わたしがカレシにしたいのは
中間テストが迫ってるので狩人禁止週間に突入した。
こっちも頑張らないと狩人活動にストップがかかっちゃうから気が抜けない。
テスト一週間前になって、いつものように、さっこちゃんと勉強会だ。
「愛良ちゃん、調子戻ってきたね。よかった」
ふと息抜きで伸びをすると、さっこちゃんがほっとため息をついてる。
「うん、心配かけちゃったけどもう大丈夫」
あの夢見の集会所での一幕から、葛城さんはおとなしくなった。冴羽くんに嫌われたくないんだろう。
それと、もう一つ。
「冴羽くんに、きちんとお返事することに決めたんだ。そう決めたら、気持ち的に落ち着いた」
さっこちゃんが驚いてこっち見た。
「へぇ、なんて?」
「あのね、実は――」
中間テストが終わった。
出来は、ちょっといい感じ。これなら来週から狩人復活できるだろう。
さて、やることはもう一つある。
前から言うのは決めてたけど、さすがにテスト前には言いたくなかったから今日まで延ばしてた。
夢見の集会所で冴羽くんを待つ。家に行ってもよかったけれど、わたしのいろいろな気持ちが一つの方向に決まってったここで冴羽くんに応えたい。
マダムさん、アロマさんとお茶しながら彼を待つ。
三十分ぐらいしたかな、冴羽くんと葛城さんが来た。
挨拶して、お願いしていた通りアロマさんが先に葛城さんを訓練に連れて行ってくれた。
「冴羽くん、ちょっといいかな」
いつかの逆で、わたしが隣の部屋に冴羽くんを連れてった。
「今日、あの時のお返事をしたくて。長く待たせちゃってごめんね」
わたしが切り出すと冴羽くんは緊張した顔で「うん」って言った。
「ごめんなさい、冴羽くんとはお付き合いできません」
頭を下げた。
「うん、判ってた。葛城さんのこともあるしきっと頼りないって思われてるだろうなって」
顔を上げたら、泣きそうな笑顔の冴羽くんがいた。
「冴羽くんのこと、嫌いじゃなかった。葛城さんとくっついてるの見て、もやもやしてた。多分あれがやきもちってやつなんだと思う。でもカレシにしたいのは、わたしの一歩前にいて引っ張ってくれる人なんだなって気づいちゃった」
「それは高峰さんのこと?」
ハルトさんの名前が出てきて、すごくドキッとした。
「……うん」
「そっか。判った。はっきり言ってくれて、ありがとう」
「待ってもらったのに、いいお返事じゃなくてゴメンね」
「ううん。それじゃこれからはクラスメイトとして、夢魔を退治する仲間として、よろしくね」
冴羽くんが手を出してきた。握手したいってことか。
そっと、彼の手を握った。
温かかった。
優しい冴羽くんらしい。
けれどわたしは彼の手を握り続けてる資格はない。
こうしてる時もハルトさんのことを考えちゃってる。
だから、すぐに手を離した。
「それじゃまたね」
手を振って部屋を出た。
何かこみあげてくるものがある。
「お邪魔しましたー」
マダムさんに挨拶して、逃げるように集会所を出た。
自転車を全力でこいでると、涙があふれてきた。
ハルトさんのことを考えると、自然に顔がニヤけるぐらい好き。
集会所に葛城さんが来たあの日、家に帰ってからいろいろ考えてる時、ハルトさんがわたしだけ「おまえ呼び」「名前呼び捨て」なのに気づいちゃって、それからもう、彼のことばっかり考えてた。
別にハルトさんにとっては何でもないことなのかもしれない。けれどそういうのがすごくドキドキして嬉しいっていうのは、わたしがハルトさんのことをすごく意識してるからなんだ、ってこと。
ごめん冴羽くん、わたしひどい子だ。
冴羽くんの告白をはっきり断って、これで面倒から解放された、って全く思ってないって言ったら嘘になる。
ごめん、ほんと、ごめん!
涙のままに、わたしはさっこちゃんの家に向かってた。
さっこ母への挨拶もないまま、さっこちゃんの部屋に跳び込んだ。
「言ってきた、さっこちゃん、わたし悪い女だよぉ」
さっこちゃんに、ぐちゃぐちゃのままの気持ちをぶちまけた。
そんな、あとから考えたら黒歴史として完全に闇に葬り去りたい醜態をさらしても、さっこちゃんはずっと背中を撫でてくれて、うんうんって聞いてくれた。
「愛良ちゃん頑張ったね」
「さっこちゃん、いつもこんな思いしてるんだね。人の好きっていうのを断るの、つらいね」
「それは愛良ちゃんだからだよ。わたしそこまでは相手のこと思わないし」
親友からあっけらかんと返ってきて、へっ? と顔を上げた。意外な言葉に涙も引っ込んだよ。
「ただ、それだけ冴羽くんが本気だったっていうのと、愛良ちゃんが冴羽くんのこと嫌いじゃなかった、っていうのもあるんじゃないかな。さすがにわたしもそこまで近しい相手だったら、断るのつらいと思う」
さっこちゃんの気遣いだね。多分、そんなに相手のこと思わないっていうのも。
ありがと、励ましてくれて。
「で、どんな人? 好きな人って。この前は冴羽くんにどう言って断るかって話で、その人のこと聞けてないんだから教えてよ」
つつかれて、わたしは笑って、話した。
お父さんの仕事の関係で出会ったというフェイクを入れて、夢の世界のことはナイショにして、ハルトさんのことを、知る限り。
「愛良ちゃん、楽しそう。いいなぁ。わたしも好きな人見つけたい」
「さっこちゃんはまず、合格ラインを引き下げるところから始めないと」
「わたしそんな理想高くないよ?」
「ううん、無意識だろうけど絶対淳くんと比べてる」
「うそっ、まじっ?」
「大マジ」
「それじゃまるっきりブラコンじゃー」
さっこちゃんがショックでか床にゴロゴロしてしまった。
あぁ、こんなかわいい彼女が見られるのってきっとわたしだけ。
さっきまでの悲しい気持ちは吹っ飛んでた。
ありがとさっこちゃん。好きな人が見つかるまで、わたしがそばにいるよ。
……ハルトさん攻略難しいだろうし。
(恋ってどんな気持ち? 了)
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