砲撃軌道のお姉さんは好きですか【旧作】
永久凍土
砲撃軌道のお姉さんは好きですか
アバン+プロローグ
朦朧とした意識が徐々に覚醒し、ぼんやりと己れを顧みる。
身体に触れるアスファルトのざらついた感触。
くの字に腰を折って横になっている。
強い潮の匂い、突堤の縁に打ち付けては鳴る波の音。
――― え………な、に、わ、私、どういう……
言葉を口にしようにも、喉が詰まって声が出ない。
ふと、人の気配を感じて視線を上げる。
全身をずぶ濡れにした少年が、イオの顔を覗き込んでいる。
スラリとした痩せ型で淡いブラウンの髪、同じく淡いブラウンの瞳。
濡れた髪が纏わりつく額には、角が丸い三角形のプレート。
体内のナノマシン『ニューメディカ』を管理する外部診断ポートだ。
「自分の名前、分かる?」
少年はおもむろに口を開く。
温かくも冷たくもなく、事務的な調子で。
「え……っと、ミ、ミナミ、イオ……」
酷い頭痛、鼻と喉の痛み。
少年と同じように濡れて冷えた身体。
重くなった髪と衣類。
そして――― 大きくはだらけられたブラウス、大気に露出する胸元。
マスキングポリマー製ブラからはみ出た秘密のパッド。
――― はああああああっ!? なんで私、む、胸、晒してるのっ!
遡ること、数時間前―――
◆◇◆
二一一六年。外宇宙より突如『彼ら』が襲来した。
全長数百メートルにも達する巨大な質量。
可視光の反射を許さない暗黒色、節足動物の脚部に似た膨大な骨格の集合。
複雑な可動機構を介し、それらが幾重にも連なる運動構造を持つ。
まるで「移動する丘陵」。
その存在は、知的生命体とも侵略兵器とも判別がつかない。
地上に存在する、あらゆる生物を摂取し尽くす収奪装置。
人類は彼らを超常知性構造体『メタストラクチャー』と呼んだ。
彼らが持つ時空歪曲防壁『IVシールド』。
強大な重力干渉により時空を歪め、通常兵器の一切を無力化する不可視の盾。
人類はそれに為す術がなく、異重力位相変換弾頭『アンチグラヴィテッド』を開発する三年後まで苦しめられることとなる。
状況が膠着して十二年が過ぎ、その存在は人類の日常になっていた。
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