三人の追跡者
カノンの話に興味をひかれたのか、翌朝、フェアリーはサニアと共に馬上の人となっていた。
眼前には、南国の青い空の下、白亜の街道が続いている。
フェアリーの白馬とカノンの黒い馬が並んで走ってる後を、サニアの赤いたてがみの馬がついてきていた。
「マジャール・フラン……フラン家といえば、永年、魔導騎士を輩出しているムーア王国の貴族の名門じゃない?」
フェアリー・フェリスは銀色の瞳を細めながら、カノンを振り返った。
「……そう。だからこそ、今回の任務は魔導騎士団でも極秘扱いで、俺なんかに、お鉢が回ってきたという訳さ。表立ってはフランは休暇扱いで里帰り中ということになってる」
南国生まれで、いつも陽気なカノンの顔に珍しく困惑の表情が浮かんでいる。
「ところが、実際は彼はあんたの故郷でもある、ムーア王国西端の魔法都市ルナに向かっているらしい」
「何故、ルナに?」
「ルナには、彼の妹であるリナ・フランがいるからさ」
「……リナ・フラン。ちょっと待ってよ!彼女は私の隊の所属で、今度、
フェアリーの瞳は、驚きで大きく見開かれ、彼女には珍しく動揺していた。
「そう。魔導騎士団の諜報部はそこまで計算に入れて、あんたを指名した。その辺は抜かりがない」
カノンの話で、フェアリーはようやく事情が飲み込めてきた。
つまり、この任務はルナの戦巫女であり、ムーア王国の聖騎士でもある彼女にとっても重大な問題であった。
「……だけど、マジャール・フランの目的は、一体、何なの?まさかシスコンという訳ではないでしょう?」
「そういう傾向もないことはないが、今回はそういうことではない。たぶん、ルナの戦巫女の<12アルカナの秘伝>とフラン家の秘密に謎を解く鍵があるというのが諜報部の見解らしい」
カノンは単刀直入に核心を話した。まあ、直情怪行な彼らしい率直さだったのだが。
「確かに、戦巫女の洗礼は<12アルカナの秘伝>のいずれかを伝授する儀式の最終段階で、戦巫女の修行の総仕上げとも言えるものだけど、その内容については文字通り【秘伝】なので、私にもわからないのよ。彼女のマスターから、ほぼ、一子相伝のような形で伝授されるものだし……」
フェアリーも率直さにおいてはカノン同様であったが、戦巫女の<12アルカナの秘伝>は、最高機密に属する知識で、戦巫女の部隊長を務めているフェアリーでさえ、謎の部分が多いものだったのだ。
「フラン家の謎についても、魔導騎士団の諜報部でも見解が分かれている。とはいえ、マジャール・フランが【時を止める男】と呼ばれていることに関係しているのは間違いないが」
「リナ・フランの戦巫女の洗礼まであと一週間……」
フェアリーは思考を巡らせた。
ムーア王国の東端に位置する王都ソロンからルナまで、馬を飛ばせば何とか1週間で着ける。
マジャール・フランも同じことを考えているだろう。
当然、魔導騎士団の追っ手の追跡も考慮に入れているとしたら、どこかで待ち伏せして、一度、迎撃を試みるだろう。
リナ・フランとの合流には、避けては通れない試練である。
だとすると、やはり、王都ソロンとルナの中間地点である、商業都市パルス辺りが最適の場所かもしれない。
フェアリーが、マジャール・フランの立場だったらそうするだろう。
フェアリーたち一行は三日間、馬を飛ばして、商都パルスに辿り着いた。
商都パルス。
ムーア王国のちょうど中央に位置し、王都ソロンと魔法都市ルナを結ぶムーア街道の交通の要衝でもある。
それに加え、南部の穀倉地帯からの食料が集められ、ここから各都市に送られる食料基地でもあり、多くの市が立ち、商業が最も盛んな都市であった。
中原の文明国、レムリア聖国の天才軍師ルイ・パルスの故郷だとも言われている。
当時、中原の北部には新興国アストラン帝国、中央部に大国レムリア聖国、南部に古代王国ルーハンの流れを汲む、ムーア王国が位置していた。
中原最大の文明国であるレムリア聖国は、聖女王ラムファスの統治によって、経済的な繁栄を極めていたが、軍事の多くはムーア王国の人材によって支えられていた。
ムーア王国は古代帝国ルーハンから伝わる、神秘的な魔法と剣に優れ、軍事大国としても知られていた。
ムーアの王都ソロンの魔導騎士団は中原最強と言われ、魔法都市のルナの戦巫女は不敗の伝説を誇っていた。
商業と共に学問が盛んな都市であるパルスは、中原の各国に軍師や政治顧問なども輩出していた。
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