ハイパーメディア共感力をてにいれたぞ
ちびまるフォイ
共感力っていうか、共鳴力?
クラスで飼っていた金魚が死んだ。
私は飼育委員だった。
「かわいそう……」
「昨日はあんなに元気に泳いでいたのに」
「世話もちゃんとやってたのにね」
「ねぇ、もう埋めてあげない?
このまま水槽に置いておくのは良くないよ」
私の一言でクラスは一気に火がついた。
「金魚が死んじゃったのに、なんでそういうこと言えるの!?」
「飼育委員はあなただけじゃなくてチカちゃんだってそうなのに!」
「ちょっとはチカちゃんの気持ち考えてよ!!」
「え……」
「あなた、飼育員なのに悲しくないなんておかしいよ!」
「涙も流してないじゃない!!」
「本当はあなたがわざと死なせたんじゃないの!?」
その日から、私は影で無感情女と呼ばれるようになった。
思えば昔から感情表現が苦手で、
親からもなにを考えているかわからないとかよく言われた。
これは私の悪い部分なんだろう。
「先生、私は普通じゃないんでしょうか。
ちゃんと悲しいのに、みんなみたいに涙を流すこともできないんです」
「それじゃあ、これを試してみて」
試験管に見たことない色の液体があった。
先生に言われるままにぐいと飲み干す。
「……これで治ったんですか? あまり変わってないような……」
「薬は時間とともにきいてくるわ」
その日は特に感情の変化はなく、翌日から変化は起き始めた。
男子がクラスでふざけたときに、
友達の大事にしているストラップを踏み潰してしまった。
「わ、悪ぃ、ごめんな」
友達はしゅんとしたまま何も答えなかった。
それを見ていると、自分の気持ちまで握りつぶされるように苦しくなる。
「な、なにこれ……なんでこんなに辛いの……!」
見ていた他の女子が男子を攻め立て始めると、
それに共感して私の感情が怒りへと転化される。
「なに考えてるのよ!! 謝って済む問題じゃないでしょ!?」
「弁償しろっていいたいのかよ」
「大事なストラップを壊されたらどう思うか考えて!
弁償するなら、壊された友達の気持ちを弁償しなさいよ!!」
男子を相手にガンガン詰め寄り、相手は何も言い返せなくなった。
私の感情爆発は女子票を集めいつしか仲間はずれも解消された。
「ねぇ、今日の放課後、映画見に行かない?
ジャミーズの新作恋愛映画があるの」
「うんいいよ」
恋愛映画を見るのは久しぶりだった。
登場人物の気持ちが自分のように感じてボロボロと涙を流す。
映画が終わってもまだ涙は止まらなかった。
「だ、大丈夫? そんなに感動したの?」
「うん……うん……二人の気持ちに共感しちゃっって、
途中から見てられなくなるほど辛くなったけど感動して、それで……」
私に足りていなかった人への共感力。
それがついに満たされていることに気づいた。
みんなが笑っていると、私も笑ってしまう。
みんなが泣いていると、私も泣いてしまう。
みんなが怒っていると、私も怒ってしまう。
誰かの感情の揺れ動きをもらうと、私は共感して同じ感情になる。
私は誰よりも人の気持ちがわかれる女の子なんだ。
「こないだ見たドラマ、超感動したよね! ね!」
最近はドラマが好きになり、ハンカチなしでは見られない。
「……あ、そ、そう? 私はあんまりだったなぁ。
なんかヒロインに感情移入できないっていうか」
「え!? どうして!? どこが!?」
「がんで余命数ヶ月で、体もろくに動かせないのに、
わざわざ彼氏の応援とか……なんか見てて冷めちゃった」
「なんでそんなこと言うの!?
ヒロインの気持ちにもなって考えてよ!
大好きな彼のために必死に自分と戦って……!!」
「ちょっ、声が大きいよ、電車だよ、ここ!」
「信じられない! 人の心あるの!?
あのドラマを見て冷めるなんて、心が寂しいからだよ!
感情がある人なら絶対に感動するでしょ!?」
あまりの感情の高ぶりに声が大きくなり、早口になる。
すると、社内の乗客の気持ちが私の心に伝わってくる。
(ったく、朝からうるせぇな……)
(隣のやつ、さっきから貧乏ゆすりうぜぇ……)
(あー、また電車遅延だよ。今日も遅刻だ……)
「なに……これ……」
関係のない怒りがこみ上げてくる。
私は見ず知らずの他人の気持ちに共感してしまう。
『まもなく~~駅に到着します。
多くの乗り降りがございます。入り口をお開けください』
電車が停まると、ホームから一気に人が流れ込んでくる。
急いでイライラしている人。
電車に乗るのが嫌なのか憂鬱な人。
良いことがあったのか嬉しそうな人。
友達と楽しそうに話している人。
なだれこむ人すべての感情に共感してしまい、気持ちが悪くなる。
「うっ……!!」
涙を流しながら、はらわた煮えくり返るほどムカついて。
楽しいはずなのに悲しくて、嬉しいのに大嫌い。
ダメだ。
もうダメだ。
私が今、なんの感情を持っているのかわからない。
「うええええええ!!!」
「「「 ギャャーーー!!! 」」」
こらえきれなくなり電車で吐き戻してしまった。
戻したそれは、いつだったか私の飲んだ共感力薬の色をしていた。
その1件以来、もうドラマを見て涙を流すこともなくなった。
すっかり以前のように戻ってしまった。
学校につくと、クラスでは人だかりができていた。
「かわいそう……」
「カメ吉死んじゃったんだね……」
「もっと生きてほしかった……」
死んでしまったカメ吉を前にして、みんなが悲しそうにしていた。
「ねぇ、カメ吉を埋めてあげたら?」
私の一言に、女子全員が振り返ると、その顔は怒りで満ちていた。
「なんでそんな事言うの! 少しは気持ち考えてよ!」
「本当は辛いのにみんな耐えてるんだよ! 人の気持がないの!?」
「どうしてそんなに無神経なことが言えるの! 信じられない!!」
もう共感することはなかった。
ただ、純粋な自分の気持ちが残っているだけだった。
「あのさ、私がそうやって言われてどう思うか考えたことある?
そういうこと言われた人の気持ちに気づけない、みんなのほうがおかしくない?」
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