閑話
「…大金武王子に、子育ての仕方をご教示いただきたいものですね」
憤然として場を辞した尚豊を見送って、尚宏は兄に笑った。
兄は笑う。
「そうだねぇ…うん、教わると良いよ」
もしかしたら、来年かその次には2人共命を落としている可能性もある。尚宏には5歳になったばかりの嫡男がいる事を考えると、そろそろ教育を始めても良いのかもしれない。
「しかし、少し反省したよ。私は王位に就いた時、あんな感覚はなかった」
間切の
尚豊以上に、国政から遠いとも思っていた。
2人の父、
「私達は故なく廃嫡された一族であるせいで、あまり出過ぎることの無いように、と思っていたからね。…これも、言い訳に聞こえるのだろうけれど」
「なんの憂いもない血統なのだから、その点は王世子のようにはいきませんよ。下手に母が王族であったり、大叔母が聞得大君だったりしたのが問題だったのかもしれませんが」
「と言うか、案外気にし過ぎていただけかもしれないけどね」
曽祖父である
尚宣威王は尚真王の先代の王であり、叔父に当たる。彼が王位を退いたのは、第二尚氏王統の初代王
いずれにせよ、興ったばかりの王統におけるよくある政争に負けただけに過ぎない。
廃嫡されたとて、殺されたわけでもない。ただ、小禄間切を受領し、浦添王子の名を受け取り、確かに王族として名を連ね続けたのだ。
「案外、間切に引っ込んでいるほうが幸せだったのでしょうね」
「…考えても仕方ないことをと、息子殿に怒られそうだけどね。そもそも小緑は首里の隣だ。あんまり意味ない気がしてきたよ」
先程の剣幕を思い出して、尚寧は笑った。
「近く開かれる朝議は荒れるでしょうね」
「…きっと、息子殿が捌いてくれるよ」
多分、きっと。
彼は、覚悟を知っている。
王族がどうあるべきか、その理想を知っている。
「優しい子が怒ると怖いなぁ」
くすくすと、尚寧は笑った。
その様子を見て、尚宏は肩の力を抜く。
兄が、笑うのを。憂いなく、笑うのを、何時振りに見たのだろう。
少し泣きたくなった。
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