第46話 今度の勝負は体育祭 1
「久しぶりの学校かあ」
桜崎学園の門を潜りながら、アタシは誰ともなしに呟いた。
未だに暑い日は続いているけど、今日からもう9月。長かった夏休みが開けて、新学期が始まるのだ。少し前のアタシならなら、あな恋のストーリーを楽しめるとはしゃいだだろうけど、 先行き不透明となった今では能天気に喜ぶ事もできない。思わず憂鬱なため息をついていると。
「朝から元気無いね。まだ体調悪い?」
隣を歩いていた壮一が心配そうに声をかけてくる。別に体は何ともないんだけどね。不調の原因は心労で、その原因は壮一なんだけどなあ。
夏休みのカフェでの一件以来、アタシは前にもまして壮一の行動を細かくチェックするようになった。だけどいくら目を凝らしていても、真相究明に繋がる手がかりは見つからなかった。
琴音ちゃんと何か無かったかとそれとなく聞いてみたりもしたけど、結果は同じ。けど、何もないわけ無いよね。あの時琴音ちゃん、泣きそうな顔してたし。
どうしよう?今度は琴音ちゃんに探りを入れてみようか?しかし不用意に接触していいのだろうか?悶々と思考を巡らせていると。
「あら、そこにいらっしゃるのは春乃宮さんじゃありませんこと?」
……聞き覚えのある声が耳に飛び込んできた。しかめっ面になりそうなのをどうにか抑えながら声のした方を見ると、そこにはやっぱり御門さんが、鳥さんと牧さんを従えていた。
「おはよう、御門さん」
一応笑顔で挨拶をする。ここで彼女の機嫌を損ねて、新学期早々余計な騒ぎを起こしたくはない。すると御門さんも笑顔を返してくる。
「聞きましたわよ。何でも夏休み中はお体の調子が悪かったとか。だけど、今日はちゃんと来られたのですね。見たところ顔色も悪くないようですし、安心いたしましたわ」
「お陰さまで、今はすこぶる元気だから」
アタシがそう返すと、今度は壮一が口を開く。
「本人はこう言ってるけど、まだ油断は禁物なんだ。だから気遣ってくれるのはありがたいけど、過度な接触は避けた方がいいかも。もし御門さんにうつってしまったら申し訳無いじゃすまないからね」
壮一、上手いこと言ってるけど、単にアタシと御門を一緒にいさせたくないっていうのが本音だろう。桜花祭の時の騒動といい、アタシ達が一緒にいると無駄な騒動を起こすことが多いから、警戒する気持ちはよくわかる。しかし、どうやら御門さんはそれをわかっていなかったようだ。
「お気遣いありがとうございます。ですがご心配なく。わたくし生まれてこのかた、ただの一度も風邪を引いたことがありませんから」
ドヤ顔で言い切る御門さん。それは確かに凄い。ひょっとして専属医を抱えている御門家の健康管理の賜物だろうか。でなければ……
「御門様は本当に頑丈でございます。以前真冬に根性試しと称して寒中水泳を行った時もケロッとしていました」
「クラス全員が体調を崩すほど風邪が流行った時も、お一人だけピンピンしていました。きっと御門様は、バイオハザードが起きた地域に行っても感染することなく生還なされるでしょう」
何だか凄いことを言っている鳥さんと牧さん。たぶんだけど御門さんが風邪を引かないのは健康管理の賜物ではなく、本人の頑丈さによるもののような気がする。健康に気を使ってる人が真冬に泳ぐとも思えないし。一瞬、何とかは風邪を引かないという言葉が頭をよぎったけど、深く考えないことにしよう。
「あらあらそんなに誉めても何も出ませんわよ。それに夏休みを寝て過ごすはめになった春乃宮さんの前でそれを言うのは可哀想ですわ。こうまで差を見せつけてしまっては、哀れでなりませんもの」
「ええと、アタシの事はいいから。別に気にしてないし」
「まあ、強がったりして健気ですこと。ええ、わかっていますとも。本人は悔しくて仕方がないのでしょう。ですがご安心を。そんなアナタの気持ちを汲み取って、これ以上は触れないでおきますわ。おーほっほっほ」
自分の方が健康だというのがよほど嬉しかったのか、高笑いをする御門さん。もし本当にアタシの体調が悪かったら、この笑い声が頭に響いて更に悪化していただろう。
「お気遣いありがとうございます。それでは俺達はこれで。旭、行こう」
長居は無用と悟ったのか、壮一が急かすように手を引いてくる。アタシもこれ以上関わるのは面倒臭いのでそのまま立ち去ろうとする。が。
「お待ちなさい。まだ肝心の話をしていませんわ」
ガッシリと肩を掴まれ、逃走失敗。
え、何か話があったの?だったら長い前置きはせずに、さっさと本題に入ってほしかった。女子は得てして話が長いものだけど、御門さんのそれは非常に疲れるものだから、少しは自重してほしい。
「あの、アタシ達急いでるんだけど」
「大丈夫です、お時間はとらせませんわ。ところで今日から二学期が始まったわけですけど、すぐに大きな行事がありますわよね」
ああ、拒む間もなく語り始めてる。
こうなってしまっては逃げ出すのは難しい。アタシと壮一は諦めて御門さんに向き直る。
「大きな行事っていうと、体育祭のこと?」
「その通りですわ」
壮一が言うと、御門さんは満足そうに頷いた。
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