文字化けスキルの異世界無双~クラス転移したら俺だけ超絶チートだった件~
カシェラ
残り物の文字化け称号は役立たず
異世界転生、異世界召喚。
現代の男子諸君ならば必ずや憧れるだろうそれには、一つの疑問が必ず付き纏う。
それは、世界の定義とは何か、ということである。
それは地球か?
そうだとするならば宇宙に飛び出した人間達は異世界に行けたという事になるが、それを「そうだ」と肯定できる人間は少ないだろう。
ならば、世界とは宇宙の限界か?
宇宙の外には果たして何が広がっているのか?そもそも、宇宙とはどうしてどうやって出来上がったものなのか──。
と、この手の話題が好きな人も多いことだろう。何を隠そう、俺もそういった人間の一人である。
昼のホームルームが終わり、皆が一様に机に出した教科書ノート諸々を黒色の遊びの無いスクールバッグに放り込んでいく。
彼らと同じくこの学校の生徒である俺は勿論同じ行動をしている訳なのだが、こういった作業地味た動きをしている際には、どうしても先程の様な事を考えてしまうのだ。
「……帰るか」
当然、その世界やら何やらのお話に答えなど出ない。痛々しい高校生の背伸びのような物と考えていただければ幸いである。
やたらと長く感じる廊下を抜け靴を履き替えて校庭に出ると、体操服で元気に準備運動をする生徒達が見えた。
推薦入試の規則が比較的緩いこの学校には、部活動をやる生徒が多い。
俺?……やっているわけが無いだろう。ていうか今から帰るところだっつーの。
そして、ふわぁと欠伸をしながら校門から出た瞬間──。
「うわ……っ!?」
俺は、訳の分からぬ閃光に包まれた。
■ ■ ■
「クソっ、どきやがれぇ!!」
「こんなの良くないよ、しっかり考えて皆で決めようよ!!」
「うるせぇっ!!この称号は俺のもんだぁあ!!」
何が、起きた?
目の前にあるのは、クラスメイトの──大喧嘩。
例えるなら、それはスーパーのセールに走るオバチャン。
我先にと駆ける皆は全くもって他を傷つけることを厭わず、そこにある謎の光へと手を出していく。何とも異様な光景である。
「よっしゃあ!これは俺のもんだ!」
一人がその光へと手を届かせると同時、ガッツポーズと共にこの空間から消えた。
空いた口が塞がらない俺を置いて、次々にクラスメイト達がこの空間から消えていく。
しかし、その勢いは十人程が消えた辺りで静まった。
静まったといえど喧騒自体は収まらず、議論でもしているのかしばらくワーワーとした後全員で光に手を伸ばし、またしても消えた。
……訳の分からぬまま、俺はこの虚無の空間に一人である。
「どういう事だ……?」
取り敢えず、とクラスメイトの消えていった光に駆け足で近づいて手を伸ばすと、そこに一つ文字の羅列が表示された。
『 魑ァ喧ロ縺? 』と。
「は?文字化け?」
訝しみながらも仕方ないのでそれをタップすると、光がいっそう強まり俺を包み込んだ。
『24番|狭斬(はざきり)| 霞(かすみ)様、転移致します──』
「うおっ!?」
瞬間、『異世界転移』といういつもの独り議論ワードが脳裏をよぎったが、その光はそんな事は関係無いとばかりに俺の意識を奪い取った。
■ ■ ■
「ねぇ、起きて」
「ん……後五分……」
「起きてってば!!」
問答無用の平手打ちで叩き起こされて夢の世界から帰還した俺は何だよう、と抗議の視線を母親に──と、そこで気がついた。
目の前の彼女は艶々の透き通るような茶髪を腰の辺りまで伸ばしており、顔も化粧の必要が無い程度には整っている。
どう考えてもこの状況はありえない為一度ぶんぶんと顔を振ってからもう一度見、その光景が嘘でないことを確かめてからその名を呼ぶ。
「麗詩、さん……?」
「はぁ、ようやく起きた……皆もう行っちゃってるよ?早く行かないと」
「行くって、どこに」
「決まってるでしょ?」
そして麗詩さんは、おおよそ僕の考えつかないことを宣った。
「謁見だよー。私たち勇者として召喚されちゃったんだから」
そして今度こそ、僕の理解は追いついた。
「異世界転移、か。それもクラス召喚……」
「ねえ霞くん、もしかしてだけど何も聞いてなかったの!?」
「気がついたら皆バーゲンセールに食らいつくが如く争ってるし意味不明。何を聞くも何も無いと思うんだけど」
「途中で入ってきた……タイムラグがあったって事?」
「とにかくそんな訳だから、この状況を教えてくれると助かるかな」
「うん、分かった……それじゃあ、最初から順を追って話すね」
■ ■ ■
なんの前触れもなく視界が切り替わる。そこは何もかもを無理矢理白いペンキで塗りつぶした様な、どこもかしこも真っ白な空間。何が起こったのかここは何処なのか、何も理解出来ずにただ周りを見渡した私は、そこにクラスメイト達がいた事に僅かな安堵を覚える。
取り敢えずクラスメイトとお互いを確認し合う。
そして、その間の抜けた声は響いた。
「やぁやぁ二年五組の皆さん諸君、元気かい?」
「お前は誰だ!!」
敵意を込めて当然の疑問を叫ぶのはクラスでも気の強い男子。
「僕?僕は神様さ。まぁ、邪神の部類なんだけどね」
「は……?邪神って、何言ってやがんだ……?」
「僕のことはどうでもいいんだよ。それより今後の君たちのことだね」
次々に湧き上がる疑念を無視し、その声は場違いにも高らかに、楽しそうに響き渡る。
「この度、君たち星ヶ丘学院普通科二年五組の生徒達が異世界に勇者として召喚されることが決定致しましたー! あ、拒否権はないからね。公正なくじ引きの元に決められた結果だから諦めてくれると助かるなぁ」
「ふざけんな!異世界って、勇者ってなんだよ!?意味がわかんねえよ!」
「何君、ラノベとか読まないタイプ? 一から説明するのめんどくさいなぁ、誰か説明してやってよ」
それは、頼みでも願いでもなく、命令だった。穏やかで楽しげな口調に、それとは真逆のマイナスの感情が乗せられて耳朶を打つ。
脳みそを敷き詰めてその上でスキップしている様な、そんな狂いを感じて思わず自分の身を抱きしめる。
それを皆も感じたのか、一人眼鏡をかけた如何にもなオタクが冷や汗をかきながら前に進み出て説明を開始した。
「異世界っていうのは、その名前の通りこことは異なる、ファンタジーな世界のことです。最近、ひょんな事から日本人が異世界に行ったり転生したりして活躍する小説が流行っていて……信じられないことですが、これはそれが現実になった形だと思われます」
とても、信じられる話では無かった。だけど、天から聞こえるその絶望がそれを強く肯定していて、誰も「嘘だ」と笑い飛ばすことなど出来なかった。
「そんなわけで、勇者に相応しい力を与える『称号』を人数分用意しましたーぱちぱち!……早い者勝ちだから頑張ってね!!それじゃあまたね!!」
そして、クラスメイト達による猛烈な競走……もとい、暴走が始まった。
■ ■ ■
「成程、じゃあ俺はちょうどその時にそこに送られたって訳か」
「すっごい不運だね、まぁ私もそんな良い称号が取れた訳じゃないんだけど……」
「ところで称号ってどういうのなんだ?」
「んーとね」
麗詩さんは虚空にS字を描き、次いでその場をトンと叩いた。
澄んだ音とともにゲームっぽいウィンドウが開く。
「これがステータスで、これが称号なの」
そこには、名前と能力値、そして色が青いせいか一際目立つ称号が書かれていた。
◆◇◆
サナ・ウルワシ:エルフ族:17歳:Lv1
称号:《
スキル:《捜索Lv99》《鑑定Lv50》《魔力感知Lv10》《看破》《隠密Lv10》《風魔法Lv1》
◆◇◆
「この青くなってるやつは称号で追加されたスキルなの。称号にはスキルを付与する効果があるんだよ!」
「成程なぁ……」
逆に言えば、青くなっていない《風魔法Lv1》は本来のスキルということなのだろう。
他のものは全て青くなっており、捜索、鑑定、魔力感知、看破……どれも、《
「俺のはどうなんだろ」
見よう見まねでS字を描き、トンと叩く。すると、同じように鈴のSEを伴ってステータスが出現した。
◆◇◆
カスミ・ハザキリ:エルフ族:17歳:Lv1
称号: 《
スキル:《火魔法Lv1》《水魔法Lv1》《風魔法Lv1》《地魔法Lv1》《聖魔法Lv1》《闇魔法Lv1》《空間魔法Lv1》《時間魔法Lv1》《雷魔法Lv1》《精神魔法Lv1》
◆◇◆
「……やっぱ文字化けしてるな」
「え、うそ……うわ、こりゃ酷い外れだぁ」
外れ?と首を傾げると彼女はため息をついて説明を開始した。
「外れって言われた私のオブサーバーでもまだこの性能だよ。全属性とはいえ魔法スキルLv1だけなんてとんだ最悪称号じゃん……?」
「……だけどこのスキル、青くなってないぞ。つまりこの文字化けスキルってさ」
「「全くもって約立たず!?」」
折角の異世界転移なのに、どうやら現実は甘くないらしい。
俺はその文字化けした
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