おはよぉ…

紀之介

知ってるんだからね。

「かーなー」


 朝、教室に向かう階段に足を掛けようとした時。


 上方の、壁一面がガラス張りの踊り場には、仁王立ちの綾ちゃんがいました。


「あ、おはよぉ…」


「─ 聞いても良い?」


「え?」


「私達、友達じゃないの?」


「…は?!」


「どうなの!?」


「ちょ、ちょっと 落ちついて!」


 私は急いで、踊り場まで駆け上がります。


「とりあえず、教室に行こう。ね?」


 困惑を抑えつつ、強引に綾ちゃんの腕を取って、階段を登り始めたのでした。。。


----------


「おはよぉ」


 階段を登り切り、廊下に出た瞬間。


 先に登校していた、一子ちゃんに出くわしました。


「ん!?」


 不機嫌そうな綾ちゃんの手を、私が引いている事に気が付きます。


「あ! そう言えば…」


 不穏な香り嗅ぎ取り、踵を返そうする一子ちゃん。


 その腕を、空いている手で綾ちゃんが 乱暴に掴みます。


「いーちーこー」


「な…何? 怖い顔して」


「私達3人、友達じゃないの?」


 唇を噛んで涙目の綾ちゃん。


 私は急いで答えます。


「と、当然じゃないの!」


 この手の話題が苦手な一子ちゃんは、渋い顔で固まっていました。


 事態が事態なので、私は肘で突きます。


「…何か言ってあげて!!」


「き、嫌いな人間とは…四六時中一緒に行動しないし。」


「ほら! 一子ちゃんも こう言ってるでしょ♡」


 納得いかない様に、綾ちゃんは 2人を睨みました。


「─ じゃあ、昨日は?」


「えーとぉ…綾ちゃん??」


「知ってるんだからね。」


「落ち着け、綾」


「私に内緒で、2人で何処かに行ったよね?」


「いや…だってね? 綾ちゃん!?」


「どうして私だけ…除け者にするの!」


----------


「2人共、ひどい!」


 涙で目を潤ます綾ちゃんに、私は慌てます。


「そ、それは…だって……」

「仕方ないでしょ」


「いーちーこー」


「あ、綾ちゃん? 私達が行ったのは、中学校の同窓会なのよ??」


「それなら尚更!」


 綾ちゃんは、今にも大泣きを始めそうでした。


「どうして私には…声も掛けてくれないの!?」


「落ち着いて、綾ちゃん!」


 一子ちゃんが、ゲンナリした様に呟きます。


「逆に訊くけど…何で誘わないと、いけないの?」


「あー 開き直った!」


「私達と佳奈は同じ学校だったけど…綾は別の中学卒業じゃない。」


「─ え!?」


----------


「ちょ…ちょっとまって!」


 焦りだす綾ちゃん。


「わ、私達…同じ中学 だったよね!?」


 沈黙する2人に、畳み掛けます。


「体育祭も…文化祭も……しゅ、修学旅行も………3人一緒だったじゃない!!」


 一子ちゃんと私は、顔を見合わせました。


「おい…大丈夫か!?」


「綾ちゃんと私達が知り合ったのは、この高校に入学してからよ?」


「あー!?」


 突然奇声を上げて、綾ちゃんが後ずさりします。


「ご、ごめん…」


 音がする勢いで、両手を自分の顔の前で両手を合わせました。


「さっきのは…理想の思い出でした。」


 虚を衝かれた表情で、一子ちゃんが口を開きます。


「り、理想の思い出って…何?」


「自分だけ2人と違う中学なのが悔しくて…どうせならって、3人は中学から一緒にいたって言う設定の思い出♡」


 脱力した私は、その場に崩れ落ちました。


「あ、綾ちゃん…」


 上目遣いで様子を伺う綾ちゃんの頬を、一子ちゃんが両手で挟みます。


「記憶を捏造するは あんたの自由だけど…人に迷惑を掛けない様にしてくれるかな?」


「やぁーめぇーーてぇーーー いぃーたぁーーいぃーーー」

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おはよぉ… 紀之介 @otnknsk

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