第18話 飛んだ猫

 その終末休み。

 学校の外庭は大騒ぎになっていた。

 私にはおおよそ理解出来ない行動なのだが、人間とはとにかく空を飛びたいらしく、魔法工学をやっている連中がその機械を飛べそうな感じで仕上げた。

 アリーナに付き合って、私もそれに大きく関わっていた。

「飛行実験機『サーシャ』だぜ。いい感じだぞ!!」

「……その名前やめない。なんか、微妙な気分になるぜ」

 アリーナは笑みを浮かべて私を抱きかかえ、その狭い機械の中に入った。

「どれ……」

 アリーナがなんかパチパチやり始めた。

「おう、問題ねぇぞ!!」

 アリーナが外にいる学生に手で合図を送った。

 その学生が手で合図を返し、遠ざかっていった。

「いくぜ、サーシャ。ちゃんと飛べよ!!」

「……だから、紛らわしいからやめようぜ!!」

 爆音と甲高い音が機械を振るわせ始めた。

「う、うるせぇ……」

「いい音じゃん。安定してるぜ、さすが相棒の計算通り」

 アリーナが笑みを浮かべ、何か操作した。

 爆音と甲高い音が一気に跳ね上がり、機械がもの凄い勢いで校庭を走り始めた。

「こ、これ、飛ぶんだよね。このまま走っていったら、柵にぶつかって終わるよ!?」

「一定の速度まで加速しないとさ……いくぜ!!」

 アリーナが操作すると、機械がふわりと浮いた。

「ぎゃあ、飛んだ!?」

「そりゃ飛ぶように操作したからな。初飛行成功だぜ。もっと、上がらないかな……」

 フワフワ浮いていた機械が、ハッキリと意思を持ったかのように上昇を開始した。

「おう、イケるぜ!!」

「馬鹿野郎、ムチャすんな!!」

 結構な高さまで上がり、バカデカい校舎の上をグルグル回った。

「……難しいけど、魔法でも出来るのに」

「それを、わざわざ面倒な機械でやるからいいんだよ。ロマンってやつだ!!」

 しばらくそうしたあと、アリーナの操る機械は校庭に向かった。

「着陸が難しいんだ。失敗したら、粉々だからな!!」

「おい、しっかりしろよ!!」

 機械は無事に校庭に降り、しばらく走って止まった。

 駆け寄ってきた学生たちが歓声を上げ、アリーナが笑みを浮かべた。

「正直にいえ。お前、魔法でアシストしただろ。設計上、あの高度までは上がれないはずだからな!!」

「……飛び上がるまでは何もしてねぇよ。だから、初飛行は初飛行だぜ!!」

 私は笑みを浮かべた。


 よく分からないが、なんか凄い事だったらしい。

 魔法工学科の連中は時の人となり、人類初飛行パイロットの名前にアリーナが刻まれた。

 もっとも、なぜか私までセットになってしまい、なんかの取材とかとにかく大変だった。

「大袈裟なんだよ。ちょっと飛んだだけだろ……」

「馬鹿野郎、そのちょっと飛んだまで何年掛かってると思ってる。百年近いんじゃない?」

 屋上のベンチでアリーナが笑った。

「……そんなにチャレンジしてるのか。半端ない気合いと根性だな」

「そういうこと。大騒ぎにもなるって」

 アリーナが笑った。

「やる事派手だねぇ。相変わらずだぜ!!」

「その裏には、サーシャの地味な計算の積み重ねだぜ。私には出来ないからな!!」

 アリーナが私を抱きかかえた。

「よし、今日は気分がいいから、念入りに洗ってやろう」

「どっちにしろ、私は洗われるんだろ。もう、慣れたよ!!」

 アリーナは私を風呂に連れていった。


「今日はノミ取りシャンプーにしてやろう」

「馬鹿野郎、いねぇよ。それ強いから、無闇に使うんじゃない!!」

 いつも通りアリーナに抱えられて湯船に入った。

「お前、これ嫌がらなくなったな?」

 アリーナが笑った。

「嫌がって止めてくれたら嫌がるけど、どうせブチ込まれるからな!!」

 私はため息を吐いた。

「そうそう、諦めが肝心だ。引っ掻かれようが何しようが、これはやるって決めてるからな!!」

「……なぜに、そこまで」

 アリーナは私を抱きしめた。

「長年の夢じゃ。猫と風呂入りたかったんだ!!」

「……猫迷惑です」

 アリーナは私を抱えて風呂から上がった。

「サーシャを乾かすのに時間が掛かるからな。いつも冷えて寒いぜ!!」

「だから、そこまでしてやるなっての!!」


 風呂上がりに私を抱えてそのまま学生課にいったアリーナは、壁に貼ってあるバイトの用紙を漁り始めた。

「なに、金欠なの?」

「そうじゃないけど、せっかく回復士と結界士の称号まで持ってるすげぇのが相棒なんだぜ。使ってやらねぇと称号が泣いちまうぜ!!」

「む、ムチャするな!?」

 アリーナは笑みを浮かべ、一枚の紙をカウンターに持っていった。

「……マジでやるの?」

 いつものオッチャンが低い声で言った。

「おう、冗談を貼ってるのかよ!!」

「いいですけど。防御と回復だけで、どうするんですか?」

 オッチャンがため息を吐いた。

「こら、私をナメてるだろ!!」

 アリーナが怒鳴った。

「いえ、ナメてるのはそちらです。学生課で知らない事があるとでも。あれは、攻撃魔法のようなものです。使い物になりません。よって、これは許可出来ません」

「……バレてたか」

 アリーナは素直に引き下がった。

「なんだおい、妙なものでも作ったのか?」

 私が聞くと、アリーナは頭を抱えた。

「頑張ったといっておこう。どうやっても、攻撃力がゼロの攻撃魔法しかできねぇんだよ!!」

「……逆にすげぇぞ。面白いからみせろ!!」

 私が笑みを向けると、アリーナは私を抱えて校庭に出た。


「ほらな、なんもぶっ壊せねぇけど、派手は派手だろ!!」

「おう、いいものみたぜ。こんな、器用な事出来るんだな!!」

 私は笑みを浮かべた。

「これでどうしろってんだよ。おい、教えろ!!」

「この貴重な魔法を失ってたまるか!!」

 アリーナは私を抱きかかえた。

「頼むから教えてよ。こんなの家にみられたら、シャレにならないから」

「しょうがねぇな。一カ所違うだけだ。簡単に戻せるしな!!」

 私は笑った。

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