【バーチャル蠱毒】九条林檎No.5というラスボスについて
有坂紅
とにかく九条林檎No.5を知ってほしい。
現在話題になっているバーチャル蠱毒、あるいはバーチャルデスゲーム。
その内容は十二人が同じキャラを使い、それぞれに自分なりの活動をして競い合っていくバーチャルなタレントオーディションだ。
彼女たちはそれぞれに自分をアピールし同じ姿の相手を蹴落とし、敗れ去るときには「消えたくない」と口にする。確かに傍から見ればこの世の地獄だ。業が深いことこの上ない。
その中で、九条林檎No.5は明らかに異端である。
彼女は自らが参加するオーディションを地獄と認め、運営の酷薄さを嗤い、敵対者であるはずの他の九条林檎を褒め布教する。
さらに遠巻きに地獄を覗き込んでいた者を探しリプして環の中に引きずり込む。
言うまでもなく、これは常人がすることではないし、できることではない。
人は失敗したくないとき定石に頼る。常識に裏打ちされた普通をまっすぐ進む。味方と敵を分別し、道を外れないように歩く。もしもそれを主人公ムーブと呼ぶとすれば。
彼女のそれは、ラスボスのムーブだ。
一段高いところからデスゲームを眺め、自らの死を達観し、運命を定めた者を嗤い、そして悪意なく地獄を見せてくる。差し伸べられた手は取らず、好意はそこそこに受け流し、破滅的な予想図を幾度も語ってみせる。
そしてそんな凄まじい強さを見せながら、人の心を動かすことをさらりと言う。
彼女に配信のBGMの名前を尋ねた者がいた。
彼女が消えてしまった後で、今この瞬間を思い出すために聞きたいのだと言って。
それに対して彼女は答えた。
「今ここで我が答えを出してしまうより 見失った我を想いながら解を探した方が 貴様は長くこの瞬間を何度も反芻することができるだろう?」
彼女はとても残酷で、とても美しいことを平然と言う。
さあ、今からでも遅くはない。
九条林檎No.5をフォローし、配信に向かおう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます