しょんぼりの親友を守りたい
かなりパニクっちゃってるきらちゃんを落ち着かせて話を聞いてみた。
さっき、さっこちゃんから電話がかかってきたらしい。
会話の流れはざっとこんな感じ。
「きらちゃん、昨夜は大変だったね」
「えっ? なにが?」
「夢の中で」
「なにそれ?」
「愛良ちゃんから聞いたよ」
「そうなの? 愛良ちゃん話したんだ」
「今日眠そうだったけど大丈夫?」
「うん大丈夫。寝不足だけだし、ってかわたし捕まってただけだから大変だったのは愛良ちゃんで――」
「やっぱり、あれ現実だったんだ」
「……うえぇっ!?」
ストレートに尋ねたらはぐらかされたから、カマかけたのか、さっこちゃん。
で、かなりパニクったきらちゃんの声に、さっこちゃんも聞いちゃいけないことを安易に聞いてしまったんだ、って察したみたい。やたら謝ってたらしい。
で、もっと驚いたのは、朝、お兄ちゃんの淳くんに相談したんだって。
こういう夢を見てリアルっぽいんだけどどうしよう? って。
そうしたら淳くんが、聞いてみればいいんじゃないかって言ったから尋ねてみた、って。
きらちゃん、もう泣き声になっちゃってる。
『どうしよう。わたしも罰とか受けるのかな』
「罰なんて、そんなことはないと思うよ、多分」
『でも愛良ちゃんが大人の言いつけ守らなかったから罰を与えるって言われてたよね』
そういえばそんな話だった。まだ何も言い渡されてないけど。
わたしまで気分がずーんとしてしまった。
「とにかく言わないわけにいかないからお父さんに相談しておくよ。きらちゃんはとりあえずそのままでいいと思う」
『うん、ごめんね迷惑かけて』
「あんまり気にしないで。んじゃね」
電話を切って、はあぁ……、ってため息が漏れた。
「話は大体判った。咲子ちゃん達には夢の世界の話と現状を伝えよう。僕の診察の後になるからちょっと夜遅くなるけれど、呼べそうか?」
「多分。大事な話があるって言っとく。さっこちゃんなら多分それで察してくれるだろうし」
「それじゃ、それでいこうか」
ってことで、思いがけずさっこちゃんにも秘密を知られてしまうことになってしまった。
どんな反応するだろうか。
部屋に戻って、スマフォでさっこちゃんに電話する。
かかってくるって予想してたのか、二コール目の途中で呼び出し音が途切れた。
『もしもし、愛良ちゃん?』
「久しぶりー、ってほど時間経ってないか」
あはは、って笑う。さっこちゃんも笑ってくれた。
「あのね、大事な話があるんだ」
『うん』
やっぱり、何を話されるのか判ってるような相槌だ。
「わたしから今詳しく、って行きたいとこだけど、ほんとに大事な話だから、お父さんから話してもらうことにする」
ちょっとだけ、間が空いた。
さっこちゃんから返事がないからこっちの要件を続ける。
「お父さん、今日も診察あるから、終わってからになっちゃうけどいい?」
『うん』
さっきよりちょっとトーンダウンしてる。
「淳くんにも相談したんだよね?」
『うん』
「だったら、夜、淳くんと二人でうちに来てくれるかな」
『判った』
さっこちゃん、口数が少ない。声に元気もない。
いつも明るいさっこちゃんがこうなってるのは、やっぱ気にしてるんだ。
なんか言葉かけたいけど、こんな時、なんて言ったらいいんだろう。
何も言われてないのに「気にしないで」も変だしなぁ。
考えてみたらさっこちゃんとは喧嘩とか、何か衝突したとか、ましてや険悪になったとか、そういうのなかった。
いいことなんだろうけど、こういう時、ちょっと困る。
「それじゃ、また後でね」
結局、フォローも言えずに電話切っちゃった。
ちょっともやっとする。わたし、もっと気の利いた子だったらよかったのに。
ふぅっと息をついて、スマフォを机の上に置いた。
あと数時間後には顔を合わせるんだから、きちんと話すのはその時の方がいいんだ、って思うことにして、とりあえず晩御飯作ることにした。
夜の九時ぐらいになって、さっこちゃんと淳くんがうちに来た。
二人ともちょっと硬い表情だ。
「こんな時間に大丈夫だった?」
「ちょっと愛良ちゃんに用事があるから行ってくる。兄貴をボディガードに連れてくって言ったらあっさりOKくれたよ」
ちっちゃいころからのなじみだからか、さっこ母は寛容だった。
リビングのソファに座ってもらって、お茶出して、では早速って感じでお父さんに話してもらった。
夢の世界の存在を。
夢魔と狩人、夢見のことを。
どうしてそれを秘密にしているのかを。
敵対している組織が、さっこちゃんの夢を利用したことと、その結果である昨夜の話も。
時間はそんなにかからなかったと思う。けどその間、さっこちゃん達は真剣なまなざしで話に耳を傾けてくれた。
馬鹿にしないで、否定しないで。
さっこちゃんが昨日の夢をしっかり覚えていたからってのもあるだろうな。
「だからこの話は誰にもしないでほしい。事情を知っている人と話す時にも他の人に聞かれたりしないよう気を付けてほしいんだ」
お父さんが、そう締めくくった。
青井兄妹は、こくんとうなずいた。
「二人にはこれを渡しておくよ」
お父さんが、お守り袋を出した。
「また暁の夢が変なことをたくらまないように、夢見のお守りを作っておいた。夢魔から守ってくれるよ」
いつの間に作っててくれたんだろう。確か、力を込めたお守りを作るのはすごく魔力を使うから時間も精神力もかかるって言ってた気がする。
ありがとうお父さん。
二人はお守りを受け取って、大事そうにポケットにしまった。
「話はこれだけだよ。咲子ちゃんは特に、いきなり巻き込んでしまってごめんね」
さっこちゃんは、いいえ、って首を振って、わたしを見た。
「愛良ちゃん、ごめんね」
「へっ? 何が?」
「愛良ちゃんが何か隠してるなって気づいて、ついついムキになってきらちゃんにまで試すようなことして聞き出して」
「ううん。こっちこそ、ずっと隠し事しててごめんね」
「それは、話しちゃいけない理由があったんだから。わたしは自分勝手な感情で秘密を暴いちゃったんだよ。……寂しかったし悲しかったし、なんか悔しかったんだ、隠し事されてるって思ったら。だから……。誰だって聞かれたくないことぐらいあるのにね」
さっこちゃんの目から、ぽろっと涙が落ちた。
あぁ、なんか、キュンとする。
さっこちゃんの方が勉強も運動もできて、背も高くて大人で頼もしいのに、今はすごく守ってあげたい存在な感じ。
だから立ち上がってさっこちゃんのそばに行って、ぎゅって抱きしめた。
「いいんだよ。わたしも本音言えば、さっこちゃん達に知ってもらえてちょっとほっとしてる」
「ほんと?」
「うん。大親友に隠し事って結構つらかったんだよ」
さっこちゃんが、よかったって泣くから、わたしまでもらい泣きしてしまった。
「よかったな咲子」
淳くんがほっとした顔で笑ってる。
それから、お涙タイムはすぐに終了して、気分上げるためにトラウマ狩人の悪口で盛り上がって、十時前にはお父さんが青井兄妹を送ってった。
きらちゃんに、さっこちゃんのことは無事解決したってメール打ちながら思い出した。
そういえば今夜、暁の夢の話を聞くはずだったけど、どうしよう。
お父さん帰ってきたら聞いてみよう。
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