第21話:決着のアルビオン
四月二十五日、様々な動画サイトやまとめサイトをチェックして自分のやっている事を後悔している人物がいた。
(やってきた事は全て無駄だったとでもいうのか?)
ゲーセン前でセンターモニターではなく、自身のARバイザーに表示された情報をチェックしていたのはアルビオンである。彼は既にヒーローブレイカーからは離れた位置にいるのだが、ダークフォースを根絶させるのが自分に出来る事と思って、自身の考察サイト等を立ち上げていた。
しかし、現実は更に厳しい物だったのである。彼の発言は別の意味でも歪められ、それこそ過去に起こった超有名アイドル商法を正当化する様な一種のコピペに流用されていた。明らかに彼らがやっている事は犯罪行為である事は間違いなく、ガーディアンが駆けつけてもおかしくはないのだが、何故か今回はガーディアンが動いていない。
動けないのではなく、おそらくは別件で動いているので放置されているのが正しいのだろう。これに対し、アルビオンはある決断を迫られていた。
(いいだろう。そちらが動かないのであれば、こちらにも考えがある)
悪質なコピペを生み出して悪用する勢力を自分で駆逐し、この世界を無法地帯にしようという勢力に対して制裁を行う事――。
四月二十七日午前十一時、草加市のゲーセンを訪れたのは照月(てるつき)アスカ、秋月千早(あきづき・ちはや)、木曾(きそ)アスナ、アサシン・イカヅチ、長門(ながと)ハルの五人である。そして、ゲーセン内に入るとヒーローブレイカーの一角がやけに盛り上がっているのが気になっていた。ギャラリーの数は何時もと変わりがないのだが、熱量が人数以上の盛り上がりを見せているのが、その証拠だろう。
(あの人物は、アルビオン!?)
イカヅチは即座に気付く。プレイヤーネームを見るまでもなく、そのARアーマーの外装を見れば明らかに分かるだろう。特撮チックなデザインのアーマーは数あれど、あそこまで原作再現に近いカスタマイズでプレイしているのは彼以外にあり得ない。
「開店してから数分後位からプレイしているようだが、大丈夫なのか?」
「ここはイースポーツ大会の予選会場ではない。特に店舗ルールを守っていれば問題はない」
「ヒーローブレイカーはVR版の方が混雑していて、ARの方はプレイヤーが少ない。ここにいるのもギャラリーが大半だ」
「そう言う物なのか?」
「過疎化しているような機種だと、こう言う事も日常茶飯事だと聞く。台の占有をしている訳ではなく、プレイヤーがいれば譲っているから問題はないだろうな」
どうやら、アルビオンは周囲のギャラリーの話によると開店から既にプレイしているようだ。その一方で、他のプレイヤーがいれば優先して譲っている。彼としても新規プレイヤーは歓迎すべきお客様と言う認識だろう。
(一体、彼は何を狙っているのか)
照月はアルビオンのプレイスタイルを見て、何かを待っているとも認識する。その合間に他のプレイヤーが来た場合はプレイを譲るという事なのだろう。AR版は最大六人まで同時プレイが可能だ。オンライン対応になっていれば、その六人が違うフィールドのプレイヤーとマッチングする訳ではなく、自動的にARフィールド内でマッチングが成立する。
これがAR版とVR版で決定的な違いと言えるマッチングシステムなので、上位ランカーがプレイしている際には他のプレイヤーが入りたがらない現象が起きているのだろう。
「六人同時にプレイを開始すると、AR版だけは独自にマッチングを成立させてVR版とはマッチングしないようになっている。それが――」
秋月も他のプレイヤーが待機している様子を見て、独自のマッチングシステムに関して考えていた。アルビオンが他のプレイヤーを発見し、プレイを終了する際に譲っているのはこれもあるのかもしれない。
アルビオンが対戦しているのは中堅所のプレイヤーで、千位以内に入るプレイヤー三名だ。しかし、それをアルビオンが動じずに対応しているのは彼の順位が相手よりも高い事が由来するのだろう。
(ベスト五〇〇以内――!?)
ランキング称号がアルビオンのネーム上に表示されているのだが、その称号は五〇〇位以内限定の称号である。これに驚いた長門の現状の順位は、五〇〇〇位にも及ばないだろう。それ位に相手としては圧倒的な実力を持っていると言えるだろうか。
「あの動きは圧倒的だ。まるで、スタントマンでもやっていたかのような――?」
木曾は、ふと何か引っかかる事を自分で発言した様な――。それこそ、目の前の人物の正体に直結する様な事を。
「それもそのはずだ。彼は特撮番組でも有名なアルビオンを演じた俳優でもある」
イカヅチが木曾に彼の正体を明かすと、それと同時に向こうのバトルも終了した。結果としてはアルビオンのチームが圧勝していた。スコアは言うまでもないが、相手とはダブルスコアと言うレベルで圧倒する。これほどの人物に自分達が勝てるのか――木曾の手は震えていた。
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