猫の魔学生
NEO
第1話 猫と人
ファルス王国の片田舎、カタリーナと呼ばれる地域に、世界最高峰ともいわれる巨大な魔法学校があった。
なぜ田舎にあるかといえば、単純に土地が広く取れるだけだからだ。
魔法というのは、とかく場所を必要とするものなのだ。
「……さすがに、この辺になると手応えがあるな」
私は教室で教本相手に唸っていた。
「よう、猫野郎。相変わらず、頑張るねぇ!!」
親友といってもいい、アリーナが声を掛けてきた。
「猫野郎はやめろって!!」
「猫を猫野郎といってなにが悪い!!」
まあ、アリーナとの会話はいつもこんな感じだった。
この学校は当たり前のようではあるが、人間のためのものだ。
そういう種なのだが、私は喋る事も出来れば基本的に二本足で立っている。
人間の言葉も理解出来るし、なにか妙な力を使えるようにしてくれる変な場所があると聞いて、この学校の入試を受けてみたら、なにかそんな感じだったようで、そこそこの成績で合格してしまったのだ。
猫の魔学生など前代未聞ということで、私は色々な目で見られる事になったが、このアリーナは普通に接してくれる、数少ない相手だった。
「もう猫野郎でいいけどさ、ここ教えてよ。なんかもう、わけ分からなくて無駄に猫パンチしちゃったよ!!」
「……誰に?」
アリーナは笑った。
「お前の方が断トツで成績いいだろ。なんで私に聞くんだよ!!」
「他に聞くヤツがいないんだよ。ダメ元だ!!」
アリーナが教本をみた。
「あのね、これまだ先でしょうが。予習にしては、気合いが入りすぎだろ!!」
「やっといて損はない。ってか、やっぱ聞いた相手を間違えた!!」
アリーナが私を抱きかかえて、教本を閉じた。
「んなことばっかりやってたら、頭がバカになるぞ。加減ってもんを知らんのか」
「お前がやらないだけだ。猫だからって抱くな!!」
しかし、アリーナは私を抱いたまま教室を出た。
「この野郎、いい加減下ろせ!!」
「猫を抱いてなにが悪い。猫らしくしてろ!!」
アリーナは私を抱いたまま廊下を歩き、階段を上って屋上に出た。
なにしろ巨大な校舎なので、屋上もまた広大だった。
「なに、ここにきたって事は魔法の練習?」
私は笑みを浮かべた。
「他に何があるのよ。もう、三ヶ月だよ。『明かり』くらい作れないと、さすがに焦るぞ!!」
アリーナは私を屋上に下ろした。
「そんなに難しい魔法じゃないんだけどな。なにが分からないの?」
私が聞くとアリーナは困り顔になった。
「感覚的にどうもしっくりこないっていうかねぇ。これじゃ、魔法にならないでしょ?」
「そうだね。魔法は体の一部だからね。違和感があるようじゃ、まともに使えないか。一回試しにやってみて」
アリーナが頷き呪文を唱えた。
「ほらね、全然発動しないでしょ。これだからこうだって感じの話じゃないから、困ったもんでさ」
私はちょっと考えた。
「無闇に練習しても意味ないからね。違和感の原因は、大体精霊の力を上手く掴んでいないからなんだよね。呪文ばっかり必死になってるみたいだけど、詠唱すればいいってもんじゃないよ。いっそ、呪文なんかどーでもいいみたいな感じで呟けばいいよ。それで、役目は果たすから。やってみれば、多分分かるよ」
私は笑みを浮かべた。
「どーでもいいときたか。まあ、もう覚えちゃってるしね。適当に呟いてみるか……」
アリーナは呪文を呟いた。
その頭上に明かりの光球が出現した。
「……でけた」
「ほらね、意識する場所を間違えてるだけだよ」
私は笑った。
ちなみに、この学校はあまりに田舎過ぎて近くに街はおろか村の一つもない。
そういう環境の方が、魔法を扱うにはなにかと好都合なのだが、中にいる人にとっては不便という二文字でしかない。
もちろん、千人を遙かに超える魔学生を収容できるような場所もないので、必然的にこの学校は全寮制だった。
「いやいや、今日はいいことあったぞ!!」
「だから、抱きかかえなくていいって!!」
とにかく広さはあるので、寮もまたとんでもなく広かった。
校舎から直接いけるようになっていて、入り口で男女別に分かれる事になる。
各魔学生にはそこそこの広さがある個室が割り当てられているのだが、当然人間サイズなので私にとっては広大な牧場みたいな感覚だった。
「なんだよ、お礼に連れてきただけじゃん!!」
「嘘つけ、私を抱きかかえるのが好きな猫好きの変態野郎だろうが!!」
アリーナは笑みを浮かべ、ポケットからなにか取りだした。
「そ、それは……」
「うん、猫を黙らせるにはこれだよね。ちゅ~る様々だぜ!!」
アリーナは袋の口を切って、私の口の前に差し出した。
「……くっ、卑怯な!!」
「ほれほれ、食えよ。食ったら負けだからな!!」
アリーナは袋を少し押して、中身ををちょっとだけ出した。
「……くっ、ここは気合いだ!!」
「どーかな、ほれ!!」
……結局、負けた。
「……ちゅ~るは反則だよ。あれに勝てる猫、みた事ないぞ」
「はい、負けたら抱かれてろ。ここペット禁止だからさ、堂々と猫が抱けるチャンスなんてこれしかないもん!!」
私を抱いたまま、アリーナは巨大な寮に併設されている食堂に行った。
「サーシャが入ってからだよ。食堂のメニューに猫缶ができたの!!」
「当たり前だ、誰が食うんだよ!!」
ああ、忘れてた。私の名前はサーシャ。ロシアンブルーに似ているらしいけど、よく分からないので気にしたことはない。
「もう一つ変わったぞ。そこら中においてあった、観賞用のマタタビの木が全部撤去されたよね!!」
「……不覚にも、うっかりやっちゃうからね。だって、猫だもん」
私はため息を吐いた。
「……微妙にそういう迷惑掛けてるんだよねぇ。他にも色々ありすぎて覚えきれん」
「いいじゃん、特別待遇だぞ。実際、入ってすぐの特待生試験、余裕でパスしてるんだもん。学校だって文句はいえん!!」
アリーナが笑った。
「余裕でもなかったぞ、死ぬかと思ったぜ……」
「でも合格は合格じゃ。特待生って事は、あれだな。授業料免除だぜ。ここは高いからねぇ!!」
アリーナが笑みを浮かべた。
「……特待生になるしかなかったんだよ。こんな高いって知らなかったからさ。田舎の学校だと思ってナメてたよ。さすが、世界最高峰とかうっかりいわれちゃう学校だよ」
「うっかりじゃねぇよ、マジなんだって。私なんかよく合格できたぞ。魔力だけは高いからか?」
アリーナが笑った。
「……知ってるぞ、実技試験でエラい事やらかしたの。で、気に入られちゃったんでしょ。私は実技で校庭の半分をクレーターに替えちゃったし、この二人はヤバいかもしれないよ?」
「ヤバいだろうね。うっかり組んでなんかやったら。しかも、サーシャがまともに喋る相手って私だけだぞ。この学校、物理的に終わっちゃうかもね!!」
アリーナが笑い、私は笑みを浮かべた。
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