22-2
午前十二時十分、ビスマルクはヒュベリオンの向かっていたゲーセンに到着する。店の外からも熱気が漏れていそうなほどに、ヒーローブレイカーの周囲が盛り上がっているように思えた。それもそのはず、ビスマルクの到着前にヒュベリオンが既に到着し、既に店内へ入っていたのである。
『君たちがアルストロメリアか――直接会うのは初めてかな?』
遂にアルストロメリアのメンバーの前に、ヒュベリオンが姿を見せた。これは周囲のギャラリーも衝撃の一言だろう。ARメットを被っているので素顔が見えないので、ある意味でも本物かどうか疑わしいのだが。
『私の名前はヒュベリオン。君たちも知っているが、ダークフォースの元管理人だ』
何か違和感を持つような発言もあるが、そこはアルストロメリアのメンバーも流す。
「元? 今も管理人の間違いでは?」
「ダークフォースの管理人だと?」
「その本人が、直接姿を見せたのか」
「これもホログラフなのか?」
ギャラリーから声が聞こえるが、それには首を横に振る。どうやら、否定したいらしい。
(どう考えても何かある)
アサシン・イカヅチは周囲の発言もあるのだが、何かおかしいとは感じている。しかし、ここへヒュベリオンが来た事自体が明らかにおかしい。
『周囲は偽者と思っているようだが、私は本物だ』
本物であればバイザーを外してみろという様な空気もあるのだが、バイザーを外す気配がない。
『本物のヒュベリオンだとして、何の用だ?』
アルビオンも、この状況を呑み込めていない為か目の前のヒュベリオンに尋ねる。
『私は宣言をする為に来たのだ。君たち、アルストロメリアを倒す為にも』
その発言は周囲の空気を凍らせるほどのレベルだったのは間違いない。
『君たちはやり過ぎたのだ。対立はあっても、ある程度は許容していたが――それを全てなくそうという考えは、見過ごせないのだ』
これがヒュベリオンの本性なのか? 周囲は凍るのだが、途中で姿を見せたビスマルクもこの発言を聞いて驚くしかなかった。どちらにしても、この対決は避けられない。ヒュベリオンの理想とアルストロメリアの理想は同じでも、お互いに方向性は全く違うのだから。
「あなたの目的は、一体?」
この発言をしたのは、先ほどまでヒュベリオンの発言に驚いていたビスマルクだった。この発言に気付いたイカヅチもビスマルクの姿を目撃したので、二重の意味でも驚くしかない。
『目的か。それは君たちも一番よくわかっているだろう?』
「日本市場におけるイースポーツの発展――」
目的と言われ、照月(てるつき)アスカは、何となく気づいていた。イースポーツ界の電撃となるべく動き出していたのが、ヒーローブレイカーだった事もあって。 それに加えて、ヒュベリオンの言いたい事に関しては何となく把握している。その理由は、彼がイースポーツを広めようとしている熱意が感じられたから。
『成程。君は把握しているという事か――照月アスカ』
怪文書にも等しいウェブ上の記事、まとめサイト、掲示板等を調べていたヒュベリオンは思わぬ場所で照月の名前を知った。そして、彼女がゲームに対してどのような印象を持っているのかも。
『ゲーム作品である以上、勝者と敗者が存在する。そして、意見が別れるのも当然あり得るだろう』
「確かに、それは否定しない。反対派が存在しないようなゲームは、どう考えても信者しか存在しないとも言われる事も」
『だからこそ、完全に批判的な意見のないゲームが生み出せるような環境は夢物語なのだ。それを実現させるのは――』
「不可能じゃない。やろうとすれば、みんなの協力が得られれば不可能も可能に出来る!」
『それを実現させるのは現実的ではない。だからこそ、イースポーツを広める為にも適度な争いは不可欠なのだ』
「暴力や争いでは何も生まれない。憎しみだけを繰り返すような空気は、コンテンツ流通に必要ないはずよ!」
ヒュベリオンと照月の議論は平行線だった。同じようにイースポーツを広めようとする考えは同じなのに、その方法等は真逆と言ってもいい。
この話に関しては、現段階で秋葉原にいる天津風唯(あまつかぜ・ゆい)には伝わっていないはずだが、思わぬ所で彼女の耳にも入っていた。何と、一連の議論を生配信していた人間がいたのである。その配信者は動画投稿者や有名実況者ではなく、悪目立ちしようとするパリピだった事が――。
(何とかして二人を止めないと、大変な事になる)
しかし、今から草加市へと行けるはずはない。瞬間移動でもない限りは。その状況で彼女の視線に入った物、それはヒーローブレイカーのAR版筺体である。
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