ヒロインと押しキャラをくっつけよう!
第2話 転生先は攻略対象⁉
ここは乙女ゲーム、あな恋の世界。その事に気づいたのは、まだ小学校にも上がる前だった。まったくもって理由は分からないのだけど、何故か突然、ある朝目を覚ましたら唐突にあな恋の記憶が鮮明に蘇ってきたのだ。
そしてアタシは気付いた。自分の周りにいる人の名前や立場、街の名前や建物の外観が、あな恋のものとほぼ完全に一致していることに。
これはもしや、乙女ゲーム転生ものと言うやつか?
好きだった乙女ゲームの世界に生まれ変わると言った話は、ラノベで読んだような気がする。生憎詳細は覚えてないけど、そういう話があったという事だけはぼんやりと思い出すことが出来た。
それと同じことが、私の身に起きたの?アタシは本当に生まれ変わったの?あのあな恋の世界に⁉
最初は夢でも見ているのではと思って、自分の頭を何度も叩いてみたけれど、一向に目が覚める気配は無い。ついにはアタシの奇行を見た今世の両親が止めに入り、そこでようやくこれが現実のものだという事を理解した。
ずっと憧れていたあな恋の世界に生まれ変われるだなんて、神様に感謝しなくちゃ。
それから早十年。依然あな恋を崇拝し続けているアタシは、今日もまたいつものように大きく深呼吸をしている。あな恋の世界の空気、思いっきり堪能しなゃ……うぅぅ~、はぁ~
「ちょっと、信号赤だよ」
えっ?いけないけない。つい幸せな気分に浸りすぎていて、前をよく見ていなかった。アタシは足を止め、注意してくれた隣の彼を見る。
「ごめん、ついボーッとしてて。ありがとね、
すると彼は細長の目をニッコリさせ、笑顔を向けてくる。
彼の名前は
切れ長の目に凛々しい顔立ち。ああ、やっぱり今日も格好良い。さすがはあな恋におけるアタシ的イケメン度が、旭様に次いで堂々二位なだけはある。その端正な顔立ちについ見とれてしまっていると、壮一は首をかしげてくる。
「どうしたの?俺の顔に何かついてる?」
「う、ううん。何でも無い。今日で中学校も卒業かと思うと、ちょっと感傷に浸っちゃって」
「ああ、そういう事。でも、あまりボーっとしていて、さっきみたいに信号に気付かなかったら危ないから、少しは周りも見るようにね」
「はーい」
返事をしつつも、壮一に嘘をついてしまった事にちょっとだけ心を痛める。実はアタシは、別に感傷に浸っていたわけでは無い。むしろ来月から始まる高校生活を思い描いて、胸を躍らせていたのだ。何せあな恋のメインとなる舞台は桜崎学園高等部。来月からアタシ達が通う高校なのだ。という事は、ついに始まるのだ。あな恋の物語が!
あな恋の世界に転生したと悟ったその時から、アタシはずっとその意味を考えて、そして悟ったのである。アタシがこの世界でやるべき事、それはあな恋のヒロインである琴音ちゃんと、隣を歩く壮一をくっつけること!
だってそうでしょ。せっかく憧れだった世界に転生したんだよ。目の前で最高のカップルを見たいと思うじゃない。それに壮一はアタシの大事な幼馴染でもある。彼には、絶対に幸せになってもらいたいから……
えっ?一番の推しキャラだった旭様とヒロインをくっつけなくてもいいのかって?よくぞ聞いてくれました!
本当ならもちろんアタシもそれを望んでいた。壮一には悪いとは思うけど、一番の推しは僅差で旭様だったのだから。
だけど、だけどこの世界においてそれは絶対に不可能なのだ!何故なら……
「……どうしたの?またボーっとしてるよ」
「あ、ごめん」
顔を上げると、いつの間にか信号は青になっている。アタシは慌ててスカートを翻して横断歩道を渡り、壮一もそれに続く。
「本当に大丈夫?もしかして体調が悪いとか。それだったら無理をせずに…」
「平気よ。アタシがボーっとしちゃうなんていつもの事でしょ」
「自分でそれを言っちゃう?時々変な事を言うよね、
壮一はニッコリと笑って、アタシの名前を呼ぶ。
……旭……
アタシはあな恋が好きだ。死後にその世界に転生してしまうほどに。その中でも春乃宮旭様は最も好きな攻略対象キャラクターだった。彼のポジションに生まれ変わってしまうほどに。
(って、違――う!)
確かにアタシは旭様の事が好きだった。だけど、アタシ自身が旭様になりたかったかと言うと、それはちょっと違うんじゃないの?どうなってるのよ神様!
しかも旭様のポジジョンに生まれ変わったと言っても、本家旭様とアタシとでは似ても似つかない。アタシは旭様のように頭が良くない。旭様のように運動はできない。そして何より、決定的に違うのは……
春風がスカートを揺らす。自分の胸に手を当てると微かだけど膨らみもある。そう、アタシは性別女のまま、旭様に転生してしまっていたのだ。
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