毒狂剣二刀流
新左衛門
逃争
1
平成末期にある島にて無頼の狂人が刃物を振り回して人畜を多数殺傷する事件が発生した。
此処ではその気違いにスポットを当て事の次第と顛末を語りたいと思う。
その男、生まれは繁華街から多少離れた寒村であったが、幼き時より気性すこぶる荒く
些細な事に容易に憤怒してたびたび周囲に手を上げた。
齢十二で、既に一升瓶を空にする脳髄の溶解した有様であったが、
その二年後には遂に興奮剤、幻覚剤に手を染めて戻り様のない魔道に堕ちた。
「後悔は死ぬときにマトメてします」が彼の口癖であった。
売春婦まがいの商売をしている女をねぐらとしてまるでラムネ菓子でも食らうかのように
錠剤や何やら染み込ませた紙を咀嚼する毎日を送っていた
女の商売道具である香水、これを入れ替える際に使う注射器をあろうことか彼は棒ヤスリで研いで使った。
名を笹原仇助という。
アダを助けるような人徳ある者に育ってほしいという親の願い、見事に砕け散った。
2
ある時笹原は久しぶりに手に入った飴玉状の結晶を見て浮かれていた。
「ええやんこのガンコロ」
取り憑いている女には決して見せない笑顔が其処にはあった。
これをスリバチでゴリゴリと潰して行く作業が楽しみで仕様がないのだ
「ガラスみたいに綺麗やわ~こりゃあナカナカいいネタやな」
混ぜものが結晶にあると破片が粉状になる。
笹原はカフェイン成分が大量に水増しされたモノを掴まされて吐いたことを思い出していた。
禁断症状時に来る特有の倦怠感を耐えた彼は己が絶食を乗り越えた回教徒の偉業に匹敵するのだと勝手に誤認していた
もちろん
「もうあかんわウチ死んだる!」
と喚いて手首を切り始めた女はそっちのけである
結晶がサラサラとした粉になった時点で振り向くと女は包丁片手に傍らに立っていた。
「あんた、ウチをまた嵌めたんやろ!!!あんた刺してウチも死ぬ!!」
そう言いながら出刃包丁を振り上げたが女性の腕力などたかが知れている。
「ワイが何時、嵌めたっちゅうねん?」
笹原の足掛けで派手に転んでスリバチを破壊した。
卓に並べていたおり今は鋭利な破片と化したガラス容器に命中した女の上半身は、
さながらデスマッチ最中のレスラーのような有様になっていた。
ぶち撒けた程度であれば吸い込むなり注射器に詰めるなりして摂取する気ではあったが
あいにく怪我をした女の血によって薬物は真っ赤に染まって半ば溶けてしまった。
血液型が違う血を入れたらどうなるかを聞きかじっていた笹原はせっかく手に入れた覚せい剤の摂取を諦めた。
「なああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
と、同時に憤怒した。
感情に任せて打ち込まれた
ようやく起き上がった情婦の鼻をへし折りそのまま第一頚椎が脱臼に至った。
男笹原、前科四犯厄年。
折れたナイフとあだ名されコンドルを背中に彫った自称猛禽類。
此処に来て人生五度目の窮地に陥る。
4度捕まり6度捕まりかけた彼の判断は早かった。
「トンコや…」
女の持っていた出刃包丁と壁に掛けていた長大な鉈を手に取ると
アルミ窓を慎重に開けて脱出した。
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