ブラッククリスマス

天神シズク

第1話 宇宙船【ヴァジュラ】

――宇宙船【ヴァジュラ】Room-205


「よう、デューダー。地上ではクリスマス・イヴらしいな」

「そうだな、キース。あの様子を見ると、今日と明日は北半球全域に雪が降りそうだ」


寝起きの2人が、コーヒーの入ったマグカップを手に会話している。


 ここは宇宙。正確に言うと北部エリア第7区画である。

 彼らは【地球圏管理局ちきゅうけんかんりきょく】の局員だ。【地球圏管理局】では、地球を半分にして、大きく北部と南部に分けている。さらにそれぞれ区画整理をし、北部と南部で8区画ずつ、全部で16区画に分けられている。各区画には、それぞれ宇宙船が配置され、管理を行っている。


 宇宙船【ヴァジュラ】

 ここは彼らの生活拠点で、50人程度の人間が住んでいる。2ヶ月ごとに地球からの物資補給と局員の検査があり、毎回数人の局員が宇宙船という環境に馴染めなかったり、宇宙での生活による体調不良を原因に地球勤務となることが多い。

 デューダーとキースは【ヴァジュラ】に搭乗してから6年目だ。2人は同期で、互いを信頼しあっており、他の局員からも一目置かれている。


「地球の恋人は元気か?」

「あぁ、元気さ。お前は?」

「お前と同じで元気だよ」

「そうかい。まぁ、恋人なんていねーけどな」

「奇遇だな。俺もだ」


 どうでもいい話がしばらく続いた。


 今日は12月24日。


 【ヴァジュラ】でも、クリスマスに向けた装飾がされていた。クリスマスというのは、地球でも宇宙でも、そんなに違うことはない。宇宙ここ特有のモノを挙げるなら、1つしかないだろう。


 【ブラッククリスマス】


 毎年、どこかの宇宙区画で発生する事象だ。アルカノイド粒子とニューカクスタという気体成分が異常発生し、宇宙船の周囲を覆う。それにより、視認性がいちじるしく低下し、星の輝きすら見えなくしてしまう。そして、宇宙船の周りは真っ暗になり、何も見えなくなる。24時間程度経過すると、各成分は自然と減少し、事態は収まる。


 これだけなら別に問題はない。


 この【ブラッククリスマス】の厄介なところは、同時に隕石や宇宙を漂う生物が地球へと迫ることが多いのだ。

 デューダーとキースはそれらの危険物排除に特化した部署に配属されている。


地球圏管理局防衛部遊撃隊ちきゅうけんかんりきょくぼうえいぶゆうげきたい


 それが2人の所属先だ。正直、【防衛部】の仕事はそんなに多くない。今の彼らの仕事は、クリスマスパーティーに向けた船内の装飾だ。


「さて、今日も仕事だぞ。デューダー」

「オーケー。任せておけ」


 重い腰を上げ、2人は船内の食堂へと移動した。

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