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 ヒーローブレイカーは武器を使うプレイヤーが多い為、武器必須のような流れがSNS上にあった。しかし、実際にはESPも素手で戦っているプレイヤーもいる。こちらの場合は超能力を武器にしているという具合だが。


『ハンデを拒否したのはそちらである以上、こちらも手加減はしない!』


 アルビオンの両手には何も装備している様な気配もなく、明らかに素手と分かる物だ。特撮ヒーローモチーフなので、素手前提でデザインされた可能性もゼロではないのだが――。


『結局は、こうなるか。やりにくいステージよりも、こちらの方が有利と思ったのか』


 バトルステージはアルビオンからも特に指定は不要と言う事だったが、結局はファンタジーコラボステージではなく、草加市内となる。見覚えのあるような街並みが周囲に表示され始め、アバタープレイヤーである天津風唯(あまつかぜ・ゆい)とアークロイヤルと名乗るプレイヤーも姿を見せた。天津風は白衣にARメットと言う格好だったが、アークロイヤルは白騎士を連想させるようなアーマーを装着したヒーローらしい。


(なるほど――)


 アークロイヤルのアーマーデザインを見て、納得をしたのは木曾(きそ)アスナである。彼女のARアーマーはARメットにマント装備、アーマーは軽量の物に変更されていた。これらのカスタマイズでスピードは向こうよりも上がっているだろう。それと引き換えに防御力が減っているが、それを気にする様なカスタマイズにする余裕はない。


 イースポーツ大会ではスピード勝負でレイドボスを叩くというタイプのカスタマイズが拡散しており、それを踏まえるとパワードスーツ系は不利と言えるような状況だった。


(アークロイヤルも、自分と似たようなコンセプトのカスタマイズなのか)


 照月(てるつき)アスカは自分のアーマーとデザインこそ異なるが、アークロイヤルのカスタマイズには興味を示す。彼女が西洋騎士に対し、照月はSFモチーフのアーマーだったからである。秋月千早(あきづき・ちはや)も、外で様子を見ているだけだがアークロイヤルには驚きを見せているようだ。


 残る一人の相手プレイヤーはアルビオンと類似したヒーローモチーフのアーマーだった。アルビオンが巨大ヒーローベースとするなら、向こうは戦隊ヒーローモチーフと言うべきか。



 バトル開始と同時に何とレイドボスも移動を始める。その速度はスローであるのは間違いないが、固定ボスではないので狙撃ポイントで狙撃する等の戦略は使えない。


『まさか、こう言う時に限って新規レイドボスか!?』


 アルビオンも新規レイドボスだという事を察し、集めた情報があまり役に立たないと考えた。


(特撮ヒーローモチーフで、レイドボスが怪獣や怪人だとしたら、それこそ当てつけに近いか)


 アルビオン達のプレイ光景を動画サイト経由でチェックしていたのは、近場のコンビニで何かを待っていたセンチュリオンである。彼女はアルビオンに対し、メッセージを送ったつもりではあるが向こうがそれを受け取ったのかは定かではない。


(向こうがアレにどういう反応を示したのかは、こちらの関する所ではない。しかし、ヒーローブレイカーの本当の意味――それは向こうも分かっているはずだ)


 そして、スマホの時計機能をチェック後にコンビニを離れて、何処かへと徒歩で移動を始める。彼女の向かっている先にはゲーセンがあるのだが――。ちなみに、中継動画を見つつ移動しているのではなく、動画を見ていたスマホはバッグにしまっていた。これは歩きスマホの事故でSNS炎上をしないように心がけているのだが、これが本来の当たり前の行動である。


「いつから、ごく当り前なルールを守れないような人間が注目され、SNS炎上するような時代になったのか」


 センチュリオンは、それを阻止する為にも動いていたはずなのだが――何処から方向性が変わってしまったのか。



 その後のバトルに動きがあったのは一分を過ぎた近辺だった。それまでは硬直状態が続いたり、アンノウンを撃破してのスコア稼ぎがメインだったと言えるのだが。今回のレイドボスが固定ボスではなく、動く怪獣タイプのボスだったというのも硬直状態の会った原因かもしれない。


 アルビオンに合わせて怪獣と言うレイドボスになったのではなく、これが新規追加のレイドボスらしい。両者にとっても予想外の展開だろう。だからといって様子を見続けて時間切れではギャラリーも興ざめするのは間違いない。それに加え、SNSで炎上するのも目に見えている。


『君たちでは、この怪獣を倒す事は出来ないだろう』


 アルビオンは、怪獣の外見を見た上でこの発言をしている。更には――。


『勝負はすでに見えているも同然だ。君たちは、何があっても絶対勝利する。そう言うフラグの元に集まったチームなのだろう?』


 このセリフの意図は不明だが、天津風にとっては虫唾が走るような物だったらしい。まるで、自分達が負けるのは明らかなので手加減をすると遠まわしで宣伝している様な物だ。


(あの程度の煽りで反応すれば、アンチ勢力等に民度が低いとSNS炎上するのは目に見えている)


 天津風はアルビオンの発言を聞いていたのだが、それにいちいち反応すれば冷静でいられなくなると考える。向こうもそうした意図があっての発言なのかは不明だが、何かを察していたのは確実らしい。


(とにかく、個人的な復讐等をゲームに持ち込み、ストレス発散に使うのは――もってのほかだ)


 呼吸を整えた天津風は、ARバイザーのマップを確認してレイドボスの場所を把握した。現在位置からレイドボスの方へ向かうのは、最低でも二十秒はかかる距離としては遠くないだろう。しかし、アンノウンも近くに配置されており、それを排除するのを含めての時間が二十秒と言う計算だった。


 

 照月の方は順調にレイドボスの方向へ向かっており、一番近いのは彼女と言う事になる。しかし、その彼女でも十メートル以上に及ぶだろう怪獣タイプのレイドボスは、明らかに苦戦する状況だった。


(まずいな。レイドボスの弱点は前進だとしても、近距離前提武器では――)


 照月は簡略的な分析をしつつも、周囲を見回すなどして友好的な攻撃手段を考える。しかし、パワードスーツではESPのように飛行能力がある訳ではないので、遠距離武器の方が有利に見えた。下手に懐に飛び込んだとしても踏みつぶされたりすればワンパンで自分のライフがゼロ、所定エリアからの再出撃ナノは決定的である。


 それでも、照月は別のゲームで応用出来るテクニックがあるのではないか――と思い始め、遂には右手に新型のロングソードを構えた。


(近距離武器でも、こうした戦闘方法がある!)


 彼女の出現させたロングソードは、一振りした途端にビーム刃の部分が鞭のように形状が変化する。その長さは一メートル位だが、向こうの歩くスピードを踏まえれば充分な距離とも言えなくない。


「例え相手が新規レイドボスでも、無敵と公式が明言していない限り――倒せない訳じゃない!」


 その剣は、まるでロープであるかのように照月の振り回しに対応していた。そして、彼女は鞭を振るうかのような腕の動きを披露し、レイドボスのライフを削っていく。巨大な足を目の前に振りおろそうとした際には後退して鞭の攻撃を行い、移動する意思がない場合にはそのまま剣へと形を変えての連続斬撃を披露した。これにはギャラリーも驚きの声がある一方で、プレイを間近で見ていたアークロイヤルも無言で驚く様子を見せる。


(あれは電撃鞭――いや、蛇腹剣か?)


 アルビオンは照月の使用している武器に見覚えがあった。ウィキ等での情報程度だが、ヒーローブレイカーにも実装されたと話題になった武器である。実際に使用するにはある程度の資金が必要だという事を聞いているが、それを向こうは知っているのか? むしろ、知らなかったら武器を使用してはいないだろう。


(あれだけの動きは、どう考えてもあのゲームじゃないのか!?)


 そして、アルビオンはあるゲーム作品の存在を思い出す。あのゲームには鞭を自在に操るバンパイアキラーと呼ばれる人物が登場し、ゲーム難易度も含めて人気が高いという。その動きをトレスした訳ではないだろうが、照月の鞭捌きは正にゲームの主人公であるバンパイアキラーその物だ。


『奴は本気のゲーム好きだというのか? ゲームクリアの為ならばチートの様な不正手段を用いずに今まで経験してきたゲームで――?』


 アルビオンが照月の強さを思い知る事になった瞬間、そのプレイに彼は目を奪われた。自分のやってきた事が無駄だったのか? それとも自分の知識だけでは彼女の領域に到達できなかったのか? どちらにしても、ゲームの決着はすでに付いていたと言ってもいいだろう。最初から勝負を捨てていたにも等しいような思いしかなかったアルビオンに、ゲームを思いっきり楽しもうという照月の領域に到達しようなど不可能に等しかった。

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