エピローグ 祭りの後にて
そして、数日後……
あの後パウルとモニカらは遺産を手に入れられなくて
事業家らしいがめつい前向きさと言うか懲りてないと言うか。
ルロイは内心呆れつつも、
レッジョの人間らしいなと不思議と頼もしく思うのであった。
「昨日のあの花火、マジパネェよ!本当、凄かったぜ!」
「誉れ高きヘルマン氏の後継者賢者リーゼ・ペトラ・メルケル万歳!」
「魔女だの淫売だのと言ってごめんよ……とにかく、今までアンタを誤解してたんだ!」
市井の風評とやらも著しく変化に富むものらしく、
リーゼの忌まわしい評価も一夜明けると一変しているのだった。
数日後、
ルロイの事務所を訪ねてきたリーゼはどこか浮かない表情でいることがルロイには気がかりであった。
「リーゼさん。なんかすごい人気ぶりですね」
ルロイの言葉に、リーゼは自嘲気味に笑った。
「ああ、爺さんの気持ちがわかったよ。こりゃ確かに嫌になるかもねぇ」
それまで愉快そうに切れ長の瞳を切なげに細めしおらしく物思いに耽っているらしかった。
心なしかルロイには、
今のリーゼが「これでよかったのか?」と天に召されたヘルマンに問いかけているようにも見えた。
それも、筋金入りの研究者であるリーゼには似つかわしくないと自覚しているのだろう。その切なげな表情は一瞬のことであった。
次の瞬間にはいつものふてぶてしい勿体つけた表情に戻っていた。
「と言う訳で、
今度はあの猟奇的花火を題材にして誰でも広範囲に及ぶ上位攻撃魔法を公示鳥の原型である骨組みに動力源として火属性の魔法を込めて相手方へ特攻させる、
その名も「
ルロイ・フェヘール?」
切れ長のエメラルドグリーンの瞳が新しい悪戯でも思いついたかのようにルロイを一瞥する。
どうやら懲りていないのは、やはりパウル達よりもリーゼらしい。
「もう好きにして下さい」
「あっそ……ならば、好きにさせてもらうぞ」
ルロイの投げやりな言葉に
「そいや!」
その
瞬間、
「どうだ、あの花火ほどじゃないが、なかなか猟奇的だろう!私の自信作なんだ」
盛大な爆発音とともに紅蓮の炎が事務所の屋根に広がってゆく。
「ちょっと。言ってるそばから事務所の屋根焼かないで下さい!」
今日も今日とてこんな日常が続いてゆく。
そんな慌ただしい珍事続きの「レッジョの日常」がルロイは存外、
うんざりしつつも気に入っていたのであった。
つまりはこういうことだ――――
今日もレッジョの一日が始まる。
なんという事はない。
ルロイは苦笑いの底に、
この街とそこに住まう人々への腐れ縁のような親愛を見出していたのであった。
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