185パーセント

武田 零

プロローグ

ああ、つまんない。

「おはよう!!」

ああ、本当につまんない。

「おはよう、秋生」

だれか、この生活をこのクソつまらない日常を…。

「うん、おはよう」

変えてください。


神様…どうか。



「がああ!!ごおおおおお!!」

朝っぱらから聞こえる超デカイいびき。それは遠くにいる奴にすら聞こえるほどの声量。そんないびきに反応した女は、そいつの寝室の扉を、勢い良く開けた。

「うるっさいわね!!もう何時だと思ってんの!?早く起きなさいよ!」

布団を剥ぎ取り、無理やりベッドから出させようという作戦なのか、

そいつには全く効かなかった。それどころか…。


「チッ、うるっせえんだよババア」


ピキッ


…フシューとたんこぶから湯気が出ている。

漫画だけの表現じゃなかったんだな、あれ。

結局、女にげんこつをされ、仕事場に連れていかれて終わりだった。

やっぱ俺、あいつには勝てねえよ…。

涙目でたんこぶを撫でると、何個もあるクソでかいモニターから、一つの気になる映像を見つけた。

「ん?なんじゃあこりゃ」


表ではいい子ちゃんを装いながらも、心ではつまらない日常に飽きている、仮面をかぶった、いわゆる…。

「面従腹背ってやつかぁ?いや、ちがうか…まあいっか!!」

…しっかしこいつ、やけに気になるな…裏で悪態をつくわけでも無く、友人が嫌いな訳でもなく…。変なやつだな…。


今まで、そういうやつは腐るほど見てきた。だからこそ、そんな人間の裏を見るのはもう飽きている。けど、こいつは違う。こいつは、俺の新しいおもちゃだ!!


早速魔法を使おうと試みたが…邪魔が入った。


「何…やってんの?」

「うわ、姉ちゃん」


しばらくは魔法使っちゃ駄目って言ったよね…?

背中が凍りつくほどの剣幕に、流石の俺もビビる。


「ったく…しっかりしてよね!!あんたは神様!!カルマ・アンダーソンなんだから!しっかり誇りを持って仕事しなさい!!」

「えー、なんでだよ、神様神様って、俺、なんでもかんでも責任転換されて困ってんだよ…」

「仕事もろくにしないやつが、そんな事言うな!!」


姉ちゃんは再び俺にげんこつをかまして、部屋から出ていった。

「いってててて…何なんだよ、手加減もクソもねえなあの女」

結局出ていったあとも悪態をつくカルマ。

一度言われて直さないやつは、結局何回やっても無駄なのだ。


『神様…どうか…助けて、このつまらない日常から、私を……』

そんなときにふと聞こえた。神様…だって?


「はっ!お安い御用さこの野郎!!お前を今、このクソつまらない日常から脱却させてやるよ」



この、偉大な神、カルマ・アンダーソンが。



「ここ…どこ?」

今まで、確か友達と話してたはずなのに…。なんで?誘拐されたの?

私は真っ暗な視界の中、状況を整理しようとした。しかし、頭が混乱して、正常な判断が出来無くなってる。このままじゃ駄目だ。とにかく、何か、目印になる物を…。私は抜けかけた腰を気合いで浮かし、一歩ずつ暗闇から歩き出した。


「う、うーん…どこだ?日本……じゃあ無いよね…?」


少しして、目が慣れてきた途端、私は見たことない周りの風景に混乱した。

動く骸骨、ケラケラ笑うカボチャ、跳ねるスライム。

まあまずどう考えたって日本では無いよね。怖くて下を向く。足もだんだん進まなくなる。怖い…怖いよ……誰か…。


「誰か…」


ドンッ!!

「いっ!?つううう……あ!ごめんなさい!!大丈夫で……えぇ!?」

「あ?誰だお前」


突然ぶつかってしまい、私は顔を上げる。そこには、

真っ赤な瞳、ぎらりと輝く牙、バサりと黒い羽を散らす大きな翼。

もしかして…。


「バ、バンパイア!?」

私が仰け反りながらそういうと、バンパイアはこう言った。

「チッチッチッ、少し違うなァお嬢ちゃん?俺はヴァンパイアだ…バンパイアじゃない。ヴァンパイア」


どっちでもいいだろ。と、微かに思った私の顔を見たヴァンパイアは、私の手を掴んだ。


「な、何ですか?」

「ははん、お前、人間の匂いがするな…もしかしてお前、人間からの生まれ変わりだろう?」


人間からの…?


「に、人間からのって、私、人間なんですけど…」

「はぁ?何言ってんだ?お前はヴァンパイアだろ?」

ヴァンパイアは鏡を私に突き出した。すると鏡の中には、牙や翼を生やした私の姿が…。

な、何これ…。私、私…。


「ヴァンパイアになっちゃったー!!!!」


私は悲鳴をあげる。こんなのこんなの、こんなのって!!!

うおお!!と雄叫びをあげる私を見て、ケラケラ笑う天人、基、神様一人。


「さぁさぁ、これから楽しませてくれよ?俺の玩具おもちゃさん?」


It’s show timeだ。





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