エピローグ もうやらないぜ……
もう、やらないぜ……
昨日、種付けの件で共犯者だった汚れ好きのドワーフのおっちゃんと、先日情報提供してくれた浮浪者のコボルト兄ちゃん。そしてヒュームのわしの三人、ついでにわしらが誘いこんだ有象無象の連中どもを交えて、またしてもレッジョの北郊外にある川の土手の下にあるダンジョンで盛りあったぜ。
このままじゃ、わしの計画成就がヤバいんで人質をとってから、祭壇にて足袋だけになりわしの
わしはダンジョンの地面を踏みしめながら、まずはわしの持ってきた種を少しずつダンジョンの地面に入れ伏兵としてのスパルトイを配置完了したんや。
しばらくしたら、人質の姉ちゃんを取り戻しに来た公証人の兄ちゃんが息をひくひく切らしながら来るし、早くも萌芽しかけたスパルトイが出口を求めて土の中でぐるぐるしている。飛んで火に入る夏の虫やで。
公証人の兄ちゃんの名推理を聞きいてから、お互い神の寵愛を受けし能力者なんでめちゃくそ戦い始めたんや。で……わしが負けるはずがないと思って、色々あってついに追い詰めた公証人の兄ちゃんにわしのマツタケを突うずう込もうと優越感に浸っていると、先に公証人の兄ちゃんがわしの名をドバーっと出して来た。
それと同時にわしは我を失いなんか敗北してしまったんや。
もう人生一寸先は闇まみれや!
それから、後日レッジョの法廷に引っ立てられ、偉そうなじいさんにここで会ったが百年目とばかりドワーフのおっちゃんともども色々罪状を述べ立てられた。
結局、わしは懲役二十年の有罪判決を喰らった。
ドワーフのおっちゃんはそれプラス、所有しているダンジョン閉鎖、差し押さえを喰らったんや。
ああ~~後悔先に立たねえぜ。
しかも、本来わしと種付け契約を結んでいた黒エルフの姉ちゃんの申し立てで、わしが丹精込めて長年蓄えた種は全部損害賠償のため差し押さえを喰らってしまい、わしは今もう気が狂う程気持ち沈むんじゃ。
フンゴジャッロの麻薬の種付け栽培なんて、もう二度とやらないぜ。
やはり、人間悪いことをすると人生最悪やで。
こんな、種付けおじさんの懺悔を聞いてくれないか。
ああ~~早く真人間になろうぜ。
レッジョ北の霊園近くであえる奴なら最高や。
囚人服姿のまま聖なる大地に
自らが汚した大地に
レッジョの裁判所でもあるウェルス神殿にて裁判長エンツォ・ディ・フィオーレにより、タビ・フリードマン並びにドミトリー・ウラジーミロヴィチ・ゾシモフへの裁きが下ったその翌日。
「あの……この間は、どうもありがとう……」
サシャは手料理のキッシュをバスケットに詰め込み、ルロイの事務所を訪ねていた。
種付けおじさんことタビ・フリードマンから救助され、あれから一週間もたっていないがサシャはルロイの顔を見るのが随分久しぶりな気がする。あれから、わき腹をスパルトイに刺されたルロイは病院に運び込まれ、サシャは後に駆け付けたアシュリーらと共に法廷での証人として出廷するなりで慌ただしい数日が過ぎ去っていった。気が付けば、サシャはあれからじっくりルロイと話していなのだった。
「あ……もっと、ごめんなさい。早くに来るべきでしたよね?」
サシャの顔を見るなりルロイは、難しい顔になりしばらく執務机で書類を書く姿勢のまま彫像のように固まっていた。挨拶が遅れたことへの不満、ではないだろうがサシャとしては気まずい沈黙を自らにあると感じ頭を下げた。
「あ……いえ、こちらこそ、あの時は危ない目に合わせて本当になんと貴女に謝ったらいいか」
恐縮しているサシャの姿を見て、ルロイも呆けたように我に返り頭をがしがし掻きながら困ったように笑っている。サシャの知るいつものルロイの顔がそこにある。
思わずサシャも自然と笑みを取り戻す。
「結果、無事でなんともないし、本当に何もされていないので」
サシャはあの日。ルロイと種付けおじさんの対決が終わり、ゾシモフたちを蹴散らし祭壇に駆け付けたアシュリー達によって救出された。サシャは、アシュリーに叩き起こされるなり「大丈夫か、あのオッサンに何されたぁ!」と十回ほど
「テメェ、コンニャロ!ついに強姦に殺人までやりやがって。ここでテメェの腐れマラ叩き潰して、そんで叩き斬ってからネズミの餌にしてやるぜぇ!!」
サシャはかすれ声で自分はなんともないと何度も言ったはずだが、頭に血が上った脳筋の耳には届かなかった模様である。
血を流して倒れるルロイと縄で縛られ気を失ったサシャを見て、アシュリーは種付けおじさんによってルロイは殺され、サシャは
「ヒャアアアーーー!オメェの種付け工場本日でぇ、ぶっ壊しぃい!!」
サシャは語気を強めて何もされていないと叫ぼうとしたが、更に戦闘で高揚し悪乗りしたギャリックの
その後、半殺し状態にあった種付けおじさんはアシュリーとギャリックの度を越したリンチにより全殺し状態にされるも、生命を司るスペルマの加護のもと
なお、アナは後方であわあわと悪乗りする二人の脳筋馬鹿コンビを見守り、裏切ったディエゴはというと、どさくさに紛れすでにその場から逃げ出した後だったという。
改めて自らが気絶した後の経緯をサシャから聞かされて、ルロイもまた愉快そうに笑ってみせる。まったく、あの人たちらしいなと。
「ロイ……傷はもう大丈夫なの?」
「ええ、幸い傷は浅かったみたいで仕事に支障はありません」
心配そうなサシャの声に、ルロイはわき腹の辺りをそっと撫でる。すでに傷口は縫ってあり、腹には包帯を巻いていつも通りの生活に戻っている。
「さっき、難しそうな顔してたから。てっきり、傷が痛むのかなって……」
サシャの言葉に、ルロイは再び困ったようなほろ苦い顔になる。
「僕なりの、せめてもの償いですかね……」
「え……?」
「随分昔、ちょうど僕がレッジョに来た時ですかね。とあるダンジョンの最奥で死の淵から救ってもらったことがあるんです。しかし、その恩人は僕を救ったせいで……」
「ロイ……」
サシャには、まだまだ知らないことが多すぎるルロイのことも、このレッジョのことも。目を伏せるサシャを気遣うようにルロイは温かく微笑んでみせる。
「だから、嬉しかったんです。自分のせいで犠牲になったかもしれない人が、確かに今健在でいてくれて。これが夢でなくて、本当によかったと……」
やや上ずった声で
「ええ、私ならちゃんとここにいるわよ」
ルロイもまた自分の父マティスと同じく、過去を引きずり戦いここまできた人間だと。サシャは感じ取った。いつか、自分にそのことをルロイが話してくれる日が来るのだろうか?そんな疑問と期待もすぐにサシャの胸中で淡く消えた。ルロイが償いと言うのなら、自分は恩に報いるためにまず何かをすれば良い。
「さぁ、冷めないうちに召し上がって下さい」
「いつも助かります。こっちは冷めてますが一杯どうですか?」
サシャはバスケットのキッシュを取り出し、ルロイは冷めた紅茶を申し訳なさそうにサシャに勧める。
そう。きっと、人は終わらぬ限り明日を生き続けるのだから。
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