第71話 部屋の罠

 イザベラと三人組に連れ回されて、私は寮の部屋にきた。

 まあ、こんな経験も滅多にないので、これも慣れだと私は努めて平常心を保っていた。 イザベラが扉に手を掛け、そっと止めた。

「先生なら気がついているでしょう。なにか、異様な魔力を感じます」

「……分かってる。多分、ロクでもないぞ」

 イザベラは三人に目配せをした。

 馬鹿野郎な感じの三人だったが、表情を引き締めてそれぞれこっそり腰に帯びていたショート・ソードを抜いた。

 イザベラが呪文を唱え、目の前の扉が爆砕された。

 室内にはなんかの魔物と、床に描かれた魔法陣が見えた。

「転送陣、どっか余所から送り込んできてるぜ!!」

「まずは、これをどうにかしましょう」

 イザベラの声で、三人が同時に呪文を唱え、手にした剣に魔力光が宿った。

「へぇ、魔封剣か。結構、ムズいぞ!!」

 魔封剣とは、何らかの魔法を自分の武器に封じる魔法だ。

 剣が多いので魔封剣というが、別にどんな武器だっていい。

 これは、なかなかの高等技術だった。

「おし、いくぜ!!」

「あいよ!!」

「暴れろ!!」

 三人が連携して、なんかの魔物に斬りかかった。

 すると、床の転送陣が光り、また一体出現した。

「こういう事か。私が転送陣をぶっ壊すから、イザベラはもう一体!!」

「はい!!」

 私を床に置き、イザベラは比較的大人しめの攻撃魔法をなんかの魔物にブチ込んだ。

「さて……」

 なんてやってると、もう一体が出現した。

「おう、まだくるぜ!!」

「ぶっつぶせ!!」

「血が足りねぇ!!」

 一体目を倒した三人組が、新たに出現したヤツに向かっていった。

「……急がねぇとヤバいな」

 私は床の転送陣に手をかざした。

 読み取れる呪文構成から、対消滅呪文を構成していく。

 なかなか手の込んだもので、これがかなり大変だった。

「おう、手強いのが出たぞ!!」

「いくぜ!!」

「もっと、血をよこせ!!」

 今までとは違うなんかの魔物が出た。

「……ん」

 私は本能で察知して、その魔物を結界で包んだ。

 瞬間、爆発したかのような強烈な火炎が、結界内で渦巻いた。

「……はい、自滅攻撃。こんがり焼けたぜ!!」

 炭化した魔物には目もくれず、私は小さく笑った。

「おお、やるじゃねぇか!!」

「さずが、猫だぜ!!」

「馬鹿野郎、血が足りねぇんだよ!!」

 イザベラが相手をしていた魔物を倒すと、部屋の天井をぶち破る勢いで、巨大な魔物が現れた。

「おっと……これは、部屋をぶっ壊すレベルの魔法を使わねぇとダメかもな!!」

 私は転送陣の解析を続けながらいった。

「そんな事しねぇよ!!」

「やっぱ、やっといてよかったぜ!!」

「うへへ、血だ!!」

 ……どうでもいいが、一人ぶっ壊れていた。

 三人が剣を構え、その剣の光が増した。

 一気に斬りかかり、巨大な魔物の体がサクサク斬れていった。

「……一般名、シェイプ。切れ味をずば抜けて上げる魔法か。好きだねぇ」

 私は苦笑した。

 ややあって、転送陣の解析が終わった。

 即座に対消滅魔法で転送陣を消すと、消滅間際に同じ魔物が出現した。

「どうしましょう。さすがに、これ以上部屋を破壊するわけにはいきません。生半可な魔法が通じるとは思えませんし……」

 イザベラが困っていた。

 そのうち、もう一体が腕で三人組を払い飛ばした。

「いてぇな、この!!」

「ぶっ殺すつもりだったけど、もっとぶっ殺すぞ!!」

「そうこなくちゃよ、この血は美味いぜ!!」

 一瞬心配したが、床に倒れた三人は即座に立ち上がって、また突っ込んでいった。

「……頑丈で元気だね」

「はい、それが取り柄ですからね」

 イザベラが小さく息を吐いたとき、笑みを浮かべたアリーナとアイリーンが入ってきた。

「なんだよ、楽しそうな事やってるじゃねぇかよ!!」

「先輩、ズルいですよ!!」

「あれ、お前ら謹慎じゃねぇの!?」

 アリーナがメイスを抜いて、小さく笑った。

「王令で私はサーシャの護衛になってるから、こういう時は例外だぞ!!」

「はい、そしてなぜか仲間にされました!!」

 二人がメイスを構えた。

「いくぞ、今度は怒られねぇ!!」

「おうよ!!」

 なんか仲良くなったアリーナとアイリーンが、メイス片手にもう一体の魔物に突っ込んで行った。

「な、仲間にされたんだ、アイリーン……」

 イザベラが私をみた。

「噂に聞く猫の棍棒を試す時です。これを忘れていました」

「……やめろ、お前は肉体派じゃなねぇ。大怪我するぞ」

 イザベラは考え、太ももに装備されていたらしい大量のナイフを見せた。

「……なに、それで私を分解しよってか?」

「どうしてそういう発想になるんです。こう使うんです」

 イザベラはナイフを次々抜いて、鮮やかな手つきで投擲を始めた。

 前で暴れてる連中には掠りもせず、的確に魔物の体にナイフが突き立った。

「……そういえば、イザベラの武器って知らなかったけど、それだったのね」

「はい、投げるの好きなので」

 結局、寄ってたかって斬りまくり、ぶん殴りまくり、刺しまくり……。

 ひたすら暴れたあと、一度全員が後退してきた。

「さ、さすがに疲れた……」

「な、なんだおい、頑丈だな」

「ち、血が……」

 三人組はへたばっていた。

「こりゃ、簡単には倒せねぇぞ!!」

「いやぁ、頑丈だなぁ」

 厳しい表情になったアリーナとアイリーンが息を吐いた。

「品切れです。ここで、あれを倒せるだけの攻撃魔法を使ったら、寮の大半が被害を受けますね」

 イザベラが息を吐いた。

「……やった事はないけど、理論上は可能って方法があるぞ。これなら、二体とも一撃で倒せるぜ!!」

 アリーナが笑みを浮かべた。

「やれ!!」

「あいよ!!」

 私は呪文を唱えた。

「水平展開、空間遮断結界!!」

 二体の魔物を横に真っ二つにする形で白い結界壁が現れて消えた。

 巨大な魔物の体が上下でずれ、そのまま床に倒れた。

「な、なにを?」

 イザベラが声を上げた。

「うん、アイツらの体を両断する形で、強力な結界を展開しただけだぞ。それで、真っ二つに切れておしまい!!」

 アリーナが小さく笑った

「最初にやれよ。ああ、この部屋は片付けさせるから、みんなで風呂いこうぜ!!」

「……ふ、風呂ね」

 アリーナに抱きかかえられ、みんなで風呂に向かった。

 私は思った。

 なぜ、人間はここまで風呂が好きなのだろうかと。

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