言の葉の祈り音
維 黎
Ⅰ
昔から雨は嫌いだった。
湿った空気、
飼っていた猫が死んだのも雨の日だった。
第一志望の大学に落ちた日も雨。
大好きな祖父が亡くなった日も。
「――雨なんて大ッキライ」
知らず、
人の波に流されるまま地下鉄の出口から外へ出た途端、風に乗った
自分を追い越していく人の波。
同じ日々の繰り返し。
朝早くに起きて、洗顔にスキンケア。スマホをチェック、着替えてからメイクにヘヤセット。一人で朝食をさっと済ませて部屋を出る。
着飾った衣服で出勤出来れば、多少気分を
新入社員の頃なら、リクルートスーツを使い回しても問題なかったが、多少なりともキャリアを積めば(歳を取るなんて言い方はナンセンスだ)ビジネススーツを着こなして見せなければならない。派手なのは論外。だけど地味過ぎるのもダメ。
「――はぁ」
一つ、ため息が出る。
空は天気予報がにわか雨と言っていた通り、灰色の空ではなく白みの強い雲が
ただ、慌てふためくような感じが、何となく雨に"負けた"気がして、一歩踏み出すのが
時間ギリギリ、というわけでもないが十分に余裕があるともいえない。
何かきっかけがあれば踏み出せるのに。
ふと、誰かの肩がドン、と当たらないかな、なんて思う。普段なら怒るけど今だけは許してあげる――なんて、ちょっと何様気取りな思いも沸いてくる。だけど、そう都合よく事が起こるはずもないので、肩に下げたバッグをごそごそして音楽プレイヤーを出す。といってもイヤホン型のプレイヤーなので、見た目はイヤホンそのものだけど。
スマホで音楽を聴いているときに電話が鳴るのが嫌だし、かといって小さいとはいえ端末を二つも持つのも
音楽でも聴いてテンションを上げていこう、という建前のちょっとした現実逃避。
前奏はオルゴールのような軽やかな音。
続くピアノがより一層音の世界へと導き、そこにドラムも加わって聴く者の
さまざまな楽器の合奏が現実を
(――あれ? こんな曲入れてたっけ?)
そして――
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