第2話 エルザ・シャルーマン
「あの、一体いつになったら着くんですか?」
かれこれあのお屋敷を出てから30分。私達は、道無き道を歩き続けていた。
「まぁまぁ、ちょっと待ってや。もうすぐ着くでなー」
ていうか、さっきからなんでこんなに訛ってんの?なに?ヴァンパイアの国でも地域とか地方とか区別ついてんの?
無言で前を歩くヴァンパイアの背中を、私は軽く睨んだ。
それも、後で聞こうかな。
「お、よし!着いた!ここやで!」
着いた場所は、森の奥深くにある小さな協会だった。
ここで?何か、私が此処に来た理由とこの協会が関係あるのかな?
協会の中に入ると、目の前にはこの世で1番美しいと言っても過言では無い位の美しい女性の像が飾ってあった。
「うわぁ、綺麗な人…この人は、誰ですか?」
後ろへ振り向き、ヴァンパイアに聞いた。ヴァンパイアは待ってましたとばかりに自信満々で答えた。
「その女性は、かつてこの国の1番の美人、そして、女王だった、エルザ・シャルーマンだ」
「エルザ・シャルーマン、さん?」
本当に、美しい人だなぁ、女の私でも惚れちゃいそう…。
「おおっと、惚れるんじゃないぞ、一応そいつ、夫いるんやからな、っても、自身がもう20年前に死んじまったんやけどな…」
「え…」
結構、最近なんだ…。
秋生は何だか悲しくなった。こんな話、聞かない方が良かったかな…。
「いんや、そんなこたぁない。今からお前がどうしてここに来たのか話す際にも、この事実は話さなきゃならんからな」
あ、そうなんだ。少しほっとした反面、疑問に思うこともあった。
なんかさっきから、私の心読まれてない?
「よーし!じゃあ話すぞー!」
ヴァンパイアは私がそう思った瞬間に話を始めた。
やっぱり絶対、心読んでるでしょ!!
「今から1000年前、今俺達が住んでいるノワールの隣の町、ブランシュに、ある1人の女の子が生まれた」
その女の子が生まれた家は、決して裕福な家庭とは言えなかったが、女の子はエルザと名づけられ、親から精一杯の愛情を注がれて育った。
そんなエルザが12歳の頃だった。
夜中にたまたま起きてしまったエルザが、水を飲もうとリビングに行こうとしていた時だった。
「?、明るい」
今は真夜中の2時。パパもママも寝ているはずなのに、リビングからはパパとママの話し声が聞こえて来た。
何を話しているんだろう。そう思って覗いたのが浅はかだった。
「私だって嫌よ!!あの子を、エルザを、生贄にするなんて!!!」
目の前が、ガラスが割れるような感覚に陥った。
このノワールには、10年に1度、生贄を神様に捧げる儀式がある。
それは、今から5000年も前の出来事、ある1人の少女が、神様のお供え物の宝石を壊してしまい、怒り狂った神様は、その日から、10年に1度、幼い子供を生贄に捧げろと言った。
それを、次はエルザがやるというのだ。
「…い、嫌よ、そんなの、嫌!!」
小声でエルザはそう言うと、両親にバレない様、こっそりと身支度をして家を出た。目指すは、隣の町のノワールよ。
本当はこんなこと、しちゃいけないって分かってる。けど、私は生贄になんてならない。なってたまるもんか!
エルザは家を飛び出した。ブランシュから約10キロ離れたノワールを目指して。
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