遭遇
フェアリーが長い物思いから、ふと顔を上げた瞬間、白い街道に何者かが佇んでいた。
時間はちょうど、夕暮れ時、魔物が出るには絶好の時間だ。
だが、少し前に昼食を取ったばかりの気がしたが、夕暮れになるのが早い気もするが。
近くづくにつれ、それは黒馬に跨がった男のシルエットであることが分かってきた。
その男は黒光りする甲冑をつけ、ダークブルーのマントに身を包んでいた。
『フランだ。奴がマジャール・フランだ』
カノンが静かに言った。
『カノン、何か結界の様子がおかしいわ』
サニアが異変に気づいたようだ。
『トワイライトゾーン、すでに奴の術中にはまっているみたいだ』
カノンが渋い顔でフェアリーを振り返る。
『この世界がモノクロになれば完全に時間が停止する』
『なるほど、時間魔法ね。流石にこれだけ凄いと時間は少しはかかるみたいね』
フェアリーは、直感的に術の正体に気づいた。
『仕方ないわ。先手必勝、仕掛けてみるわ』
不敵な笑みを浮かべるやいなや、フェアリーの姿は風のようにかき消えた。
次の瞬間、黒い馬にまたがってる男に、切りかかっていた。
『あの、バカ! いきなり仕掛けるなんて、正気なの!』
サニアは半ば悲鳴のような声を上げた。
『まあ、何もしないと不利になるばかりだし、仕方ないわな』
カノンはまるで他人ごとのように、のんきに答えた。
フェアリーの最速の<レイピス>の斬撃が男に届いたかと見えた瞬間、男はふわりと馬上から跳躍した。
フェアリーの姿はまた、かき消すように加速して、男の着地際を狙って、左手の剛剣を繰り出していた。
銀色の疾風が男をふたつに切り裂いたかと思われた。
だが、突然、フェアリーの剛剣は男の直前で凍りついたように動かなくなった。
世界がモノクロ色に変わっていた。
『遅かったか……。サニア! 頼む!』
カノンの声を聞く前に、サニアはすでに跳んでいた。
フェアリーの身体を背後から抱えて、光速の動きで大地を蹴って後ろ側に大きく逃れた。
が、サニアとフェアリーの身体に漆黒の蛇のようなものが迫ってきた。
フェアリーは最初、鞭かと思ったが、金属が擦りあうような音が耳元を掠め、すんでの所でかわすことができた。
『蛇神剣だ! 変則的な動きに気をつけろ!』
カノンが叫んだ。
マジャール・フランの手元に戻った鋼の鞭は、鱗に覆われた蛇のような剣になっていた。
『カノン、これ、幻術なんじゃない?なんで、このバカだけが時間停止するの?』
サニアはさらに後ろに跳びながら、カノンの横まで後退した。
フェアリーの時間停止も解けた。
『そこが謎なんだよ。それが分かれば回避できるんだが』
『では、私がもう一度』
フェアリーは何のためらいも、反省もなく突撃した。
ただ、今回はルナの
再び、フェアリーの視界がモノクロ色に変わる。
だが、今回は【アルカナ・ストライク】が時間停止を相殺した。
フェアリーの<レイピス>が、マジャール・フランの左胸を貫いたかに見えた。
が、
左側から黒蛇の鞭がフェアリーを襲った。
左の剛剣を楯のように使って受ける。
正面から炎につつまれた蹴り足がフェアリーの顔面に叩き込まれてくる。
引き戻した<レイピス>で蹴り足を跳ね上げながら、フェアリーは後ろに跳んだ。
『火炎脚、体術と魔導を組み合わせてくるので注意が必要だよ。フェアリー』
元同僚のカノンはマジャール・フランの技を知り尽くしてるようだった。
『なんか、おちょくられている気がするのは私だけだろうか?』
サニアは疑念を呈した。
『いや、そうかもしれない』
カノンも同意する。
『まさか、あれは傀儡とか、分身とかなの?』
フェアリーもさすがに不審になってきた。
『時間稼ぎが目的ならそれも有り得るな。フェアリーを前衛として、俺が連続攻撃を仕掛ける。サニアは後衛から魔導攻撃を頼む』
『了解』
フェアリーはいうが早いか、三度目の突撃を敢行した。
最初から【アルカナ・ストライク】を使い時間加速し、マジャール・フランの時間魔法を相殺し、さらに【シルバー・アクセル】で時間を再加速して懐に飛び込んだ。
彼女がこのパーティーに呼ばれた理由はこの能力にあった。
マジャール・フランの時間魔法に唯一、対抗できる技の使い手であるはずだった……。
たが、無情にも、マジャールの技はフェアリーの予想を超えていた。
再び、フェアリーの視界がモノクロ色に変貌する。
彼女の身体が凍りつき、そこへ蛇神剣が迫る。
サニアがフォローに入るが、彼女の身体もフェアリーの身体をつかむ寸前で石のように動かなくなる。
フェアリーの身体を蛇神剣が両断するかに見えた時、彼女の眼前に鋼鉄の巨人が召喚された。
金属音が響き、蛇神剣が弾かれる。
さらに、巨人の拳がマジャールの鎧を直撃した。
彼の身体は真後ろに数十タルトほどふっ飛ばされていた。
「解呪、火炎陣!」
フェアリーの時間停止を一瞬で解き、さらにマジャールの身体の周りに炎の障壁を生み出した。そのままマジャールの身体を焼き尽くした。
サニアはカノンの隣から一歩も動かず、時間停止されたのは彼女の分身の
だが、マジャールの姿が空間から沁みだすように現れて、初めて口を開いた。
「カノン、なかなか面白い仲間を見つけたな。そいつらを連れてルナの街に来い。百年に一度の蛇神祭が見れるぞ」
マジャール・フランは不敵に笑った。
次の瞬間、彼の身体は空間に溶け込むように消え去った。
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