第23話 プールの逸話(閑話)

 この巨大学校には、授業などに使う教室や魔法実習室、図書館などといったいかにもな施設の他に、ストレス発散なのかなんなのか、よくわからない施設もたくさんある。

 そのうちの一つが、プールとかいう謎の水槽だった。

 温水まで引いて一年中入れる気合いの入れようだったが、なんでわざわざ水に浸かるのかが全く理解出来なかった。

 そして、風呂だけでも嫌なのに、ここにも無理矢理連れてくるアリーナが謎だった。

「またプールかよ。水に浸かりたかったら一人で行けっての!!」

「はいはい、いくよ!!」

 例によって私の抗議など聞くわけもなく、アリーナはさっさと抱えてプールに向かった。

「一人で行けっての。私は入りたくない!!」

「まあ、そう連れない事うなよ。この伝説のアイテムがあれば、絶対に溺れないし」

「わ、私はいつからそんな妙なアイテムになったんだよ!!」

 アリーナは笑みを浮かべた。

「今から!!」

「馬鹿野郎!!」

 まあ、結局なにをいったところで無駄だった。


「毎回思うんだけどさ、いちいち着替えるのかよ。面倒くせぇな!!」

「馬鹿野郎、そのまま入ったらただの馬鹿野郎だろ!!」

 アリーナがこういうば専用らしい水着とやらに着替え、プールに続く扉を開けた瞬間、いきなり攻撃魔法が飛んできた。

 二人で同時に身をかがめて避け、様子をみると調子こいたバカどもが暴れていた。

「……ったく、いきなり使うのかよ!!」

 一気に不機嫌になったアリーナが、筒状のなにかを担いだ。

「な、なんじゃそりゃ!?」

「ファイア!!」

 アリーナの筒状の物から、オレンジ色の炎を吹き出して何かが飛び、馬鹿野郎の一人に命中すると派手に爆発した。

「バラバラになりてぇヤツは順に並べ、コラ!!」

「……おいおい、今のなんとか結界張ったけど、際どかったぞ」

 暴れていた馬鹿野郎が、全員アリーナをターゲットにした。

 もう分かったので、私は早々に呪文を唱えた。

 一斉に放たれた攻撃魔法がそのまま跳ね返り、馬鹿野郎どもは全員自滅した。

「んだ、コラ!!」

 しかし、アリーナは止まらなかった。

 水着でメイスを持っていなかった事は、まだ良かったかもしれない。

 全滅した馬鹿野郎どもを素手で血祭りに上げ、裸に剥いて外に放り出した。

「全く……」

「お前もわりと、暴れたぞ?」

 私はため息交じりにデッキチェアに乗り、誰かの飲みかけのグァバジュースを飲んだ。

 こんな事もあろうかと、アリーナの水着の隙間に差し込んでおいたサングラスを掛けた。

「……おい、なにリゾート決め込んでやがる」

 アリーナが誰かの飲みかけで、かつ私の飲みかけでもあるグァバジュースを一気に飲み干した。

「なんだよ、水に入りたくないんだよ。猫がリゾートしちゃいけねぇのかよ!!」

「グァバジュースなんか飲んでるんじゃねぇよ。だいたい、誰の飲みかけだよ!!」

 私はサングラスを掛け、骨格的にきつい仰向けの姿勢でデッキチェアに横になった。

「……おい、骨がミシミシいう音が聞こえるぞ」

「……き、気合いだ。気合いでリゾートするんだよ」

 アリーナはため息を吐き、ウィンドミルとかいう投法で私をプールにぶん投げた。

 勢いよく水に突っ込んだ私は、全身を脱力して浮く事に成功した。

 あとは適当に手足をせっせと動かせば、何となく進んでいくものだ。

 そう、猫だって当然、泳げるのである。やらないだけだ。

「全く、最初から泳げ!!」

 遅れて入ってきたアリーナがいった。

「……毎回、投げ込まなくてもいいと思うよ」

 アリーナが笑みを浮かべた。

「私も泳ぐぜ!!」

 クロールとかいうらしいが、アリーナが猛烈な速度で泳ぎ始めた。

「始まったか。しばらくやってるな」

 私はプールサイドに上がり、デッキチェアに上った。

「全く、最初からこうさせてくれよ」

 私は骨格的に無理がある仰向けの姿勢で無理矢理寝た。

「い、いてぇ……こ、これも、リゾートのためだ!!」

 とかく、プールとは修行の場である。

 私はそう認識していたのだった。

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