第17話 タダの王女の相棒
やはりというか、魔法使いとしてなにがしたいのかどうにもはっきりしなかったアリーナだったが、魔法工学に強い興味をもったらしく、そっちに舵取りをしたらしい。
私は相変わらず、回復魔法や防御魔法の研究に勤しんでいた。
回復魔法はそのままだが、防御魔法は最も難解とされる結界魔法に通じていた。
まあ、両方とも難しく優れた使い手は貴重な存在なので、回復魔法に秀でた者は「回復士」、防御魔法……結界魔法に秀でたものは「結界士」という称号があるほどだった。
「よう、また徹夜しやがったな。楽しいのは分かるけどさ!!」
朝になって、いつも通りアリーナがやってきた。
「そっちも徹夜だろ。猫の鼻には、その油臭さがキツいんだよ!!」
私が負けずに返すと、アリーナは迷わず私を抱いた。
「当然、風呂じゃ。お前を洗えば、油臭さが消えるぜ!!」
「ど、どんな理屈だよ!!」
……結局、風呂で丹念に洗われた私だった。
「まあ、邪道っていわれてるけどさ、私らしいでしょ。正道は走らない!!」
湯船に浸かりながら、アリーナがいった。
「魔法に外道はあっても、正道も邪道もないでしょ。やりたいようにやればいいってこと。魔法使いとしては正解でしょ」
私は笑った。
「ちなみに、今は無駄に合体変形ロボ作ってるから!!」
「……なんか、凄そうね」
私は苦笑した。
「派手好きなアリーナっぽいね。私は相変わらず、地味に机で格闘してるぞ。目立たないのが一番!!」
アリーナが笑った。
「よくいうぜ、新魔法開発しまくって、論文書きまくって、ついには回復士と結界師の称号を同時に貰っちまうなんて快挙までやっちまってよ。この学校で、サーシャの名前を知らないヤツはいないぜ。生意気にも程があるぞ」
「知らねぇよ。やりたい事やりまくったら、いつの間にかそうなっちまったんだよ。これは、痛恨のミスだぜ。マジで」
アリーナは笑みを浮かべた。
「やっぱり、ただの猫じゃなかったぜ。名だたる先達が、お前の論文読んでビビっちまったってのは有名な話だぜ、お前の魔法をパクろうと思って必死だけどできねぇとか!!」
「おうよ、ぜひパクって広めて欲しいもんだぜ。んな難しい事はやってないんだ。今すぐお前に教えろっていわれても、簡単にできるくらいだぜ!!」
アリーナがふと真顔になった。
「じゃあ、教えて」
「おいおい、マジになるなって。ざらっと説明すりゃこんなもんだ……」
私は説明した。
「……そ、そんな簡単な事なの?」
「うん、こんなの新しい魔法でもなんでもねぇ。既存の魔法を弄っただけだ。それで、この威力の差だぜ。魔法って面白い!!」
アリーナが笑みを浮かべた。
「これで助かったぜ。王宮魔法使いの暇人どもが、私の様子を見にくるとか抜かしやがってさ。なんか見せとかねぇとヤバかったんだ」
「へぇ……。だったらよ、もっと気合い入ったの見せてビビらせてやれよ。いくらでもストックはあるぜ!!」
「い、いいって、あんまハイレベルなのやっちまうと、次が大変だからさ!!」
「ハイレベルなんかじゃねぇって。ほら、風呂出るぞ!!」
「馬鹿野郎、超絶ハイレベルじゃねぇかよ!!」
「こんなの全然だぞ。これで根を上げてたら、私のオリジナルは使えないぜ!!」
寮の部屋で私はアリーナに魔法を教え込んでいた。
「これでダメって、お前どんだけ派手な回復魔法作っちまったんだよ!?」
「派手な回復魔法って……」
アリーナは私に中指をおっ立てた。
「……負けない」
「……下品だからやめなさい」
七転八倒した挙げ句、アリーナは結局私のオリジナルまでは及ばなかった。
「な、なんだよ、呪文構成レベルでわけが分からねぇよ。どうすりゃ、あんな魔法が出てくるんだよ!?」
「出ちまったもんはしょうがねぇ。ホント、そんな感じだぞ!!」
屋上で知的炭酸飲料を飲みながら、私はアリーナに笑った。
「……なんだよ、知的炭酸飲料って?」
「……チェックするなよ」
アリーナは笑みを浮かべた。
「その王宮魔法使いの暇人が、お前にも会いたいってさ。スカウトじゃないの?」
「興味ねぇよ。私はここでやってるのが好きなんだ。他に行く気はねぇよ!!」
アリーナが笑った。
「魔法使いの最高峰の王宮魔法使いを蹴るってよ!!」
「んなもん興味ねぇ。私の居場所はここだぜ!!」
アリーナが笑みを浮かべた。
「そういうだろうと思って、お前らなんてお呼びじゃねぇ。出直してこいっていってたって事にしてある」
「馬鹿野郎、なんだその偉そうな態度。もっと丁重に断れ!!」
アリーナが笑った。
「偉そうじゃなくて偉いんだよ。向こうからくるんだぜ、なりたくてもなかなかなれない王宮魔法使いのお偉いさんが、わざわざね。こっちの方が偉いんだよ!!」
「うお、また目立っちまった!?」
アリーナが私を抱きかかえた。
「どうっても目立っちゃうの。それだけの事やってるんだもん。それでも、友人はいない。私もだけど!!」
「……なんでだろうね?」
アリーナが笑みを浮かべた。
「なんでだろうねぇ……」
「……お前、なんかやってるだろ?」
アリーナは答えなかった。
「なに?」
「うん、この前話してた空飛ぶ機械が大体完成したから見せようと思って」
アリーナに抱えられていった場所は、この前と同じ場所だった。
そこには、私の目からは異形の怪物としかいえない、巨大なものが置かれていた。
「機体名を教えてやろう。エンジン開発に貢献した天才猫の名前を取って、サーシャだ。初飛行に成功しても失敗して墜落しても、有名になっちまうぜ!!」
「馬鹿野郎、何しやがる!?」
アリーナは笑みを浮かべた。
「そのパイロットは、くじ引きで決めて私が引いちゃったぜ。墜ちたら痛いぜ!!」
「な、なにしてんの!?」
アリーナは私を強く抱きしめた。
「無論、これも搭載していくぜ。死なば諸共じゃ!!」
「馬鹿野郎!!」
アリーナは笑みを浮かべた。
「サーシャの名を持つ機体に、本物のサーシャまでいるんだぜ。墜落なんかできねぇよ!!」
「お守りかよ!!」
アリーナは笑った。
「来週の終末に初飛行予定だ。計算上は問題ねぇ!!」
「その計算、誰がやった!?」
アリーナが答えなかったので、私は慌てて置かれていた机の紙を見た。
「馬鹿野郎、全然間違えてるぞ。再計算するから、あのデカいの直せ!!」
周りにいた学生が慌てて動き始めた。
「……もし飛んでたら、命はなかったな。これでこそ、相棒だ」
アリーナが、小さく笑みを浮かべた。
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