第22話 猫のあれ

 私の専門は回復魔法と結界魔法である。

 結界魔法は置いておくとして、どんなに強力な回復魔法でも病気を治す事は出来ない。

 そういう事は、長年に渡って経験と知識を身につけ、特殊な魔法を駆使して治療に当たる魔法医の領分だった。

 興味こそあったが、さすがにこれは手に余ると、あえて手出ししていないものだった。

「……死ぬかも」

「なに、風邪でも引いたの?」

 あまりの怠さに寮のベッドで伸びていたら、アリーナがやってきた。

「……それを診断するのは私ではない」

「元気そうに見えるんだけどね。気合いが足りないだけじゃないの?」

 アリーナが笑った。

「……いや、笑ってないで校医を呼んでくれ。これは、気合いの問題じゃなさそうだ」

 私はため息を吐いた。

「なに、マジでダメか。ちょっと待ってろ」

 アリーナが部屋から飛び出した。

 すぐに白衣のオバチャンを連れてきた。

「あれ、大分衰弱していますね。猫は診たことがないのですが……」

 オバチャンは私に手をかざした。

「……」

 オバチャンは無言でアリーナの服のポケットに手を突っ込み、取りだした薬瓶の中身を私に振りかけ、呪文を唱えた。

「……み、みんな、勝手になんか突っ込むし」

「……気休め程度に手を打ちましたが、やはり専門の獣医さんじゃないとダメですね。動かしたくないので、街までいって呼んでこないと」

 アリーナが笑みを浮かべた。

「サーシャが入学してから、獣医は常駐してますよ。暇だからって、すぐどっかいっちゃうので、見つかるまで様子見をお願いします」

「あら、知らなかった。では、様子見していましょう」

「……すぐどっかいっちまうのかよ」

 私はグデグデでため息を吐いた。

 なんか意識まで遠くなってきた時、慌ててオジサンが飛び込んできた。

「ありがとうございます。あとは私が引き継ぎましょう……」

 オジサンは私に手をかざした。

「痩せないでいいところが痩せて、太らないでいいところが太っていますね。これはいけません」

「……か、関係ある?」

 私の意識は、いよいよ危なかった。

「こんなの気合いで治ります。どりゃあああああ!!」

 オジサンが気合いを込めて叫んだ。

 私の意識は、本気でヤバくなった。

「……あれ、気合いが足りなかったかな?」

 アリーナがオジサンをメイスで殴り飛ばした。

「使い物にならなねぇよ。誰だよ、こんなの置いたの!?」

「なかなか笑える獣医さんでしたが、専門外で診ても危険な状態かもしれません。私の魔法は人間用なので猫に効くか……まあ、やるしかないでしょう」

 オバサンは呪文を唱えた。

 色とりどりの光が私を包んだ。

「……微調整でいけそうですね。この辺りは経験則なので、保証はしませんが」

 私を包む色が微妙に変化していった。

「……こ、これが、医療魔法。とても、手に負えないな」

 私は小さく笑みを浮かべた。


「はい、大丈夫でしょう。専門外なので原因は特定出来ませんが、食べ過ぎですかね?」

 オバチャンが不思議そうな顔をした。

「……た、食べ過ぎだと?」

 アリーナが私を睨んだ。

「く、食ってないよ。むしろ、食ってないよ!?」

「あら、それはそれで問題ですね」

 オバチャンが笑みを浮かべた。

「……おい、正直にいえ。最後に毛玉吐いたのはいつだ?」

「馬鹿野郎、そんなこといえるか!?」

「ああ、胃に詰まっていたのはそれですか。魔法で無理矢理消しましたが……いや、人間にはないですからね。勉強になりましたよ」

 オバチャンが笑みを浮かべて部屋から出ていった。

「……毛玉くらいちゃんと吐け。猫の基本だろうが!!」

「こんな場所で吐けるかよ。気合いで我慢してたんだよ!!」

 アリーナがベッドから私をむしり取った。

「全部剃ってやる。こんなのがあるからいけないんだ!!」

「やめろ!!」

 そう、猫にとって胃の中の毛玉の処理は重要だった。

 我慢しないで、ちゃんと吐き出そう。

 そう思った私だった。

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