虚言癖くんの本当の気持ち

けしごム

昨日はね、

昨日はね、




「昨日はね、アメリカに行って大統領を生で見てきたんだ」


私のクラス、桜水高校2年2組には絶対的な嫌われ者がいる。

学年全体、いや、それだけでなく先生からも疎まれているような存在だ。


「それでね、僕に話しかけてくれたんだ!

なんて言ってくれたと思う?」


でも、そんな彼を嫌ってない人だっている。


「うーん、hello,a Japanese boy!とか?」


嫌いなんかじゃなくてむしろ、好きなくらいだ。

毎日、彼の話を楽しみにしているのだから。


「あはは、惜しいねえ。総理大臣によろしくね!だってさ。」


それは、言うまでもなくこの私である。


静かな放課後の図書室に、笑い声が響き渡る。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



私、松浦まつうら まことと同じ図書委員の、昨日はアメリカに行って来たらしい男の子、その名は石川いしかわ 正直まさなおくん。

ちなみに昨日は水曜日で16:05まで授業はあったしそれに石川くんもいた。

今日だって、8:25登校で遅刻せずに石川くんは学校に来ていた。

つまりは、石川くんが言っていたことは全くの嘘。

多分、テレビかなんかでアメリカの大統領を見ただけ。

それに自分で妄想して話を付け加えただけ。

簡単に言えば、石川くんには虚言癖がある。

あることないことをぺらぺらぺらと延々と話すのだ。

それゆえ、いろんな人に煙たがられている。

でも、虚言癖があることを除けば他は至って普通。

これといった特徴はない。

性格はおとなしめで温厚、おまけに優しくて親切。

顔も勉強も運動もすべて普通。

身長170センチくらい。

声は低め。

帰宅部。

詩が好き。(特に谷川さんが好きらしい)

私が知っている石川くんについての情報なんてこれくらい。

だって、何かを聞いても嘘しか言わないし。

最寄り駅どこ?と聞けば、月にある【かぐや駅】、と言われた。



石川くんの名誉のためにも言っておくけれど、石川くんには悪気は全くない。

息を吸うように、なんてことないように、にこにこしながらスラスラと嘘を紡ぐ。

その嘘は完全に無害。

人を惑わすような嘘は言わない。

例えば、実は明日テストなんだよ、とか。

まあ、嘘がぶっ飛んでるからかもしれないけど。


石川くんの嘘をつく様子があまりにも自然すぎてときどき、本当のことを言っているんじゃないかと思うことさえある。

・・・絶対嘘なんだけどさ。


石川くんは、自分から誰かに話しかけたりはしない。

あくまでも、誰かから話しかけられたときに嘘を言ってしまうのだ。

例えば、

「石川くん、眠そうだね」と話しかけると

「うん、もう1週間も寝てないから」

とにこにこしながら言われる。


だから、話しかけなければ石川くんの嘘にウンザリすることも振り回されることもない。

そういうわけで誰も石川くんには話しかけない。

私を除いては。


私が石川くんを、他の人のように疎まないのはただ単に石川くんの作り話が面白いからだ。

よくもまあ、そんなことを次々と思いつけるなあと半ば感心しながらいつも石川くんの話に耳を傾ける。

いつも私は石川くんの話に何もつっこまずただ相づちをうちながら聞いている。

石川くんは、話し相手がいることが嬉しいのかどんどん喋ってくれる。

ちなみに、途中で話が矛盾すると石川くんはすぐにそれに気づいて口を閉ざす。

それから全く別の話を始めるのだ。

彼はわかっている。

自分が嘘をついているということを、わかっている。

無意識なんかではない。

妄想と現実の区別がつかないわけでもない。

おそらく。


そして、私と石川くんが話すのは決まって放課後の図書室だ。

ふたりとも、図書委員だから。

図書委員はクラスにふたりしかいない。

学年で10人、学校全体で30人といったところだろうか。

図書委員の仕事は放課後の図書室で本の貸し借りをしたり本の整理をしたりすることで、当番制なんだけれどいつからか、他の図書委員たちがサボりまくった結果、なんだか私たちが常にいるような形になってしまった。

私も石川くんと同様、部活には入っていないし帰ってもこれと言ってやるべきことがないので迷惑はしてない。

いや、むしろ嬉しい。

石川くんと毎日話せるから。

クラスが同じなのだから教室でも話せばいいかもしれないけれど、石川くんと話しているとまわりがじとっとした嫌な視線を送ってくるから話せない。

みんな、石川くんの作り話にウンザリしているんだと思う。

なんでだろうな、石川くんが作ったお話だと思えば面白いのに。

さっきも言ったけれど、石川くんも石川くんで教室で私に話しかけてくることはない。

でも、1ヶ月前くらいからは、図書室で石川くんの方から話しかけてくれることも多くなった。嬉しいことに。

このことから、おそらく石川くんは彼なりにクラスでの自分の立ち位置をわかっていると思われる。



ちなみに、最近の石川くんのブームは【昨日はね、○○(国名)に言ったんだけどね、うんたらかんたら・・・】である。

ずばり、世界一周シリーズとでも言おうか。

石川くんは、今日も世界を旅している。ただし、頭の中で。

ちなみに一昨日は、フランスに行ってエッフェル塔を見てきたらしい。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「それで次はね、野球を見に行ったんだ。

そしたら」


とそこで、今まで私と石川くん以外いなかった図書室に生徒が入ってきたので石川くんが口を閉ざす。

図書室は静かにしなきゃいけないからね。

そこらへんはわきまえているらしい。

というか、石川くんは普通に常識人だ。

教室に落ちていたゴミを拾ってゴミ箱に捨てていたのも見たことあるし、先生が重そうに大量のプリントを運んでいれば「持ちましょうか?僕、マッハ200で歩けるので」とか言っていたし、授業中に先生に当てられたときは嘘を言わずに普通に答えているし、電車の中で妊婦さんに席を譲っているのを見たこともある。

実は石川くんは、そこらへんの高校生よりよっぽど優しくて親切なんだ。



今、図書室に入ってきた生徒は私たちのクラスの男子だった。

うげえ、コイツ石川くんのこと本人の目の前で悪く言うんだよなあ。

横目で石川くんを見ると、少し目を伏せているようにも見える。

なんにも起こりませんように、と祈るもそれは無駄だったらしく、案の定、私たちが座っている貸し出しカウンターまで何も本を持っていないのにやってきて、にやにやしながら話しかけてきた。


「石川ァ、いい加減にしろよなァ、松浦さん、困ってんのわかるよな。

お前みたいな嘘しか言わないやつとふたりっきりで図書室に一時間もいなきゃいけない松浦さんのこと考えろよなァ。」


石川くんは何も言わずに黙っている。

正直、こんなにも直接的なことが起こったのは初めてだ。

コイツはいつもは石川くんの近くで悪口を言っているだけだけど、直接言ったことは多分ない。


それに、ここで反論できない私は弱い。弱すぎる。

反論できないのは、もちろん、コイツの言うことに同意してるからじゃない。

全く違う。

怖いからだ。

コイツがクラスで、私が石川くんの嘘を楽しんでいると言いふらしたらと思うとなにも言えない。

いじめの傍観者と同じだ。わたしは。

いつだって、石川くんを庇うことができないのだ。

石川くんが気にしてなさそうにしているのを言い訳にして逃げている。わたしは逃げている。


嘘を言うからなんだ、それがなんなんだ。

別に、害がある嘘じゃない。

誰かをおとしめる嘘じゃない。

誰かの悪口でもない。

悪口より、わけのわからない嘘の方がよっぽどいいじゃない。


「そうだね。」


私がコイツに反論しようと葛藤していたら、ぽつりと石川くんが呟いた。


「そうだ、わかったならやめろ。わけのわからないこと言うな。迷惑だかんな」


石川くんをキッと睨んでカッコつけた歩き方でドシドシとうるさく足を踏み鳴らして図書室のドアをピシャリとソイツは閉めて出ていった。

どうやら、石川くんに文句をつけにきただけみたいだ。

確か、昨日、彼女に振られたとかデカイ声でソイツは言ってたからストレス発散みたいなところもあって、石川くんに八つ当たりしただけだ。

石川くんに八つ当たりしにきただけだ。

ふざけんなバカ。

異様にムカついたから、なにも反論できなかったお詫びのようなものも込めて石川くんに言ってみた。


「アイツさ、昨日、彼女に振られたんだって。

だから石川くんに八つ当たりしにきたんだね。

最低だね。

石川くんがアメリカ行ってる間にアイツ、彼女に振られてたんだよ。

笑っちゃうよね。

こっちはアメリカ行ってたっつーの。

ね、だから気にしなくて大丈夫だよ」


石川くんを傷つけないように言葉を選んだつもりだったけれど、どうだっただろう。

私がアイツを嘲るようにふん、と鼻で笑ったら石川くんがいつもとは打って変わった元気のない声でこう言った。


「いいよ、松浦さん。

ありがとう。

それから、ごめんね」


普段とは全然違う石川くんは寂しそうな、憂いのこもったような目をしていた。


「なんで、」


――キーンコーンカーンコーン――


私がなんと声をかければいいか考えている間に下校時間のチャイムが鳴って、石川くんが席を立った。


「じゃあ、お疲れさま」


「・・・おつかれ、さま。」


石川くんが図書室の扉を閉める音が妙に大きく聞こえた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


翌日。


今日もふたりで図書室にいるけれど、石川くんは何も話しかけてこない。

ただ、ぼけっと座っている。


「い、石川くん!」


「ん?」

ゆっくりわたしの方に顔を向ける石川くんはいつもと同じようににこっとした。


「えっと、昨日は・・・、どこ行ったの?」


「え、昨日?

___特にどこも。」

気まずそうにあからさまに私から目をそらす。


「気にしなくていいのに」


「・・・え?」


「気にしなくていいのに。

私は嫌じゃない。

というか、楽しいよ。

石川くんと話すの。」


「・・・・・。

なんで?ウンザリでしょう?」


いぶかるように私を見る。

いったん言葉を発すると、私は止まらなくなった。


「そんなことないもん。

本当にそんなことないもん。

わ、わたしは!

昨日はね、サウジアラビアに行って、それから、えーと、石油王に会って、油田あげるよって言われたけど断ったの!

石川くんは何してたの?」


恥ずかしい、というよりどうにか石川くんを元気付けたいという思いが突っ走った。

というか、なんか楽しいんだけど。

ありもしないことを言うの、楽しいかも。

石川くんは目を丸くして、

「・・・え?」

私を見たまま固まった。

「だ、だから、石川くんは何してたの?」

いまだに目を見開いて硬直している石川くんに、ずいっと詰め寄った。

「僕は、昨日はね・・・、

ご、ごめん、なんか忘れちゃった」

おろおろして目を泳がせる石川くん。

突然のことについていけてないらしい。

普段、君がしていることをやってるだけなのに。

「じゃ、じゃあ、明日は教えてよね!

今日、何やったか!」

「・・・・・。」

まだ今の状況についてこれないらしい。


――キーンコーンカーンコーン――


おおっ、チャイム、ナイス!


「じゃ、じゃあね!

明日、楽しみにしてるんだから!

お疲れさま!」


走っちゃいけないけど図書室を猛ダッシュで駆けて廊下に出た。

うふふ、なんか楽しいかも。

というか、行動できた自分にすごく満足。

これで石川くんが、少しでも元気になれればいいな。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「昨日はね、」


今日は石川くんから話しかけてくれた。

窓から差し込む夕日が石川くんの顔を赤く照らす。

どことなく、緊張しているように見えるけど・・・。


「や、やっぱり、松浦さんから教えて」


嘘をついてしまうことに抵抗ができたのか、自分の嘘のレベルに自信がなくなったのか。

いや、嘘のレベルなんて競ってないけど。

でも、私もネタを用意しておいて良かった。


「私は、な、南極まで行ってペンギンと遊んでました!」


へへん、どうだ!

南極とはさすがの石川くんも思いつかないだろう!


「な、南極!?それはすごいな・・・」


びっくりしてから感心する石川くん。

嘘のレベルに感心しているのか真に受けて感心しているのか・・・、いや、嘘のレベルか。


「ほら、石川くんは?」


まだ慣れないことに若干、恥ずかしさがある私は石川くんを急かす。

石川くんが、すっと息を吐く。

みんなの前でスピーチする直前みたいに。

精神統一してるみたいに。

やっぱり、南極はハードルが高すぎて自分の嘘に自信がなくなった?

でも大丈夫だよ、石川くん!

私は平気!

という謎のエールを心の中で送る。


「昨日はね、




松浦さんを好きになったよ。」



・・・・・、

マツウラサンヲスキ、

まつうらさんヲスキ、

松浦さんをすき、

松浦さんを好き・・・・・・。


って、いや、落ちつけわたし。

これは、嘘なんだから!

嘘だ、嘘なんだから!

自分に言い聞かせながらも心臓がどんどん加速して、同時にむなしくなる。

・・・ウソナンダカラ。


「へ、そ、そっか~、

切り口が斬新だね、、

そう来るとは思わなかったよ、ははは・・・」


誤魔化せてないぞわたし!!

というか、いつのまに世界を旅するシリーズ終わったの!?

え、これからは誰々を好きになったよシリーズ!?

なにそれやだ!むり!

嘘でも石川くんが他の女の子のこと好きって言うとかむり、耐えられない!


「信じてもらえないかもしれないけど、これは嘘じゃない。

嘘じゃないよ。本当だ。

好きに、なったよ。

初めて誰かに恋した。

うーん、でも、昨日っていうのは嘘かも。

自覚したのは昨日だけど、もっと前から好きだったかもしれない。

とにかく、松浦さんが好き、です・・・。」


いつものにこにこした笑顔じゃなくて、真剣でガチガチに緊張している石川くんを見て、今度は私が状況についていけない番だった。


今日ってエイプリルフールでしたっけ?

違いますね!

というか、エイプリルフールじゃなくても石川くんは年中エイプリルフールなんだった!

嘘をついていない石川くんにも戸惑っているし告白にも戸惑ってる。

大丈夫かな、夢なのかな。

私が何も言えずにいたら、石川くんが話し始めた。


「僕は、小学生の頃、まわりの人とかに一緒にいてもつまらないやつだって言われてて、友達だって全然いなくて、いつしか嘘をついて面白い話を作ってまわりを楽しませようとするようになった。

最初は、ほんの少しの嘘だったから良いけど、だんだんエスカレートしちゃってさ。

今は知っての通りだよ。

でもね、なんか、嘘をついてる方が楽になっちゃって。

自分じゃない誰かとして、またはこの世界とは違う世界に生きてるような感じがして楽しくなっちゃったんだ。

自分からの逃げっていうのもある。

だってさ、狭い家でただご飯作って親父とふたりで会話もなく食べてお風呂入って少し勉強して寝る、なんていうルーティーンよりさ、毎日違う国に行った方が楽しい。

まあね、みんな頑張って自分で努力して毎日を楽しんでるんだ。

僕はそれを嘘をつくことで放棄した。

空しい嘘のなかに逃げた。

僕は弱いだけだ。ただ単に。

でも、松浦さんと話すのはとても楽しい。

嘘なんか必要ないくらい楽しいけれど、嘘をつかなくちゃ僕には話題なんてない。

それに何も言わずに聞いてくれる松浦さんに甘えてどんどん話を作っちゃってさ。

ごめんね。

でも、僕と話すの楽しいって言ってくれて本当に嬉しかった。」


淡々と言葉を紡ぐ石川くんは、わたしの知らない石川くんだった。

普通の、普通の、男子高校生だった。


「石川くんは、嘘をついて過ごすの、つらい?」


自分で考えてもわからなかったから、そのまま疑問をぶつけてみた。

石川くんは、苦しんでいるのだろうか。


「どうなんだろうね。

自分でもよくわからないけれど、嘘をつくのは楽でもあって、ときどき、辛いかもしれない。

でもそれは、僕が嘘をつくのをやめればいいだけだからさ。

全部自分で作った状況なんだから。」


目線を落としてふっと笑う石川くんには、いつもの笑顔はどこにもなかった。

きっと、ありのままの石川くんを見ている人はいない。

普段のにこにこした石川くんだって石川くんではあるけれど、そんなのはほんの一部の石川くんだ。多分。

それなら、嘘をつくのが楽でもあり苦しいなら、

「わたしの前では、嘘をついてもつかなくても、そのときの気分でやりたいようにやってよ。

わたしは、そのままの石川くんも知りたい。

でも、石川くんの嘘も好き。

石川くんが、つまらないと思うようなことでもいっぱい、私には話してよ。

石川くんとなら、どんな陳腐な内容でも、どんなにありきたりな話でも、私は楽しいと思える自信があるよ。




だってね、

私も石川くんのこと好きだから。

石川くんのこと、優しくて真面目で親切で素敵な人だと思ってるよ。

ねえ、これはきっと、石川くんでしょ?

この前、駅で落とし物を届ける石川くんを見た。

係が消し忘れた黒板をひとりで消してる石川くんも。

教室のゴミ袋がこの前なくなったとき、係じゃないのに遠くの用務室まで取りに行ってたよね?

化学の実験の時だって、班員がほったらかした片付けもやってたよね。

ね、これはでしょう?

好きなんだよ、石川くんのことが。

嘘も含めて、全部好き。」


言い終えて、かあっと一気に頬が熱くなる。

でも、恥ずかしさよりも気持ちを伝えられたことへの達成感が勝っていた。


「松浦さん・・・、今の本当、なの?

ぼ、僕が本当なの、とか聞ける資格はないかもしれないけど」


遠慮がちにつけ加える石川くんに、笑みがこぼれる。


「本当だよ、本当。」


静寂の中、石川くんがごくりと唾を飲む音が聞こえる。


「松浦さん、

僕は頼りないし嘘ばっかりついちゃうし面白い話だってできないしクラスでだって嫌われ者だし迷惑たくさん掛けちゃうと思うけど、本気できみのことが好きです。

きみのことが好きだということは、自信を持って本当だと言えるんだ。


だから僕と、付き合ってくれませんか?」


曇りがない、まっすぐな瞳で見つめられて思わず目をそらす。


「こちらこそお願い、します」


ぺこりと頭を下げて答えた。


「ありがとう」


「うん。私こそありがとう。


・・・・・。


い、石川くん!今日は何するんですか!」


幸せだけどぎこちない空気に耐えかねて話題を変える。


「今日はね、松浦さんとどこかに行けたらなって思ってるんだけど。

どうかな?」


はにかみながら首をかしげる石川くんを見て、あわあわと慌てる。

で、デートのお誘いですか!?


「私は、特に用事とかないから、行きたいです・・・」


「それは良かった。

じゃあ、どこか行きたいところある?」


「えっ、・・・。

行きたいところ・・・?

ど、どうしよう。


な、南極!!」


「ぷはっ、そう来るか。

いいね、南極。

ちなみに僕は行ったことないんだ。

昨日行ってきたんでしょ?じゃあ案内してくれると嬉しいな。

僕もペンギンに会いたい。」


にこにこと楽しそうにいう石川くんが、とてつもなくいとおしい。

というか、楽しい!

意味のわからない会話が楽しい。

・・・いいかも、虚言癖カップル。

なんちゃって。


「じゃ、じゃあお任せください!」


――キーンコーンカーンコーン――


「おっ、ちょうどいいタイミングだね。」


「うん!はやく行こう!」


急いで身支度を整えて図書室を出る。

今日は、いえ、今日からは、石川くんとふたりで。


「船は何時に出港なの?」


「えっと、あと10分かな。」


「えっ、じゃあ急がないと。

ほら、はやく!」


本気で焦ったようにわたしを急かして駆け足で下駄箱に向かう石川くん。

うふふ、楽しい。楽しすぎる。


「うん、急がないとね!」


私もあとに続いて石川くんを追いかける。

初デートが南極だなんて、多分、世界で私たちだけだ!そうに決まっている!

むくむくと幸せが心のそこから沸き上がってきて石川くんに声をかける。


「石川くん、楽しいね!」


前を走る石川くんが立ち止まってわたしを振り返る。


「僕も!すごくたのしい!」



・・さて、どこに行くか早く考えねば__。



             (おしまい)




作者より

最後まで読んでくださりありがとうございました。

もし気に入って頂けたようでしたらこちらも読んでみてください。

ふたりのその後の話です。

https://kakuyomu.jp/works/1177354054887596022

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