第8話 狂った予定

――V-S-Cブロック


「甘いんだよ……っ!!」


 フェルウェインは再びブーストを起動し、異物に包まれそうになる状況から脱出した。


「フェルウェインさん! よかった……」

「ふぅ……危なかった……。あれは宙流生物ちゅうりゅうせいぶつだな……」


 すぐに司令室へと連絡する。


「こちら【アイビス】、隕石に擬態ぎたいしていた宙流生物の存在を確認。識別名称【スタレオン】、分類はSランク害悪生物。既に攻撃を受けている。排除を開始する」

〔了解だ。2人とも無事か?〕

「【フェザント】は攻撃を受けたが大きな損傷はない。【アイビス】も特には問題ない」

〔わかった。一応そちらに【レイヴン】を向かわせる〕

「ありがとう。助かる」


 通信を切り、フェルウェインは戦闘に集中する。


「タイガ、お前は俺のサポートを頼む。基本的に後方で待機。危ないと判断したら機銃で【スタレオン】を撃ってくれ」

「は、はい!」


 タイガは緊張しながら答えた。


「さて、始めるか……」


 指の骨を鳴らし、首を2回転させると、簡単な準備運動を終えた。フェルウェインは一気に距離を詰めた。

 【スタレオン】は強固な防御力を誇り、正面からの攻撃ではほとんどダメージを与えることはできない。


「【スタレオン】の弱点は、背後にあるくぼみだったはずだ……」


【スタレオン】の直前で急カーブし、敵を翻弄ほんろうする。


「このまま後ろに回り込んで……」


 フェルウェインの激しくも正確な操作に【アイビス】も応える。しかし、予想外の事態が発生していた。


「なっ……予備のブーストが……!」


 先程ブーストを使って逃げた際に【スタレオン】の鋭利な歯がブースト部分に触れていたらしく、中の燃料が漏れ出ていた。

 これではブーストは使えない。


 予定が狂った。


 動けずにいる【アイビス】に【スタレオン】は大きく口を開いて近づいていた。


「俺としたことが……っ!」


 ダメ元で機銃を【スタレオン】に向ける。すると【スタレオン】の動きが急に止まった。


「フェルウェインさん! 弱点にミサイルを打ち込みました!」


 タイガからの通信が入った。


「よくやった!!」


 叫びながら、フェルウェインは力強くトリガーを押す。弱点を攻撃された【スタレオン】は防御力が格段に下がる。【アイビス】の機銃が【スタレオン】を蜂の巣にした。ボロボロになった【スタレオン】が宇宙空間を漂う。


「はぁ……はぁ……」

「大丈夫ですか!? フェルウェインさん!」

「あぁ……タイガのおかげでな。久しぶりに死ぬかと思ったよ」


 フェルウェインとタイガは同時に息を吐いた。


「それにしても、よく【スタレオン】の弱点がわかったな?」

「それはフェルウェインさんが教えてくれたので……」

「ん……? 俺が……?」

「はい、プライベート通信回線で【スタレオン】の特徴について話されていたので、それを参考にしました」

「はっはっは……。少し恥ずかしいな……。俺の癖なんだよな。相手の情報を頭でまとめるために独り言が出てしまうんだ」

「その癖のおかげで、僕はフェルウェインさんを助けることができましたよ」

「悪くない癖だな」


 危機が去り、フェルウェインは珍しく饒舌じょうぜつになっていた。


「あぁ、そうだ。司令室に連絡しなくては……」


 ボタンを操作し、司令室へと連絡をする。


「こちら【アイビス】、隕石、および宙流生物ちゅうりゅうせいぶつの排除が完了した。これより、【フェザント】と共に帰還する」

〔了解した。2人共お疲れ様。無事で良かった〕


 フェルウェインは通信を切り、タイガへ声をかける。


「タイガ、戻るぞ」

「はい!」


 2人は【ヴァジュラ】へと向かった。

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