でしょう?」
「そうだなあ。まず負けても罰ゲーム等のペナルティは課さない。これは大丈夫?飲んでもらわないと勝負は受けないよ」
さすが壮一。この前の教訓を生かして、御門さんが無茶な事を言い出す前に先手を打ってる
「罰ゲームは無しですか。少々盛り上がりに欠けますけど、まあいいでしょう」
「それと、他の人を巻き込まない。御門さんが勝ったとしても、誰かを不快にさせるような勝ち名乗りは挙げない。スポーツマンシップにのっとり、品格を失わないように」
「それなら問題ございませんわ。もともと品位を損なうような言動なんて致しませんもの」
どの口が言うか。いや、そもそも失うような品位が無いということだろうか?
「あと、体育祭が終わった後で色々言ってきたりしない。勝って喜んでも負けて悔しくてもその日限りにして、遺恨が残らないようにする。旭と同じ競技にならなくても文句は言わない。勝つための手段はちゃんと選ぶ。それから……」
平穏を守るため、思い付く限りの制限を貸していく壮一。しかし最初は素直に頷いていた御門さんも、途中からだんだんと首をかしげてきた。
「要求を飲むのは構いませんけど、気のせいでしょうか?何だかこれだとあまり勝負らしくないというか、普通に体育祭をやるだけのように思えるのですけど?」
勘づいたか。けどいいじゃない、普通に楽しめば。何事も普通が一番だよ。
「御門様、多少引っ掛かることはあっても、ここは素直に要求を飲んだ方がよろしいかと。勝負を受けてもらわなければ元も子もありません」
「そうでございます。いいじゃありませんか、条件は向こうも同じなのですから。言う通りにして、勝負を受けてもらいましょう。御門様の勝利の為に」
「勝利の為…」
あ、ちょっと心が揺らいだ。もう一息だ。
「万が一要求を飲んだせいで、わたくしが負けるようなことはありませんわよね」
「もちろんでございます御門様」
「風見さんが仰ったことははいずれも、こちらが不利になるようなものではございません」
「勿論これに勝てば、わたくしが春乃宮旭より優れていると証明されますわよね」
「その通りでございます御門様」
「少なくとも体育では、御門様の方が優れていると見せつけられます」
あくまで個人競技で競った場合ではね。これでもしチームで勝ったとしても、御門さんの方が優れている証明にはならないかだろう。当然こんな事思いはしても、口にだしたりはしない。
御門さんは少し考えたようなそぶりを見せていたけど、やがて納得したように頷いた。
「わかりました。仰ったことは守ります。その代わりアナタ達も正々堂々……」
「あ、あともう一つあった」
「まだありますの!?」
どうやら大分疲れている様子。しかしここで文句を言っても仕方がないと思ったのか、大人しく壮一の話に耳を傾ける。
「さっきもちょっと言ったけど、もし旭と同じチームになった場合はそもそも競いようがないから、潔く諦めること。これは仕方ないよね」
「それは…確かそうですけど…」
「諦めてくれますよね?」
「ええい、分かりました!もしそうなったら、その時はちゃんと諦めますわ!」
分かってくれたようで助かった。後で難癖つけられてきてもいい迷惑だ。
「無事チームが分かれるよう祈っておきますわ。春乃宮さん、負けるのが怖いからって、くれぐれも逃げたりしないように」
「はいはーい」
「絶対ですからね。それでは行きますわよ、鳥さん牧さん」
「「はい、御門様!」」
勝負する事が決まって満足したのか、御門さんは二人を連れて校舎の方へと去って行った。
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