疲れてるってことにしておいて

 ――眠いっ!


 結局あれからベッドで寝がえりうってる間に空がうっすら明るくなってきちゃった。

 それからちょっとは眠ったけど、多分二時間も寝てないんじゃないかな。


「おはよう。……やっぱり眠そうだな」

 朝食の準備をしてたらお父さんに声をかけられた。


「うん、朝食もちょっと手抜き。ごめんね」

 言うと、お父さんはテーブルを見て笑った。

「もっと手抜きかと思ってたよ」


 レタスとトーストだけで、まだ飲み物も淹れてないのにそう言ってもらえてよかった。


「昨夜の話は、夜の方がいいかな」


 寝ぼけた頭に、すぅっと入ってきた言葉で目がぱっと覚めた。

 でもお父さんの言う通り落ち着いて聞ける夜の方がいいかもしれない。

 寝落ちしなければの話だけど。


「うん、それでいいよ」


 本当はすごく気になるんだけどね。


 そうだっ、気になると言えばきらちゃんと冴羽くんが今一体どんな関係なのか、学校に行ったらつっこんで聞いてやろっと。




 って思ってたけど。

 朝はきらちゃん達がギリギリに登校したからつっこむどころか話もできなかったよ。


「いつも割と早めに来てるのに珍しいね」

 さっこちゃんが言う。


 昨日まで夢魔に侵食されてたのに、わりと元気そうだ。よかった。


 昼休みは他の子も一緒だから「その手」の話はできないし。

 そのうえ、わたしの眠気が復活してしまった。

 午前中はちょっと眠いな、ぐらいだったのに、給食食べた後からもう限界近い。

 くぅぅ、悔しい。


 授業もホームルームも終わって、とにかく早く帰ろうって思ってたら、さっこちゃんが来た。


「愛良ちゃん、一緒に帰ろ」

「あれ? 部活は?」

「今日はちょっと部活はしんどいからお休みする」


 なるほど。昨夜はおとといの夜より夢魔の侵食が進んでたからだろうなぁ。

 でもそんなことは言えない。


「まだ体調よくないんだ?」

「うん、昨日よりはよくなったけど、実は夜はすごくつらかったんよ。昨日部活出たからひどくなっちゃったかもしれないんで」

「そりゃ休んだ方がいいね」


 ってことで久しぶりに親友と一緒に下校だ。

 まだちょっと冷たい風が時々吹いてて、地獄のような眠気をさらってく。せっかくさっこちゃんと一緒に帰るんだからその間だけは元気でいたいから、今この風はわたしの味方だね。


 しばらくは学校でのことや、春休みの予定とか話してた。


「そういえばハルトさんの卒業おめでとうパーティって、三連休の真ん中で決定?」

「うん。ハルトさんはいつでもいいって言ってたから」

「それじゃ部活があるならお休みいれとくよ。で、その後どうなん? 連絡とってるん?」


 さっこちゃんがにやぁって笑って肘でつついてきた。


「まぁねー。そこそこ会話できてるよ」


 会話どころか一緒に戦っちゃってるけど。


「ほうほう、順調ですなぁ。次に二人一緒にいるところ見るの楽しみ」

「わぁお、なんだかハードル上がった感」


 あははー、と笑った後に、どうしてか、さっこちゃんはちょっと何かをためらったみたいな顔になった。

 でもそれも気のせいかなぐらいの一瞬のことで、また別の話題になってった。


 そろそろ分かれ道かな、ってところで、さっこちゃんが立ち止まった。

 ん? と首をかしげると、なんとも言えない顔で尋ねられた。


「愛良ちゃん今日すっごく眠そうだったけど、寝不足?」


 なぜかどきっとした。別に変なこと尋ねられてるわけじゃないのに。


「ちょっとねー」


 うまい理由が咄嗟に出てこなくて曖昧に返してしまった。

 これがいけなかったんだろうか。


「昨日ね、すっごくリアルな感覚の夢を見たんだ」


 あっ、それまずい。

 びゅうっと吹いた風に、ブルっと震えが走る。

 でもここで変に話題を変えたらアヤシイだけだ。


「へぇ、どんな?」

「愛良ちゃんが変な男と、二十代ぐらいの女の人と言い争ってて、剣振って戦ったりしてた」


 あぁやっぱり。


「そりゃすごい夢だね」

「きらちゃんと、ハルトさんもいたよ」

「そうなんだ?」

「今日、きらちゃんと、なんでか冴羽くんも眠そうにしてたよね」

「そうだっけ?」


 われながらすごい空々しい。

 さっこちゃんはわたしの顔をじっと見て、ずいっと近づいてきた。


「あれって、夢じゃないんじゃない?」


 あはは……、って力ない笑いが漏れた。

 でもここで認めちゃったらダメなんだよ。


「さっこちゃん、あなた疲れてるのよ」


 出所はあんまり知らないけど有名らしいセリフでとぼけてみた。


「……夢、なのかなぁ」


 さっこちゃんが納得いってないけど、ってありありと判る顔でつぶやいた。無理やり納得しなきゃ的な感じ。


 ごめんね。話すにしてもお父さん達の許可を得ないと。これ以上言いつけ破ったら本当に狩人の活動ができなくなっちゃう。


「それじゃあ、よく休んでね。バイバーイ」


 できるだけ自然に別れたつもり。

 お父さんに報告しなくちゃ。




 家に帰って、夜の診察の前に休んでるお父さんに、さっこちゃんの話をした。


「ずっと咲子ちゃんの夢の中でやり取りしてたから、その影響だろうね」

「また尋ねられたら、どうしたらいいの?」

「ごまかすしかないね」


 やっぱり。


「綺羅璃ちゃん達にも注意するように言った方がいいかもな」


 そっか。ハルトさんと会うことはなくってもきらちゃんには聞けるもんね。

 って話してたら。

 スマフォに着信だ。

 ディスプレイ見たら、きらちゃんからだ。

 ちょうどいいやって電話に出た。


『どうしよう! 咲子ちゃんに話しちゃった!』


 ……一歩遅かったみたいだ。

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