双子物語~家族のカタチ~
虫塚新一
第一章・珍客来訪
今日から僕は高校生になった。まぁエスカレーター式だから、よほどのことがない限りそのまま進学できるのだが、それでも落第しないように頑張ってきた。有名な私立中学校に入学してここまで、勉強に精を出していた。男子校なため、やかましい女子の甲高い声を聞かずにすんだのも、嬉しい理由の一つだった。
――女子は妹の
僕はそう思っていた。
今日は、高校からもらった真新しい教科書をざっと簡単に読んでいた。畳四畳半の応接室で、正座して木のテーブルの上に教科書を並べて読んでいた。窓の外からの暖かい空気が漂って、僕はついウトウトしてしまって、いつの間にか眠ってしまっていた。
「お兄ちゃん、いい加減にしてよ」
四つ下の雄子の叫び声で、僕は夢から覚めて飛び起きた。
「もう、台所の用事で手が離せないから、表行ってって言ったでしょ」
雄子の声が奥の台所の方から聞こえてきた。それと同時にインターホンの音が聞こえてきた。
――なんか、今変な夢見たような気がするのだけれど……
ボーッとしている頭に手をあてていると、台所とは反対側の、応接室の隣のふすまがゆっくりと開いた。中から白い寝間着を着た母がのぞいてきた。
「ああ、母さんいいよ、僕が行くから寝てて」
そう言うと、母は申し訳なさそうに頷いた。僕はすぐに立ち上がり、玄関へと向かった。
玄関の引き戸の、磨りガラスの向こう側に、三つの影が立っていた。僕は眠い目をこすりながら引き戸を開けた。そこには見慣れない二人の男子学生と、見慣れた一人の同級生が立っていた。
おかっぱ頭の真面目そうな子と、ツンツン頭で制服もまともに着ていない色黒の子という、なんとも対照的な学生が二人。そしてその前には、小学校の時のクラスメイトで、友人の
「和也君久しぶり」
「林君、どうしたの、うちに来るなんて珍しいね」
「うん、京都の高校に通うことになったんだけど、入学式にここにいる二人と友達になってね」
「入学式って、いつ」
「今日」
「今日知り合ってすぐ友達になったの」
「うん、やっぱり珍しい?」
――珍しいを通り越して怪しいとしか思えない。
林君は小学校の時いじめにあっていた。小学一年の時からずっとだったせいか、彼は友達をほとんど作ろうとしなかった。それが小学五年生の時に、ある一人の友人がきっかけで、僕たちは知り合い、友達になった。しかし、彼はあまり僕やその共通の友人とも交流が少なく、ずっと別の友人とだけ付き合うことが多かった。そんな彼が入学式初日に友人ができたなんて、とても信じられなかった。しかもその一人は明らかに不良っぽい。
僕は思わず二人を凝視していた。その姿がいぶかしんでいるように見えたのだろう、おかっぱ頭の少年が慌てて話しかけてきた。
「
「そうなんだ」
――何で敬語なんだろうこの人。
そう思っていると、ツンツン頭の少年が勇太と名乗った子に向かって話しかけた。
「なんだよユウ、変な言葉遣いして」
すると、勇太がツンツン頭の方を見て、怒ったように叫んだ。
「こういうのは最初が肝心なんだよ、お前はちょっと黙ってろ」
「はいはい、二人共けんかしないの」
卓真君がそう言って二人を注意すると、二人共一言謝ってから僕の方に向き直って、次の行動を待つように黙った。
――この三人どういう関係?
たった一日、いやおそらく正確には五時間ほどでこれだけの関係になれた経緯を知ってみたい衝動にかられたけれど、僕はそれよりも勇太君に言いたいことがあった。
「勇太君、僕に敬語はいらないよ、普通にしゃべってくれないかな。それと、僕のことはカズヤでいいよ。卓真君はなぜか言わないけど」
「わかったよカズヤ。僕のこともユウでいいよ。卓ちゃんは全然言ってくれないけど。カズヤからも言ってくれないかな」
「ああ、無理無理、ある一人の友人以外では愛称で呼んだことないから。変なとこだけ頑固なんだよ」
僕がそう言うと、卓真君は肩をすくめてうなだれた。とは言ったものの僕自身もあまり人のことは言えないから、冗談だと言おうとしたその時、ツンツン頭の子が声をかけてきた。
「カズヤ、俺は
――僕の時と同じパターンか。それに、ミネ君だけは性格が違うようだな。
僕はそう思って話を戻すことにした。
「それで、どうしたの今日は」
「ああ、うん、勇太君たちに僕の小学校の頃の話をしてね。まぁそれを理由に友達なんて作れないって言ったんだけど、そのときに和也君や和弘君の話になってね、そしたら是非とも会ってみたいって言いだしたんだ」
それで、まずは僕と知り合うきっかけになった
僕は少し声のトーンを落として、申し訳なく卓真君たちに語りかけた。
「卓真君、ユウ君、ミネ君、せっかく来てもらって悪いんだけど、今日は母さんの具合が悪くてね、妹だけでは心配だから僕も家に残っていたいんだ。悪いんだけど今日は帰ってもらえるかな」
正直非常に残念ではあったが、苦渋の選択だった。しかし、家の中からか細い声が聞こえてきた。
「和也、私のことなら気にしなくていいからあがってもらいなさい。せっかくお友達が来てくれたんだから」
振り返ると母さんが、和室の寝室から顔を出してこちらを見ていた。元気な頃と違って顔色の悪い母さんは少し痛々しく見えた。なので反論しようとしたが、さらに廊下の奥から、ポニーテールがよく似合う妹の雄子がやって来た。
「そうだよお兄ちゃん、せっかく、珍しく友達来たんだから、あがってもらいなよ」
「珍しくっていうなよ」
「だって事実じゃん」
「なんだよ、ちゃんと連れてきたことあるよ」
「たまにじゃない。それも、来たことのある人って、和弘さんと松上って言う人だけでしょ」
そう言って腰に両手を当てて笑顔で反論してくる雄子に、僕は反論することができなかった。
「いちいちよけいなこと言うな」
「へーんだ、明日嵐が来たらお兄ちゃんのせいだからね」
そう言って奥へと消えていった。母さんと卓真君が口を押さえて顔を背けていたので、二人共笑いをこらえているのがわかったが、僕は平静を装いながら、卓真君たち三人を、僕の部屋のある二階へと案内した。
――と言うか、卓真君だって似たようなものじゃないか。
そう思いながら。
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