第2話 予兆

――食堂【ヴァジュラ亭】


 食堂では、既に作業している同僚がいた。


「おはようございます」

「おぉ、おはよう、タイガ。ちゃんとトレーニングしてるか?」

「はい、もちろんやっていますよ! いつ何が来ても大丈夫です!」


 新人のタイガが答える。


「やあ、2人とも。朝の優雅なコーヒータイムは楽しかったかな?」

「あ……イグアスさん!」

「お、おはようございます!」


 2人は焦って挨拶をした。

 イグアスは2人の上司にあたる司令官だ。普通はこんな作業に顔を出す上司は少ないのだが、イグアスは部下の仕事をチェックする生真面目な局員だ。【地球圏管理局本部ちゅうけんかんりきょくほんぶ】としては有能な局員だが、部下にとってはこれほど厄介なものはない。


「まぁ、2人は優秀な活躍をしてくれているから目をつぶろう」


 2人は安堵あんどの表情を見せる。


「……と、言うはずがないだろう。あとで他の同僚に飲み物でもごちそうしてあげなさい」


 イグアスは2人の肩を叩くと、部屋から出ていった。


「はぁー、マジかよ……」

「イグアスさん、真面目すぎるよなぁ……」

「そんなこと言ってると、また怒られるぞ」


 2人のボヤキを聞いたエンジニアのゾリウォスが忠告する。


「はいはい、気をつけるよ。ゾリウォスさん」


 2人はクリスマス用の装飾作業に着手した。


「外……なんだか暗くない?」

「確かに。こんなに星が見えなかったかしら……?」


 窓際で作業しているミューレイとリャスカが話している。


「おい、それって……」

「【ブラッククリスマス】じゃないのか!?」


 全員が騒ぎ始めた次の瞬間、ドアが開いた。


「全員、静かに! つい先程、アルカノイド粒子の増幅を確認した。ニューカクスタについても確認中だが、おそらく【ブラッククリスマス】の予兆だろう。各員、一度作業を止め、持ち場につくように!」

「はい!」


 全員が食堂から飛び出した。食堂には、不完全な装飾だけが寂しく残っていた。

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